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小さな頃から困ってる奴を放っておけなかった。どこでひねくれたかは知らないが、その本心だけは変わっていないらしい。
人間、本心からの行動なら、覚悟はあっさり決まってしまうものだ。
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利庵市 揺間町、関東沿岸にある中型都市。
その暗い路地裏にて、高校生ほど気弱な少年を、彼と同じか少し上のガラの悪い学生が囲んでいた。学生達は少年に乱暴につかみかかり壁に押しつけるなどをしながら脅しをかけている、要は不良がカツアゲを行っているのだ。
「いいじゃねえか、少しくらい寄越してくれてもよぉ」
「い、イヤだよ……やめてよこんな事……」
「おうおう意外と生意気言ってくれるねぇ? こりゃもっと痛い目見ないとわからないかな?」
オドオドとした少年の態度は不良達に格好の餌食として映ったのだ。
嫌がる少年を余所に不良の一人が手を上げようとした時、
「やめてやれよ、弱い者いじめほどみっともないことはねぇぞ」
それ遮るように誰かが声を発した。一同が声の方を向くと、そこには制服を着崩した目つきの悪い少年が立っていた。
「た、辰飛君」
「お前もよく面倒に巻き込まれるなぁ」
辰飛と呼ばれた少年はそうこぼしながら歩み寄ってくる。
「なんだてめぇ、コイツの知り合いか?」
「まぁそんなとこだ。それよりもそんなことやめろよ、『俺は情けない奴です』って自分で言ってるようなもんだぞ?」
「言ってくれるじゃねぇか、上等だお前からやってやるよ!!」
「辰飛……!? やめろ揺間高の辰飛はヤバい!」
その名前に覚えのあった仲間が制止しようとしたときにはもう遅く、殴りかかった不良の拳をやってきた少年――辰飛リョウは容易くかわした。不良は慌てて体勢を直そうとするもその隙に顔面を殴りつけられ、さらにひるんだところで腹に強烈な蹴りを食らい突き飛ばされた。
「なんだコイツめちゃくちゃ強えぇ……!」
「だから言ったじゃねえか! 揺間高の辰飛って奴が俺らみたいな連中みつけてはボコってるって噂知らねぇのかよ! とにかく逃げるぞ!」
「クッソ! おぼえてろよ偽善者!」
逃げる不良達を気に留めずリョウはカツアゲを受けていた少年――相馬トオルに声をかけた。
「大丈夫か相馬」
「うん、ありがとう辰飛君」
「そんじゃーな。次からは気をつけろよ」
辰飛リョウ、16歳の高校生。無愛想な言動と態度から周囲に距離を取られがちだが、不器用ながら根はまっすぐな性格をしている。
しかしその性格に加え腕っぷしも強いこともあり、よく不良の相手をしては因縁をつけられている。
「まったく、また面倒ごと増やしちまったな……」
今回もそういった因縁を増やしてしまったことをぼやきつつもそれを気にする様子もなく帰路につく。それが彼にとって変わらぬ日常だからだ。
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「ハァ……またやっちゃった……」
そう溜息を吐きながら帰り道を歩くのは先ほどカツアゲを受けていた少年、相馬トオル。
気弱な性格の彼は不良に絡まれることも多く、その度幼馴染でもある辰飛リョウに助けられてきた。
幼いころから変わらぬ性分と毎度友人に迷惑をかける自分に彼は辟易していた。
「僕にもっと自信があればな……」
うつむきながら歩いたこともあり前方にいた人物に気づかずぶつかってしまう。
「あっと……す、すいませ……」
ぶつかったことを詫びようと前を見ると、そこには黒い帽子にコートを纏った長身の男が立っていた。
帽子を深くかぶり、顔の見えない男の放つ異様な雰囲気にトオルは尻込みしてしまう。
「え、あ……!」
「おや? おどろかせてしまったようだね。これは失礼」
「あ、いえ、こちらこそすみません」
おびえながら会釈するトオルを横目に男は話し始める。
「時に少年、君は何か悩みを抱えているね? それも大きなヤツを」
「な、なんでそんなこと……」
「たまたまだが先ほど君がカツアゲされている所を見させてもらったんだ。察するにずっとイジメられ続けているんだろう? 私が手助けしてあげようじゃないか?」
「……!? じゃあ後をつけてきたんですか!?」
警戒するトオルに対し、怪しさを隠しもせず男は続ける。
「やや、誤解しないでくれ少年、私は本当に君を助けたいだけなんだ。リンチ? カツアゲ? その臆病な性格のせいでいろいろされてきたんだろう? そんな現状を変えたくはないかい?」
「で、でも……」
「それともあのヒーロー君にこれからも頼っていくつもりかい?」
痛いところを突かれ何も言えなくなったトオルに対し男はたたみかける。
「彼はもしかしたら君のことを迷惑に思っているかもしれない、そのうち助けてくれなくなるかもしれないじゃないか。それに君だってできれば彼の力を借りたくないんだろう?」
トオルは完全に黙ってしまった。対して男はとどめとばかりに話を続ける。
「変わりたいと思っていても現実はそううまくいかない。そんな報われない君のために、私からコレをプレゼントしようじゃないか」
そう言いながろ男は懐から腕輪のようなものと小さなプレート状の何かを取り出した。
「これは……?」
「コレを使えば君をイジメてきた奴らを見返せるし、助けてくれた人を逆に助けることだってできる! これからは歯がゆい思いをしながら助けを待つだけじゃない、君がヒーローになる番なんだ!」
「僕が、ヒーローに……?」
少年は男に促されるまま腕輪を手に取った。獣が獲物を捕らえた様な、そんな笑みを男が浮かべているとも知らずに。
初投稿です。流行傾向を無視して書きたいものを書きました。
至らぬとこの多い初心者ですので誤字脱字などの指摘でも単純な文句でもいただけると幸いです。