Prologue 1 ミヤコ
『ミ、ミヤコさん!こ、今度僕とご、ご飯に言ってもらえませんか!?』
誰が見たって緊張しているのがバレバレのその男の言葉に対してミヤコと呼ばれた若い女性は困惑して答える
『あ、あの〜あなた..お名前は?』
皮肉のようにも感じられるこの言葉でも、彼女の発した声色からは一切の悪意も感じられない。自分が名乗ることを忘れていたと気付かされた若い男は慌てて次の言葉を発しようとした
『あ、自分はー
『ねぇ!ミヤコ!なんであんたは、毎日毎日、全部に応えようとするのよ〜 こんな奴ら適当に じゃあ予定空けときますぅ〜とか言っとけばいいのよ!別に本当にご飯行けるなんて思ってないんだから』
ミヤコのとなりにいた女性から、呆れたような、説教のような声が緊張と羞恥で震える男の声を遮ってミヤコの耳に入る。
『え、で、でも〜....』
中森 京は人気者である。
毎日この手の自称ミヤコさんファンから、性別を問わず最低でも3人からは声をかけられる。
3人。 少ないとも思うかもしれないが、中森京はアイドルでもなければ俗に言う有名人というわけでもない。ここは警視庁公安部。中森京は世間一般的には天才だった。
その上ルックスはトップレベル。アイドルのような輝かしい可愛さではないが、整ったパーツからなる清楚な表情。男からは支持され、女からも妬まれないような顔。
性格は暗いわけでもお調子者でもないが天然。人気者である自覚はおそらく無い。(ここまでくると同性からは激しく妬まれるような気もしなくもないが)
しいてマイナスポイントを上げるとしたなら仕事に対しての執着が常軌を逸してることだろう...
公安警察特別サイバー犯罪対策課。それがミヤコの務めている場所だった。
西暦2198年
人間により作られたサイバー空間 つまりインターネットに接続された電脳空間は拡大を続け、今では人々個人のほぼ全ての情報はもちろん世界の歴史や記録はこの電脳世界の中で管理されるようになった。 その代わりと言ってはアレだが、世界の生活様式はここ150年でこれといった大きな変化は見当たらない。
そんな世紀末の最後の一年を翌年に控えた世界ではもちろんサイバー犯罪というものも急増している。物質としてのの金銭がなくなった世界での強盗は全てサイバー犯罪。医療機関も全て電脳世界により管理されたこの世界では情報を1つ書き換えるだけで殺人すらも完遂してしまう。このような犯罪を取り締まる場所であるサイバー犯罪対策課。それの公安部なるものにわずか24歳で配属されたのだからミヤコは天才中の天才だった。
昼ごはんを済ませ席に着くミヤコに上司から連絡が入る。
『中森!今日の夜19時から緊急の呼び出しが政府からかかった。指定の場所に来い』
"政府"という言葉に多少の慄きはあったものの 、『ハイ』と答えたミヤコはそのまま指定の時間になるまで一言も話さず机の電脳世界に向き合った。