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―幕間― 亡国の王子と魔女の実

 ゲルシェ家はリッシュ王国を治める一族だった。

 無双の戦士シモンはゲルシェ家の嫡子、王子として生まれ育った。


 彼は無邪気で誰からも愛されるような子どもで、健やかに成長していった。

 

 時の王は後継ぎとして、教育係の下で学問や剣術に精通させようとしていたが、血のつながる息子として温かい愛情を注いでいた。

 望ましい環境で育った彼は年齢を重ねるごとに、王子としての自覚を持ち、祖国を愛する少年として成長していった。


 シモンが成長過程にあった頃、リッシュを取り巻く環境は厳しいものであり、周辺諸国と争いの絶えない日々が続いていた。

 それらの国の中で、リッシュは肥沃な大地に恵まれて、豊かな農作物が収穫できる貴重な土地が多かった。


 他の国は虎視眈々とその領地を奪わんと侵攻を試みていた。

 一年、二年、三年と、防衛を繰り返す中で、強固だったリッシュの守りにも綻びが見られるようになった。


 国境手前で防衛可能だった戦いが、徐々に国境ギリギリまで攻めこまれるようになり、やがて領土に侵入を許すようになっていた。


 当然ながら、時の王子であるシモンの元にも劣勢の知らせは届いた。

 彼はまだ十代であったが、祖国の危機を深刻に受け止めていた。


 いよいよ、城下まで敵の侵攻が迫った時、シモンはある決断をした。

 

 ゲルシェ・シモンは嫡子として国を守るため、居城から離れたところにある禁断の森へ一人で踏み入り、城の伝承として聞かされていた森の魔女に出会った。

 彼は魔女に王家の秘宝、真紅の魔宝珠を渡す代わりに、魔女の実を受け取る。


 魔女の実は人としての限界まで能力を高める代わりに、子を授かることができなくなるという呪いがかけられた、まさに禁断の果実だった。

 国家存亡の危機にあって、彼が跡継ぎのことを視野に入れるはずもなかった。


 魔女の実は伝承通りに、シモンに比類なき力を与えた。

 彼はたった一人で百人規模の部隊をなぎ倒し、獅子奮迅の働きを見せた。


 敵国は熟練の戦士や魔術師を仕向けたが、ことごとく退けた。

 魔女の実の特性で魔術は無効化され、戦うごとに進化するシモンを止められるものは存在しなかった。

 

 ――しかし、国同士の戦いは個と個の戦いにあらず。

 

 彼がどれだけの活躍を見せようとも、リッシュは衰退を続けて城は陥落。

 ゲルシェ家で生き延びたのはシモンのみとなった。


 彼は己を支えてきたものを失い、茫然自失となった。

 復讐を考えるような気概には至らず、個の限界に打ちひしがれた。


 この世界に自害する文化はなく、シモンは流浪の身となって、リッシュを出立して諸国を旅するようになった。

 彼が訪れた地域では、ならず者や盗賊に戦士などあらゆる者が襲いかかってきたが、どんな攻撃を受けても傷一つ付くことはなかった。


 目的のない旅は数年間続いて、彼は旅の途中でフォンスにたどり着く。

 そこでは生活の糧を得るため、探検者組合で雑事をこなす日々が続いた。

 

 特別な愛着が湧くはずもなく、そこは通り過ぎる国の一つとなるはずだった。

 

 そんなある日、かの国の騎士を名乗る男が探検者組合にやってきた。

 鋭い眼差しと堅苦しい立ち振舞い、それがクルトだった。


 当初、シモンは彼の手伝いを冷やかし程度に考えていた。

 しかし、祖国を想う気持ちに影響されて、彼の力になることを決意した

 

 愛するリッシュを守れなかった出来事を挽回すべく、シモンは激化する戦いの中へ身を投じるようになった。彼の内面で、今度こそ守るための戦いに勝利するという意志が強くなっていた。



いつもお読み頂き、ありがとうございます。


今回はシモンのエピソードについて書いてみました。

本編ではカナタが駆けつけた状態になっているので、その間の彼の出来事などを幕間として書いて、それから本編に戻りたいと思います。

色々と変化をつけている状態ですが、楽しんで頂けたら幸いです。


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