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ヘレナの実力

 アーラキメラは空を飛ぶことができるが、クルトたちは地上から追いかけるしかない。

 大きな両翼を羽ばたかせた巨体が空中を進んでいく。

 

 その差を埋めるように三人は必死に後を追っている。

 クルトは先行しがちなヘレナに注意を向けながら、懸命に走っていた。

 

 彼は途中まで建物の壁が邪魔になって思うように進めなかったが、住宅のある一角を通り過ぎると草むらに出た。

 

 クルトの視界にはアーラキメラが捉えられており、数十メートル先を飛行していた。

 どうにか追跡していくと、町の外れに小高く土を盛ったような築山があった。

 

 彼が動向を注視していると、頂上部分にアーラキメラは着陸した。

 その周辺には草が伸びて小さな緑の山になっている。

 

「ヘレナ、待つんだ!」

「行かないと逃げられちゃう!」


 未知の怪物を前にして、慎重になるべきだとクルトは考えていた。

 しかし、ヘレナはその勢いをもって、敵を打ち倒そうとしている。


「クルト、止められそうにないので、おれたちで援護する感じで」


 シモンは冷静な様子で剣を構えて進んでいった。

 それに遅れまいとクルトも足早に前へと進んだ。


 アーラキメラに近づくと、クルトは目をそらしたい気持ちになった。

 さらわれた女性の身体には爪が食いこんだ影響で、衣服に血が滲んでいる。


 抵抗の意思を感じなかったからなのか、アーラキメラは女性を脇において、ヘレナやクルトたちに向き合っていた。威嚇するように何度も翼を大きく広げている。


 早く助けなければと、慎重だったクルトも間合いを詰めていった。

 すでにヘレナは臨戦態勢で敵に向かって手をかかげている。


「――今ならいける」


 ヘレナは少し前とは打って変わって、落ち着き払った声で呟いた。

 その直後に手の平の先から数本の氷の刃が放たれた。


 慌てたアーラキメラは二撃目までを翼で防御したが、後の攻撃を守りきれなかった。

 その胴体に氷が突き刺さり、傷口から血が流れた。


「グルルゥ……」


 アーラキメラはダメージに反応するように唸り声を上げた。

 ヘレナはその隙を見逃さずに、さらに連続で攻撃を繰り出した。


 氷の刃がふたたび飛んでいく。

 今度は防御が遅れて、足や胴体に突き刺さった。


 さすがに大ダメージだったようで、その場に崩れ落ちた。

 すでに大量の血が流れ出ているので、無事ではすまないだろう。


 ヘレナがさらに近づいていくので、クルトとシモンもそれに続いた。

 アーラキメラに転がされていた女性は動くことができたようで、ヘレナが攻撃している間に離れた場所に逃げていた。


「……今のうちにとどめをお願い」

「は、はいよ」


 ヘレナに頼まれてシモンは少し変な感じになったが、落ち着いて剣を振るった。

 アーラキメラは首を横一文字に斬られると、大量の血を流して絶命した。


「ふぅ、よかった」

「……あ、あの、ありがとうございます」


 ヘレナが安堵のため息をもらしたところで、近くにいた女性が口を開いた。

 まだ怯えるような瞳のままで両肩が少し震えている。


「わたしは治癒魔術が使えないから、町まで運んでもらって治療を受けて」


 そのやりとりを見ていたシモンが女性に背中を貸そうとした。

 彼女は弱々しい動きでその背中に背負われた。


「力仕事はお任せあれ」


 シモンはさほど大柄ではなく、戦士としてはむしろ細身の体格に見えるが、女性を軽々と押さえている。


「大活躍だったな、ヘレナ」


 クルトは優しげな表情でいった。

 それを聞いたヘレナは嬉しそうに微笑んだ。


「うん、この人が無事でよかった」

「ところで、ヘレナはあの怪物のことを知っていたのか?」

「……詳しくは知らない。小さい頃に老エルフから聞いたことがあるの」


 クルトたちは来た道を引き返した。

 町の中からこの場所までそう離れていない。


 少し歩くうちにコダンの町についた。

 アーラキメラが去ったのを見計らったかのように、数人の通行人が歩いていた。

 

「おおっ、あんたたち、さっきの化け物はどうなった!?」

「その人が無事ってことは、やっつけられたのか?」 


 そのうちの何人かがクルトたちに質問を向けた。

 クルトたちは戸惑うような様子を見せながらも、その質問に答えていった。


 そして、それに区切りがついてから、町の医者のところに女性を運んだ。

 爪で抉られた箇所を見た医者は絶句していたが、治せない傷ではないといった。

 

 クルトたちは女性を医者に任せると、本来の活動に戻ることにした。


「さて、君たち。これから今日の宿を探さないといけない」

「この町ならすぐに見つかりそうですよ」

「わたしは清潔なところがいい」


 そんな会話をしながら、三人は街中を歩いていた。

 すると、近くを通りがかった女性が声をかけてきた。


「ああっ、あなたたちが娘の恩人ですね!」

 

 彼女はクルトたちが助けた女性よりも年長者だった。

 口ぶりから、あの女性の母親ということが分かる。


「もしかして、さっきの怪物に襲われた……」

「ええ、そうです。この辺りを歩いていると聞いて探してたんです」


 彼女は感動したように涙目になっていた。

 娘が危険な目に遭って、大変な思いをしたのだろう。


「コダンを通りがかるということは旅の途中ですよね? もしよければうちの宿に泊まっていきませんか? もちろんお代は頂きません」


 それを聞いたシモンとヘレナは表情が明るくなった。

 一方のクルトは少し困った表情をしている。


「タダにか……。なんだか申し訳ないな」

「いいえ、とんでもございません。町の者たちではとてもあの怪物を相手にすることはできませんでした。実の母である私さえ、見殺しにするしかなかったんです」


 母親を名乗った女性は目元を潤ませている。

 それを見たクルトはそこまで言うのならと、対応を軟化させた。 


「あい分かった。それなら泊まらせてもらおう」


 クルトは自分は大した援護はしていないと思ったが、彼女が満足するならそれでいいと感じていた。

 それから、その女性はクルトたちを宿の方に案内した。



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