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異世界初日

 全ての準備がととのった日、村川と共に異世界への扉をくぐった。


 これだけ壮大な計画が嘘のはずがないと思っていたが、その目で見届けるまでは確信が持てなかったというのが偽らざる気持ちだ。


 足を踏み入れた瞬間、全身が波打つような奇妙な感覚がした。

 このまま、宇宙の果てに消し飛ばされると言われても信じてしまいそうだ。


 実際には一分にも満たないはずだが、途方もなく長く感じられる時間の後、前方には部屋にいた時と異なる景色が広がっていた。


「移動は無事成功だ」


 村川が淡々とした口調でいった。


 彼は慣れているので落ち着いているが、俺は十分に状況が飲みこめておらず、不安と期待が入り混じった気持ちになっていた。


「……ここは?」


 頭上には眩しいほどに澄み渡る青空が広がっていた。

 俺がいるのは、周囲に草木の生えた小高い丘の上だった。


 遠くの方に緑の生い茂る山がそびえ、その手前には城壁に囲まれた街がある。

 よく観察してみると、街の中には小さめの城が建っていた。


 今さら村川を疑うはずもないが、あの風景がヨーロッパの田舎町だと言われても違和感はない。西洋風の歴史ある街並みという感想を抱いた。


「あの城壁の内側がウィリデ王国だ。あの城に王様がいて、城主であり国王にあたる。その王様と交渉が上手くいっているから、この国で現地人に襲われる可能性は低い。それに穏やかな人が多い印象だから、すごしやすいはずだ」


 彼は淡々と話しているが、すごいことだと理解できた。


「活動はそこまで進んでいるのか」

「初めてこの地についてから、それなりに時間がかかったからな」


 苦労もあったはずだが、それを感じさせない物言いだった。

 村川はバックパックの中から、ラベルのないスプレー缶を取り出した。

 

「転移装置を現地人に見られないようにしておく」


 彼はそういってスプレーの中身を吹きつけ始めた。

 すると、草むらにあった転移装置の枠が周囲と同化するように見えなくなった。

 

「すごいものを持ってるじゃないか」

「特殊なルートで手に入れたんだ。手痛い出費だったが、転移装置の保護を考えたらケチるわけにはいかなかったんだ」


 村川はスプレーをしまって、正面を指さした。


「それじゃあ、ウィリデに行ってみるか。講師を務めた研究仲間から現地語の習得は問題ないと聞いている。せっかくだから、機会があれば話してみるといい」


 彼は先輩留学生のようなことをいった。

 英語で外国人と話すのに抵抗ないが、未知の世界の言語で話すのは勇気がいる。


「まあ、そうだな、通じればいいけど」


 俺は曖昧に返事をした。


 行く前は楽しみで仕方がなかったはずなのに、いざ現地に来てみると想像以上に緊張している自分がいた。


「心配しなくても襲われたりはしない。スリや強盗も見かけたことがない」

 

 村川はこちらをなだめるようにいった。


「……そうか。とりあえず、行ってみるか」


 俺はドキドキした気持ちのまま、ウィリデの街に向かって歩き始めた。

 二人で草原を通り抜けて、城壁の方向に伸びる街道を進んでいく。


 すれ違う通行人は少ないが、服装も見た目もずいぶん異なるので、こちらを気にするような視線を向けていた。


 幸いなのは村川から説明があった通り、危なそうな雰囲気がなかったことだ。

 

 丘の上を出発してしばらく歩くと、城壁の前までたどり着いた。

 前方には門番のように衛兵が待ち構えているので、再び緊張が高まってきた。

 

「心配いらない。不審者が出入りしないように監視しているだけだ」

「……そ、そうか」


 村川がこちらを落ち着かせるように言った後、ポケットから何かを取り出した。

 

「それは?」

「この国の客人である証明みたいなものだ」


 彼はそれを手にしたまま、先へ進んだ。

 俺もおいていかれないようについていく。


「おやっ、客人の方ですね。お連れの方もウィリデにようこそ」

「どうも、こんにちは」


 村川が自然な様子でやりとりをした。


 衛兵は明らかに歓迎している雰囲気だった。

 そして、現地語が理解できたことにちょっとした感動を覚えた。


お読み頂き、ありがとうございます。

プロローグ→魔術学校という流れでは情報不足な気がして、このエピソードを追加しました。

楽しんで頂けたら幸いです。

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