表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/203

アエス鉱山

 街の周辺に比べて視界に入る緑が濃くなっていた。

 道の脇にはところどころに背の高い木が生えている。


 途中まで整備されていた道は未舗装のあぜ道のように変わっていた。どうやら以前は何かの用途に使われていたようで、デコボコは少なく比較的平らな道だった。

 その先を視線でたどると目的地らしい山の方へと続いている。


「さっき鉱山って言ってましたけど、この辺は何か採れるんですかね」


 そう言葉にしながら、脳内ではヘルメットをかぶっていい感じに汚れたおじさんが手押し車を押しながら通過していった。道にはしたたる汗が模様のように垂れていく。


「ずいぶん昔の話ですが、金属の採掘技術に優れたカルマンという国が銅を掘りにきていた時期がありました。もっとも、隣国のフォンスとカルマンの関係が悪化していったので、玉突き式にウィリデにおける採掘は途絶えてしまいました」


 エルネスはそういった後、そうなると元鉱山が正しいでしょうかと付け加えた。

 途中に出てきたカルマンという国の名は聞き慣れないと思った。


「それじゃあ、その鉱山というか銅山跡は荒れ放題かもしれないのか。……あれ、その昔って何年前ぐらいの話なんですか?」


 コウモリに追加で行きたくない要素が増えた気がする。

 荒れ果てた洞窟と聞いて、いいイメージが浮かぶはずもない。


「だいたい30年前ぐらいでしょうか。僕も彼らが来ていた頃は覚えています。カルマンは領土内の鉱石と鉱山が売りの緋色の国と言われるぐらいですから、血の気の多い荒くれ者たちが多かったです」


 エルネスが珍しくうんざりしたような表情になっていた。

 彼の話を聞きながら、一つの疑問が脳裏をよぎった。


「えーと、そうするとエルネスは何才?」

 明らかに見た目の印象と実年齢が噛み合わない気がした。


「今は50才ですね。……カナタさん、何かおかしいでしょうか?」

 彼は足を止めて、きょとんとした様子でたずねてきた。


「俺の国にはエルフがいないから、色々と知らないことが多いんです。失礼な質問になってしまうけど、エルネスの見た目で50才ってことは何才まで生きられるんですか?」

「例えば戦乱に巻き込まれたり、不慮の死を遂げたりする場合を除けば、150才ぐらいまでは生きられます。森に暮らすエルフのおさはさらに長生きだと聞いたことがあります」

 

 俺たちはふたたび歩き出した。少しずつ山肌との距離が近づいている。

 通行人はほとんど見かけなくなり、すれ違うこともなくなっていた。


「……そういえば、エルネスに用事があったんだった」

「僕にですか。どんな用事でしょう?」

「同じ国から来ている村川が、森を通って他の国へ行ってみたいと話してました。それでエルフたちの協力がないと通過できないと」

「……なるほどそういうことですか」


 こちらの言葉を聞いてから、彼は何かを考えるように静かになった。


 ジャリジャリと砂を踏む音だけが響く。

 スニーカーじゃなくてトレッキングシューズがあればいいのになと思った。


「広大な森――大森林はエルフたちの生活圏でもあるので、すぐに返事をするのはむずかしいです。それと僕は街で生まれて育ったこともあって、エルフの長と遠い関係にあります。彼らとつながりがあるエレノアなら力になってくれるかもしれません。この依頼が終わったら聞いてみましょう」


 エルネスは一語一語を丁寧に話してくれた。

 彼の誠実さを感じるような説明の仕方だった。


「ふーん、街育ちと森育ちに分かれてるなんて知らなかった。勝手な想像ですけど、森育ちの人たちはエルネスやエレノア先生みたいにフレンドリーじゃないとかはあり得るんですかね」

「ははっ、そんなことはありません。大森林を含めてウィリデという一つの国ですが、100年以上内乱や紛争と無縁です。それは森のエルフと街の人たちが友好関係にあるからですよ」

 

 エルネスは軽やかに笑い飛ばした。

 それを見てなんだか安心するような気持ちになった。


 こっちですねと彼に案内されて、砂利道を更に進んだ。

 途中で二手に分かれた道も迷わずに先導してくれた。


「はい、それではこちらがアエス鉱山の洞窟になります~」

 エルネスがここだと教えてくれたので山岳ガイド風にいってみた。


「それはニッポン流の冗談でしょうか」

「ああっ、気にしない気にしない」


 ゆるやかな山道を上った先にその洞窟はあった。ちょうど山の中腹あたりに位置するだろうか。入り口の高さは2メートル弱で横幅は3、4メートルぐらい。


 薄暗いトンネルや洞穴がそういう空気を出すように、この洞窟も何となく近寄りがたい雰囲気を感じた。俺一人だったら高い確率で引き返したくなるだろう。


「さて、ここからは気を引き締めてくださいよ。オオコウモリの数は複数だと聞いていますが、咄嗟の時にはカナタさんを守りきれるか分かりません。そうはいっても吸血コウモリなので血を吸われるだけなので、困った時は治癒魔術で治しますから」


 エルネスは安心させようとする時は笑顔になる。

 

「(それが逆に不安なんだよな)分かりました。最善を尽くします」

「それでは一人一本これを持ちましょう」

 

 彼はそういって先ほどの松明を手渡した。

 まだ着火されていない。


「まずは練習ついでに先端に魔術で火をつけてください」

「はい、では早速」

 

 俺は左手に松明を持ってその先端に右手をかざした。


 ――全身を流れるマナに意識を向ける。


 先端に火を灯すだけなら簡単だ。

 つまみを調整するようにして最少出力で発現させればいい。


 右の掌の先にポッと種火程度の火が現れた。

 すぐにそれは着火して松明の先端が勢いよく燃え上がった。


「それぐらい調整できれば、まずは問題ないでしょう」

 エルネスは大きく頷いた。


「……それじゃあ、オオコウモリ退治に行きますか」 

 イヤイヤ感を出しすぎるのも大人げないと思い、率先して声を出した。


 外から差しこむ光で洞窟の入口部分は多少の明るさがあった。

 しかし、奥の方は全てを呑みこんでしまいそうな暗闇がぽっかりと口を開けているように見えた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ