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精鋭の実力

 オーウェンに選ばれた戦士たちが攻めこんだ後も騒がしい音は聞こえてこない。

 様子が気がかりだったが、気配を察知されるのを避けるために窺うことは許可されそうになかった。


 しばらくして、攻めこんだ一人がこちらに戻ってきた。


「――小規模な拠点を制圧できたようだ。全員で先へ進むぞ」


 オーウェンは普通の大きさの声で全体に伝えた。

 俺もその伝令に従って、他の仲間とともに歩き出した。


 辺りを警戒しながら進んでいくと上り坂の向こうに出た。


 オーウェンの話通り、こじんまりとした砦が建っていた。

 その周囲は開けた場所になっており、何人かの仲間が状況を調べている。

 

 近くにモンスターはおらず、危険はなさそうなので、そのまま砦の近くに進むことにした。


 砦の近くまで来ると、中から人影が出てきた。

 その人物は重たそうな物を引きずっている。


「……うわっ!?」


 何となくついていくと、モンスターの屍が積まれていた。


「何だ、モンスターの死体なんて初めてじゃないだろ?」

「ええ、まあ……」

「たしかあんた、魔術師の――」

「カナタです」


 こちらから名乗ると、そうだそうだと目の前の青年は朗らかに笑った。

 青色の髪で長剣を携えており、筋骨隆々というほどではないものの、優れた技量を持つ者特有の鋭い空気を感じさせる。 


「ケインだ、よろしく」

「こちらこそよろしく」


 彼が手を差し出したので、軽く握り返した。


「それにしても、これだけの数を短時間で」


 オークやコボルト、ゴブリン。

 ざっと見た感じで二十体近くはいる。 

 

「魔術を使わない相手なら楽勝さ。モンスターにも稀にいるんだ」

「……なるほど」

「オークは一番重くて運びにくいんだが、今ので最後だ。そのうち、オーウェンから出発の指示が出るから、今のうちに休んでおいた方がいいかもな」

「うん、そうですね」


 俺はケインに会釈をして、その場を後にした。



 それからしばらく経ち、オーウェンから集合の号令がかけられた。

 

 周辺に散らばっていた仲間たちが砦の近くに集まった。


「――ここからさらに前進する」


 彼が力強く宣言して、再び行軍が始まった。

 一列になって砦のあった開けた場所を出発した。


 少し進んだところで、道の先に街道のようなものが伸びていた。

 以前は人が行き交っていたようだが、草が伸び放題でところどころ荒れている。


 モンスターの支配によって、交通路としての機能は失われてしまったのだろう。


 複雑な心境になりながら、道沿いに足を運んだ。


 この一帯でかなりの数の敵を倒したせいか、歩いていてもモンスターの姿が見当たらない。


「――ああっ、なんてことだ……」


 警戒しながら足を運んでいたところに、近くにいた仲間が声を上げた。


 何事かと視線を向けると、朽ちた屍が横たわっていた。

 白骨化しているということは死んでからずいぶん時間が経っているのだろう。


 頭蓋骨の辺りに矢が刺さったままになっているので、おそらくこれが致命傷だったと考えられる。


「犠牲者として弔ってやりたいが、今は進まなければならない。戦いが終わったら墓を作ろうじゃないか」


 オーウェンはそういって足を止めかけた俺たちに先へ進むように促した。

 声を上げた仲間は黙って頷き、その場から先に進んだ。 



 隊列を組んだ状態で行軍を続ける。

 状況に流されるままで深く考えてこなかったが、戦うということは命を落とす可能性があることだと再認識させられた。


 ――矢の刺さった死体が自分になったとしてもおかしくないのだ。


 この場にいる精鋭と比べれば、自分自身の実戦経験は浅い。

 戦いが苛酷になった時、己の身を守ることができるのだろうか。


 もしも、自分一人で戦わなければいけなくなった状況を想像すると寒気がする。

 この場にいる者たちの中で、最も危険と隣り合わせなのは自分なのだ。


 魔術だけでなく剣術や護身術をもっと学んでおけばよかったと後悔した。


「――カナタさん、顔色が悪いですよ。大丈夫ですか?」

「……ああっ、大丈夫。死体を見慣れてないから」


 メリルの問いかけに曖昧な返事を返した。

 命を賭す覚悟がある人たちの中で、怯えた態度を見せるのは卑怯だと思った。


 若い女性のメリルでさえ、剣術を身につけて危険な場面を乗り越えている。


 そう考えると、自分だけが死の恐怖に苛まれるわけにはいかない。

 彼らと戦うと決めたのだから、勇気を振り絞らなければ。


「……あっ、あれは」


 先頭の仲間が驚くような声を上げた。 


 その声に反応して前方を注視すると遠くの方に巨大な岩山がそびえていた。


「あそこが拠点かもしれないな。さあ、先を急ごう」


 列の半ばにいたオーウェンは先頭に立ち、仲間を鼓舞した。


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