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エスラ奪還に向けて

「――さん、カナタさん、起きてください」

 

 聞き覚えのある声が響いた。


 ぼんやりしながら目を開けると、正面にメリルが立っていた。


「……あれ、寝ちゃってた?」

「はい。もう朝ですよ」


 洞窟から戻ってきた時は窓の外は闇に包まれていたが、今はきらめく陽光が差しこんでいる。


「……身体が痛い」

「椅子でそのまま眠られてましたから」

「そうだよね、そんな気がする」


 ゆっくりと立ち上がって背中を伸ばすと、少し頭がすっきりした。


 周囲を見回すと朝食中のようで、パンのような物を口にしている。


「メリルはもう食べた?」

「はい、先に。向こうに行けば受け取ることができますよ」

「そうか、ありがとう」

「あっ、あとこれも使ってください」


 メリルは旅の最中に使っていた木製のカップを手渡した。

 パンと一緒に何か出るのだろうか。


 眠気が抜けきらないまま、教わった方へ移動した。


 するとそこで、始まりの青の戦士たちが配給をしているのが目に入った。


「カナタ、おはよう」


 その中にはリュートもいて声をかけてきた。


「やあ、おはよう」

「腹は空いてるよな、パンとスープがあるぞ」

「すごいな……それにしても鍋なんてあった?」

「これか? 砦に残されていたものを洗った。あと、湧き水の泉が見つかって、水には困りそうにねえ」


 彼の話を聞いて、そこまで悪い状況ではないと感じた。


「ただ、食料に限りがあるから、エスラに潜入する必要はあるだろうな」

「そうか、それはそうだよね」


 今は大所帯でダスクからやってきた人数は少なくない。

 それを踏まえれば、補給は必要条件になるはずだ。


「とりあえず、食べようぜ。スープが冷めちまう」

「うん、そうだね」


 俺はパンを一切れ受け取り、カップにスープを注いでもらった。

 

 金属製の鍋にはコンソメスープのような半透明の液体が湯気を上げて入っていた。

 俺は左手にパンを持ち、右手にカップを持った。


「それじゃあ、食べさせてもらうよ」

「ああっ」


 リュートの前を離れて、座っていた椅子に戻った。

 メリルを目線で探すと、誰かと話しているところだった。

 

 まずは食事を始めることにしよう。


 パンは少し乾いた感じの見た目で保存が利きやすくするように固さがある。

 スープはまだ熱が残っており、食欲を誘うような匂いがした。


 早速、パンをかじってみる。

 

「……味は悪くないけど、ちょっと固めかな」


 しっとり感控えめのフランスパンのような感じだった。


「さて、スープはどうだろう」

 

 俺はカップに注がれた温かい液体を口に運んだ。


「……うん、まずまずかな」


 この状況で贅沢は言っていられない。

 食事に感謝しながら、あっという間にパンとスープを平らげてしまった。


 ボリューム的にはちょうどよく、腹八分目といった感じだろうか。

 カップをそのまま返すわけにもいかず、湧き水の場所を聞いて洗うことにした。


 砦を出たすぐ近くに泉はあった。

 噴水に近い作りになっており、絶えず水が湧き出している。 

 

 仲間の誰かが片付けた後のようで、ゴミや落ち葉は見当たらない。


 俺は泉を汚さないように気をつけながら、コップを洗い終えた。

 

 その場を後にして砦に戻ろうと歩いていると、オーウェンの姿があった。 

 彼は素振りをして、剣の鍛錬をしているところだ。


「精が出ますね」

「おおっ、カナタ。疲れは取れたか?」 

「椅子で眠ってしまったみたいで、それなりに」 

「そうか、それはよかった」


 オーウェンは剣を振るのを止めて、こちらをじっと見た。


「……次はエスラを奪還する作戦になる」

「補給しないわけにはいかないみたいですね」

「そうだ、備蓄が底をつく前に手を打たねばならない」


 彼は複雑な表情をしている。

 一筋縄でいかないと考えているのだろう。


「イアンやダスクの精鋭も一緒だから何とかなるはずです」

「それもそうだ。先の敗走がなかなか頭から離れなくてな」


 オーウェンが珍しく恥ずかしそうに頭をかいた。


「分かりました。今度こそ奪還を成功させましょう」

「ああっ、もちろんだ。引き続き協力を頼む」

「はい!」


 彼らのためにも次の戦いは勝たなければならないと感じた。

 

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