オーウェンとイアン
オーウェンの言葉を聞き入れて、この場にいる全員が待機していた。
やがて、少しずつダスクから避難してきた市民や兵士の姿が増えていった。
その大半が疲れ果てた様子で、その場に座りこむ人も少なくなかった。
手助けできそうなことが思いつかず、ただ見守ることしかできなかった。
オーウェンはダスクの生存者に話しかけていたが、他の戦士たちも俺と同じようにどうすべきか分からないように見えた。
重苦しい空気がその場に立ちこめているように感じていたが、ふいにその状況に変化が生じたのを感じた。
「――おおっ、イアン隊長が到着されたぞ!」
「ご無事だったか! 本当によかった……」
ダスクの兵士たちの空気が一変して、明るいものになっていた。
その理由は最後に現れた二人の男たちであることは明白だった。
一人は淡い栗色の髪を束ねて甲冑を纏い、豪奢な鞘に収まる剣を輝かせている。
もう一人は長槍を手に不遜な笑みを浮かべ、若く見える顔立ちだった。
貫禄を感じさせる風貌から、前者がイアンであるように思われた。
「オーウェン、貴殿がなぜここへ?」
「イアン、久しぶりだな。ここまで来る理由は一つしかないだろう」
「……支援要請か。見ての通り、ダスクは火の海の中だ。おまけにモンスターに取り囲まれている」
イアンは立派な風貌とは裏腹に自嘲気味に話した。
「珍しく弱気だな。まあいい。我々の望みはシンプルだ」
「聞くまでもない。こうなった以上、エスラと手を組む以外の選択肢はない」
二人はどちらからともなく、手を差し出して固く握手をした。
それを見ていた周囲の人たちから歓声が上がった。
「メリル、ダスクが協力してくれるみたいだね」
「はい、どうなることかと思いましたが、まずは一安心ではないでしょうか」
俺たちは部外者のようなものなので、彼らが沸く様子を遠巻きに眺めていた。
しばらくしてから、オーウェンとイアンが全員に静まるように促した。
どちらの勢力も疲れが見られる状況だったが、ここから安全な場所に移動しなければならないという指示が出された。
「これだけの大所帯ではすぐにモンスターに見つかってしまう。一旦、エスラ近郊の砦跡に向かおう。同志たちはダスクの市民を守りながら動いてくれ」
オーウェンから始まりの青の戦士に向けて伝令があった。
「すまない。この恩は必ず」
「気にしないでくれ。まずは先を急ごう」
二人が先導を始めて、その場にいる全員が動き始めた。
合計すると三十人近い人数なので、列もそれなりの長さになっている。
特にダスクの市民は疲れ切っているように見えた。
火の手が上がっていた影響で服が焦げていたり、煤がついたりしている。
何かあればモンスターを迎撃するつもりで、俺はメリルと最後列を歩いている。
近くにはリュートの姿があった。
「気が合うな。最後尾を守ろうってか」
「この状況だと、どこで襲撃されてもおかしくないから」
「そりゃそうだ。市民は丸腰だから羊の群れを狼から守るようなもんだな」
「うん、なるほど」
リュートの言う通りだと思いつつ、羊や狼が存在するのだと感慨深く思った。
「そういえば、砦跡なんてあるんだ?」
「ああっ、それならここに来る途中の道を曲がったところにある」
そういった後、彼は何かを考えるような間をおいた。
「何か気がかりが?」
「……いや、大したことじゃねえが、しばらく誰も行ってないはずだから、モンスターがいてもおかしくないと思ったんだ」
リュートはそう言った後、倒せばいいだけの話だよなと曖昧に微笑んだ。
移動を続けるうちに周囲には木立が増えてきた。
夕方に差しかかることもあって日が傾き、少し薄暗くなっている。
何気なく後ろを振り返ると、ダスクの町は今もまだ赤々と燃え続けていた。