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オーウェンの作戦

 扉の内側に入ってから、大人一人がどうにか通り抜けられる通路を通過して広めの部屋についた。


 壁には印のついた地図が数枚貼られており、連絡事項のような内容が書かれた書類もいくつか目に入った。

 内装はシンプルで主な家具は部屋の中心にある円形の机だけだった。


 その雰囲気からして、ここが拠点の一部であると理解した。


「自己紹介するタイミングが遅れてしまったな。私はエスラ周辺で指揮をとっているオーウェンだ。よろしく」


 全員が部屋に収まったところで、あご髭の男が改まった態度であいさつをした。


「カナタです。ご存知かもしれないですが、彼女はメリル」

「メリルです。よろしくお願いします」


 自己紹介を終えると、始まりの青の戦士たちが歓迎するように拍手をした。

 

「ここまでの協力に感謝する。我々とは無関係なのにどうしてそこまで?」

「まあ、成り行きみたいなもので……」

「この先、激しい戦いが続くことが予想される。引き続き協力してもらえるということでよろしいか? 死と隣り合わせ故に強制したくはない」


 オーウェンはこちらの目を見て言った。

 圧力を感じることはなく、誠実さを感じる眼差しだった。


「ええ、もちろん。乗りかかった船ですし」

「それはよかった。これからもよろしく頼む」


 話に区切りがつくと、オーウェンはこの場にいる全員に向けて話し始めた。

 

「皆、知っての通り、市街戦は満足できない結果に終わった。それに多くの犠牲を出してしまった。被害の拡大を防ぐため、我々はエスラを発たなければならない」


 彼が言い終えると、周囲にざわめきが生じた。

 俺の近くにいた戦士がおもむろにオーウェンに問いかけた。


「エスラを離れてどうするおつもりで?」

「ここと同規模の戦力があるダスク地方へ向かう」

「そんな無茶な!? モンスターの包囲網を突破できるはずが……」

「山越えをする。皮肉なもんだが、最初の段階では人数が多すぎて選択肢に入らなかった。しかし、これだけの人数なら目立ちにくい」


 オーウェンの説明に納得するように、兵士はたしかに……とつぶやいて何も言わなくなった。


「疑問や反対がある者は先に言っておけ。少数でとどまって逃げ切れるとは考えにくいが、ここに残りたければ残ってもいい」


 彼は危機的状況を率いる者として、腹を括っているように思えた。

 さらなる犠牲を防ぐために活路を見出そうとしているようだ。

 

「これから準備をして、整い次第すぐに出発する。私と共にダスクへ向かうつもりの者は準備に取りかかってくれ」


 オーウェンはそう言い終えると、手近にあった物の整理を始めた。


「カナタさん、時間がないようなので、剣のことを聞いてきます」


 メリルはそういって足早にオーウェンのところに近づいた。

 彼は親切に応じると、鞘に収まった一振りの剣をメリルに手渡した。


 彼女は丁寧にお辞儀をした後、こちらに戻ってきた。


「よかったです。ほとんど新品の剣をもらえました」


 メリルは嬉しそうな様子で言った。


「これで武器は調達できたね」

「はい。……あっそうだ、古い剣は置いていかないと」


 彼女は腰に携えていた鞘を机の上に置いた。


「使わないつもりなら、そのままでかまわない」 


 オーウェンがこちらをちらりと見て、手短に話した。


「ありがとうございます」


 メリルはそう言ってから、新しい剣を腰に携えた。


「俺はダスクってところが分からないんだけど、ここから遠いのかい?」

「私も詳しくありませんが、山越えができるなら遠くなかったはずです」

 

 彼女は自信なさげに言った。


「私がアルヒに行く前に住んでいたのは、ここから離れた場所でした。エスラもダスクも初めてなので、あまり詳しくなくて」

「そうか、なるほど。メリルの故郷は……」


 質問しようと思いかけたところで、大事なことを思い出してやめておいた。

 彼女の故郷はモンスターに支配されてしまったのだ。


「おう、カナタとメリル。あんたらもダスクに向かうんだろ」


 すでに荷造り――といっても簡素な布袋一つ――を終えたらしきリュートが話しかけてきた。


「ああっ、もちろん」

「そうかそうか、よろしく頼むぜ」


 彼はそれだけ言うと、陽気な様子で去っていた。


「カナタさん、移動が始まるようです」

「ああっ、ありがとう」


 徐々にオーウェンや他の戦士たちが部屋を離れていた。

 どうやら、ダスクへ向かい始めるようだ。

 

戦士たちはエスラ奪還のために動いていたようですが、形勢が不利になったので戦略的撤退をするようですね。

メリルも同じ目的があったものの数的不利が顕著なため、オーウェンに同行することになっています。

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