第七十五話「シュエの軌跡 祝賀式典」
◆
その日の夜、私は夕食を両親と共に自室で済ませた。 そして、夕食を終えると、教皇様の指示通りに聖騎士が、四人がかりで聖剣を運んできた。
私は聖剣を何気なく受け取り、片手でベットの側に立て掛けると、運んできた聖騎士達が驚きの表情を浮かべる。 何をそんなに驚いて居るのかな?
「勇者様はその剣が重く無いのですか?」
ラフィークさんに、羽の様に軽い聖剣を重いと言われ、私は首を傾げる。
そう言えば、聖騎士が四人がかりで、重そうに運んできてたけど、この剣がそんなに重いの? 私のその疑問の答えを、聖剣自らが教えてくれた。
(主よ、我は神が認めた勇者の主意外には扱う事ができぬ。 他の者では持つ事も困難であろう)
つまり、私以外には凄く重い剣になるって事かな? 大人が四人がかりでないと持てないくらいに…
「あの、ラフィークさん。 今この聖剣が教えてくれたんですけど、勇者の私以外使えない様に、重くなるっぽいです。 私には羽根の様に軽い剣なんですけどね…」
私はそう言って苦笑う。
「教えて…… いえ、流石神剣と言う事でしょうか。 意思を持って勇者様と心を通わせて居られるのですね」
畏まってそう言うラフィークさん。 大の大人に、そこまで畏まられ、勇者様と崇められるとか、恥ずかしくて仕方ない。
「あの…… ラフィークさん」
「何でしょうか? 勇者様」
「その勇者様って呼び方、やめて欲しいかな…… 何か馴れないと言うか、勇者とか言われても恥ずかしいと言うかなんと言うか…」
「では、何とお呼びすれば?……」
「普通に名前で! シュエで良いので」
「畏まりました、シュエ様。 では私の事はラフィークと気軽にお呼び下さい。 私はシュエ様の近衛騎士ですから、呼び捨てになさって下さい。 勇者様として、配下の私に敬称は不要です」
そう言って、呼び捨てで呼ぶ様に提案するラフィークさん。 私にも敬称とか要らないんですけど……
「あの、年下の私に、様とか付けなくて良いので……」
「それはなりません! 私はシュエ様にお仕えする身。 年下で在ろうと、主であるシュエ様を呼び捨てにするなど、シュエ様が許しても周りの者が許しません。 どうかご理解を……」
何か、色々とあるのね……
「はぁ… 仕方ないかぁ……」
「有り難うございます」
「じゃあ、《《ラフィーク》》。 これからは部下さん達も含めて、私の事は勇者様と呼ぶの禁止でお願いしますね!」
私が冗談ぽくそう念を押すと、ラフィークは苦笑しながら「心得ました、シュエ様」と騎士の礼をして返事を返した。 堅苦しいの苦手なんだよね、これで少しは肩の力を抜いてくれると良いんだけど…
話しが終るのを見計らい、プリムラが話しに割って入る。
「シュエ様。 明日は朝から式典の準備があります。 今日は明日に備え、そろそろお休みになられた方が良いかと…」
「そうですね。 シュエ様はもうお休み下さい。 我々は警護の任に戻ります」
そう言うとラフィークは、聖剣を運んで来た騎士を連れ立って部屋を出ていく。
「シュエ様、着替えの準備が整っております。 どうぞこちらへ…」
私はプリムラに促されるまま、部屋に備え付けられたウォークインクローゼットに連れられ、中で待機していたセレソも加わって、私は着替えを済ませる。
そして、私と両親を残し、プリムラとセレソは退室した。
「シュエ、私達も部屋へ戻るけど、一人でも大丈夫?」
お母さんが私を心配して、そう確認してきた。
いくら良くできた娘だと言っても、五歳になったばかり。
普通の五歳児なら一緒に寝ていて当然。 それがいきなり個室を与えられ、別々に眠る事になるのだから、親として心配するのは当たり前なのかもしれない。
「うん、大丈夫。 私、一人でも平気だよ」
そう言って微笑むと、両親は「お休み」と言って隣の部屋へ帰って行った。
◆
翌日。 私は早朝から式典の準備に追われ、豪華な衣装に身を包んでいた。
腰には身の丈程ある聖剣を携え、控え室で式典の始まりを待っている。
昨日、聖都では勇者誕生の号外が流れ、今日のお披露目に多くの人が、大聖堂前の広場に集まっている。
「シュエ様、教皇様がお見えです」
扉の前で警護していたラフィークが、教皇様の姿を確認し、そう言って報せてくれる。 教皇様は控え室に入ると、式典の準備が整った事を報告した。
「シュエ様、お待たせ致しました。 式典の準備が整いました。 準備は宜しいですか?」
「大丈夫です……」
私は息を飲んでそう答える。 なんだか緊張するよぉ…
「シュエ様、いよいよシュエ様の晴れ舞台ですね」
「頑張って下さい。 シュエ様」
プリムラとセレソは、嬉しそうにそう言って私を送り出す。
「では行きましょうか、シュエ様」
ラフィークに促され、私は教皇様の後を追った。
◆
聖シュトレーゼ皇国。 聖都デュラッセンの中央に聳え立つ神山。 その頂上に建つ大聖堂の前の広場には、勇者誕生の報せを受けて、勇者を一目見ようと多くの人で溢れかえっていた。
何百年も現れて居なかった勇者が、世界の危機を救う為に、再びこの地に現れたのだから、皆興味津々なんだと思う。
私は教皇様の後に続き、大聖堂の正面に設けられた演説用のテラスから、人々の前に姿を現した。
大勢の人が教皇様に注目し、そしてその傍らに聖剣を帯剣する私に視線が集まり、私の姿を見て騒めきが起こる。
教皇様は、左手を挙げて人々を静かにさせる。 これから話すから静粛にせよという合図かな? 何故かそれだけで民衆は静かになった。
「皆、良くこの場に集まってくれた。 私の代でこの喜ばしき日を迎える事が出来た事、我らがシュトレーゼ神に感謝を捧げたい」
両手を広げ、演説を始める教皇様。
「皆ももう知っての通り、昨日、五百年ぶりとなる勇者が誕生した。 先代勇者様が遺された聖剣が、再び主をお選びになられたのだ!」
その教皇様の言葉に、噂が真実だと肯定され、騒めきが民衆から起こる。
「だがしかし、聖剣が勇者様をお選びになられたと言う事は同時に、これから訪れるであろう、厄災の予言でもあると言う事。 再び世界に危機が迫っている証拠なのだ」
その言葉に不安の声があちこちから聞こえる。 声を大きくする者は居ないが、皆不安なんだと思う。
「しかし、皆心配には及ばない。 何故ならば神がこの地に再び勇者様を使わして下さったからだ」
そして教皇様は私の方を振り向き、合図すると民衆に高々と宣言する。
「紹介しよう。 まだ幼いながらに聖剣が主に選ばれた、勇者シュエ様だ」
私は言われていた通り一歩前に出て、民衆の前に姿を見せると、聖剣を高々と掲げる。
太陽の光が聖剣を輝かせ、見事な装飾が施された聖剣がその存在感を現す。 しかも、年端も行かない少女の私が、身の丈はある聖剣を軽々と掲げている。 その事実が民衆の不安を少し和らげた見たいで、ざわついて居た民衆が、私の姿を見ると静かになっていた。
今更だけど、ちょっとこの体勢、実際にやって注目を集めると、何だか恥ずかしくなってきた…… もう降ろしていいかな? 良いよね? 私は顔を真っ赤にしながら掲げていた聖剣を下ろして腰に携える。
(はっはっはっ 流石我が主よ。 中々様になっておるではないか)
いや、笑いながら誉められても嬉しくないから! 黙って聖剣を掲げるだけで良いと言われたけど、実際やってみると中二病臭くてすっごくこっぱずかしい。
そんな私の心情を察する事なく、教皇様は民衆に宣言する。
「まだ厄災までの猶予はある! 我等シュトレーゼ神教信徒諸君は、全力で新たに誕生した勇者様をお支えし、この人類の危機を乗り越えるべく、皆で協力しなければならない!
それこそが、神が我々信徒に与えた試練でもあるのだ! 皆、どうか敬虔なるシュトレーゼ神教の信徒として、我々にその力を貸して貰いたい」
教皇様はそう言うと、民衆に深々と頭を下げる。
一国の、それもシュトレーゼ神教のトップが、民衆に頭を下げるその光景に心打たれたのか、民衆からは声援の声があちこちから上がる。
「教皇様! 勿論我々は勇者様をお支えします!」「頭をお上げください教皇様!」「我々は一つだ!」「皆で協力しよう!」「我等に神のご加護を!」「勇者様かわいいぶひぃ!」
なんか最後へんな声援が混じっていたけど、教皇様が立場を超えて皆に頭を下げた事で、民衆の心は一つになってくれた見たい…… 皆、私を見て希望を見出してくれている見たいで、その眼差しがなんだか恥ずかしい反面、私にちゃんと勇者が務まるだろうか… 不安に思う。
「さぁ、シュエ様。 式典もこれで終わりです」
「え? もう終わりなの?」
「ええ、あくまでも、シュエ様のお披露目の為の祝賀式典ですから…… それに民衆も仕事があります。 あまり時間を割けないのです」
何か思っていたのと違い、凄くあっさりと終わってしまった。
私は民衆に振り返って頭を下げ、教皇様に続いてテラスを後にした 。
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