最強大賢者、世界の真理に気付いてしまう
最強の大賢者と謳われた男がいた。彼がその一生の中で成し遂げた偉業は、両手両足の指で数えても足りないほどだ。世界征服を目論んだ魔王を焼殺し、破滅の邪神を消しとばし、狂える龍王を討滅し、等々。つまるところ、何度も世界を救っている。それが第一に挙げられる彼の偉業である。
また、魔法の分野においても彼は数々の偉業を成し遂げた。空間魔法の一般化に貢献し、概念攻撃魔法を開発し、等々。彼一人の手によって魔法というものは数段階発展したと言っても過言ではない。
そんな大賢者は死の床についていた。魔法によって老いを遅らせ、300年間生きてきた彼も、生きとし生けるものの定めである寿命には勝てなかったのだ。
大賢者の危篤、その知らせを聞いて各国の王が、数多くの弟子が、改心した敵が、彼のもとに集まってきた。だが、大賢者は彼らを部屋の外へ追い出した。
一人になって彼は考えた。何が足りなかったのかと。
彼は生まれた次の日から何かに導かれたように、最強になるために魔法の鍛錬を始めたのだ。そして、最強になるために魔法を極めた。その過程で生まれた『大賢者』という呼び名も、彼にとっては付随品でしかない。
今や、世界のどの場所においても、彼が最強であるという事に文句をつけるものはいないだろう。だが、そう考えていない人物がたった一人だけいた。そう、大賢者本人である。
(たとえこの世界に私に敵う相手がいなくても、私が最強と言えるはずもない。私だって心臓を四日間貫かれ続ければ失血死するだろう、五年間食事を断たれたら飢え死にするだろう。この程度で最強を名乗ることなど烏滸がましい)
大賢者は馬鹿だったのだ。『賢』という文字はついているけれど、頭の中はお花畑だったのだ。
まあ、生まれた次の日から300年間欠かさずに魔法の鍛錬を続けるなど、それぐらい頭のネジが外れていないとできないのかもしれない。
(では、私に足りないものは何か。それがわからない。私はあまりにも弱すぎる。生まれた次の日から今まで欠かさずに魔法の鍛錬をしてきたのに、それでも最強には届かなかった。私はどこで道を間違えたのだろう)
彼にとって、自分の死を惜しんでくれる弟子達も、自分が死んだ後の世界も、自分が死ぬことすらも、もうどうでもよかった。
彼が悔やんでいることは一つ。自分が最強に至ることができなかった、それだけである。
(私は何をすればよかったのだろう。そもそも魔法の鍛錬をしたことが間違っていたのかもしれない。やはり魔法で至れる所には限界があるのかもしれない。では、何をすればよかったのだろうか)
次第に薄れゆく意識の中で、大賢者はずっとそれだけを考えていた。
そして、彼は気付いてしまった。
(筋肉だ、私には筋肉が足りなかったのだ! 生まれ変わったら、生まれた次の日から筋トレを始めよう。そうすればきっと最強になれる!)
大賢者は確信していた。これが自分の人生において最大の偉業であり、最大の発見であると。惜しむべくは、今やこれを弟子に伝える手段がないこと、それぐらいだった。そして偉大なる男は眼を閉じ、永遠の眠りについた。
最強の大胸筋と謳われた男がいた。彼がその一生の中で成し遂げた偉業は、両手両足の指で数えても足りないほどだ。
世界征服を目論んだ魔王を殴殺し、破滅の邪神を殴り飛ばし、狂える龍王を撲滅し、等々。つまるところ、何度も世界を救っている。それが第一に挙げられる彼の偉業である。
また、筋肉の分野においても彼は数々の偉業を成し遂げた。筋肉改造法の一般化に貢献し、新たな筋トレ法を確立し、等々。彼一人の手によって筋肉の価値は数段階上昇したと言っても過言ではない。
そんな大胸筋は死の床についていた。筋肉の力によって老いを遅らせて300年間生きてきた彼も、生きとし生けるものの定めである寿命には勝てなかったのだ。
大胸筋の危篤、その知らせを聞いて各国の王が、数多くの弟子が、筋肉に目覚めて改心した敵が、彼のもとに集まってきた。だが、大胸筋は彼らを部屋の外へ追い出した。
一人になって彼は考えた。何が足りなかったのか、と。
彼は生まれた次の日から何かに導かれたように、最強になるために筋トレを始めた。そして、最強になるために筋肉を極めた。その過程で生まれた『大胸筋』という呼び名も、彼にとっては付随品でしかない。
今や、世界のどの場所においても、彼が最強であるという事に文句をつけるものはいないだろう。だが、そう考えていない人物がたった一人だけいた。そう、大胸筋本人である。
(たとえこの世界に私に敵う相手がいなくても、私が最強と言えるはずもない。私だって心臓を四日間貫かれ続ければ失血死するだろう、五年間食事を断たれたら飢え死にするだろう。この程度で最強を名乗ることなど烏滸がましい)
大胸筋は馬鹿だったのだ。文字通りの脳筋だったのだ。
まあ、生まれた次の日から300年間欠かさずに筋トレを続けるなど、それぐらい頭のネジが外れていないとできないのかもしれない。
(では私に足りないものは何か。それがわからない。私はあまりにも弱すぎる。生まれた次の日から今まで欠かさずに筋トレをしてきたのに、それでも最強には届かなかった。私はどこで道を間違えたのだろう)
彼にとって、自分の死を惜しんでくれる弟子達も、自分が死んだ後の世界も、自分が死ぬことすらも、もはやどうでもよかった。
彼が悔やんでいることは一つ。自分が最強に至ることができなかった、それだけである。
(私は何をすればよかったのだろう。そもそも筋トレをしたことが間違っていたのかもしれない。やはり筋肉で至れる所には限界があるのかもしれない。では、何をすればよかったのだろうか)
次第に薄れゆく意識の中で、大胸筋はずっとそれだけを考えていた。
そして、彼は気付いてしまった。
(魔法だ、私には魔法が足りなかったのだ! 生まれ変わったら、生まれた次の日から魔法の鍛錬を始めよう。そうすればきっと最強になれる!)
大胸筋は確信していた。これが自分の人生において最大の偉業であり、最大の発見であると。惜しむべくは、これを弟子達に伝える手段がないこと、それぐらいだった。そして、偉大なる男は眼を閉じ、永遠の眠りについた。
ーー以下、無限ループーー
これは受験勉強によって頭がおかしくなったために投稿された作品です。
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