同じ書き出しでふたつの話(砂丘 性格 過半数)
三題噺(砂丘 性格 過半数)
出だしの「過半数に負けたことがあるか。それは、砂丘の中で1人残されたような、そんな心地になるものだ。」力強い文に釣り合う文章を考えましたが、よく分からない短篇が2つ出来ました。
①
過半数に負けたことがあるか。それは、砂丘の中で1人残されたような、そんな心地になるものだ。
あれは、そうだ。帰りの会の出来事、俺は悪くないって言ったのに、皆俺が悪いなんて口々に言いやがった。
ほら、あの性悪の顔を見てみろ、今にも笑いだしそうな顔をしている。
そう喚いたら、お前が性格が歪んでいると、敬愛すべき先生から頬を叩かれたんだっけ。
その時あいつの口元が、ハッキリと釣り上げられるのを俺は見たんだ。だからそれ以来、多数決というものは嫌いなんだ。
ぇ、え?あぁすまない。今はジャンケンをしていたんだったな。それで?たしかお前が2勝して、俺が一勝した状態か。
全部で何回勝負だったかな……まあいいか。
さぁ、ジャンケンを続けるぞ。
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②
過半数に負けたことがあるか。それは、砂丘の中で1人残されたような、そんな心地になるものだ。
雨季になっても雨が降らない。
それがわかったのは、オアシスの水をほとんど飲み尽くす頃だった。
この地を捨てて、新しい地へ旅立つか。先祖代々引き継いできたこの土地とともに朽ちるかーー一族が出した答えは、新天地へとあゆみを進めることだった。
「なぜですか!長老。きっと祖先様は我々にめぐみをお与えになるでしょうに」
長老は深くため息をつき、首を静かに横に振った。
「お前の一族を誉に思う志は、素晴らしいと思う。だがどうだ?そう信じて、何日になる?待てど暮らせど、祖先は全く恵をもたらしてくれない」
だから尚更である。これは、きっと我らに与えられた試練なのだと、だからこそ耐え忍ぶべきだというのに。
「それは天命だと、受け入れるべきではないでしょうか!」
熱い想いが乗った拳で、机を強く叩いた。食卓に乗っていた、黄金色の食器が衝撃で揺れた。
「これ以上は、もう子供たちが耐えられない。お前の自己満足のために、彼らの命を散らせと言うのか」
怒りで震えた声色を滲ませ、長老は静かに青年へ問いかけた。
「ええ、そうなりますね」
彼の瞳は揺れることなく、まっすぐタペストリーへ注げられる。
それは先祖代々受け継がれてきた、旗印である。成人した時に、一段一段縫われていく。それは青年の背丈と変わらない長さで、そこに置かれていた。
だが、タペストリーに糸を折りこめる人間は、ほんのひと握り。
青年が成人の儀を終えた年は、彼ひとりの糸を通した。その糸は生まれた時に、両親から貰ったものだ。
青年の糸は一番下からやや上のところにあった。
両親は成人する前、乾季に亡くなったが、彼の糸より少し上の方に織り込まれていた。
今まで雨が降らない時期があったというのに、命のためだと長老は譲らない。
「――お前の頑固な性格は昔からだな」
長老は語気を緩め、青年を見据えた。
「お分かりになりましたか!」
「あぁ、お前の考えはよくわかった。だが、すまない。この地を離れるのは、決定事項なのだ」
瞬間、青年の頭は業火に見舞われた。
「なぜですか!」
「わしは、祖先の絆よりも今の民を大切にしたいのだ。」
信じられない気持ちで、彼は長老をみた。長の腕はひび割れた大地のように萎れていた。しかしそれは、長く風を受けても朽ち落ちない、集落の近くにある岩壁のように、びくともしなさそうだった。
「……わかりました。それならば」
青年はそう叫ぶと飛び上がり、タペストリーを天蓋から勢いよく剥がした。
「おい、お前!」
「この地を捨てるあなた方には、不要でしょう!誇りだけ持ち去ろうなど、なんとおこがましい!」
そう言ったきり青年は、夜の砂漠へと駆けていった。
ひたすらに、走る、走る。
集落より外へ、砂漠の真ん中へ。冷たい砂漠の夜を切り裂いて、遠くへ駆けて行く。
砂丘を登りきった所で、青年はぱたりと倒れた。
凍てつく冷たさの中で肺は凍え、既に息絶え絶えである。
あまりの寒さに、青年はタペストリーに包まった。それは暖かく、冷え切った体を温めてくれる。
「私には……これだけしかない」
そう青年は呟いたきり、二度と目を覚ますことはなかった。




