影絵
1年前に書いた短編。
お題「6フィート下」「影絵」
あるよく晴れた日の午後。外で洗濯物を干していると、娘が家から出てきて、私の前でしゃがみ込んだ。
「パパ、そこから動かないでね」
そう言うと、足元の下で娘が影絵遊びをしはじめた。言われるがままにしていると、自分の影から、にゅっと3つの影が出てきた。
「それはなんだい?」
「ママとパパとわたし!これからピクニックに行くの」
「……そっか。楽しんでおいで」
どうやら娘には、私の影が自宅のマンションに見えているらしい。
「いってきます!」
そうして3つの小さな影は、どんどんマンションから遠ざかっていく。離れていく娘の小さい背中に、たまらなくなって、思わず後ろから抱きしめた。
「わっ!なに? どうかしたの?」
娘は驚いたように振り返る。
「今日、ママに会いに行こうか」
「日曜日じゃないのにいいの?」
「今日はいいお天気だから、良いんだよ」
「やったー!本当のお出かけだ!」
娘は楽しくなったのか、何度もかえるのようにぴょんぴょんと飛び回った。
妻は今、6フィートの下、冷たい土の中で眠っている。
1年前、妻が職場で倒れたと連絡があった。すぐに病院に搬送されたが、意識が戻らない。脳出血との事だった。数日奮闘したものの、そのまま帰らぬ人となってしまった。
時を止める能力があれば良かったのに。そうすればずっと、あの影たちのようにいられたのに。
「さ、花屋さんに寄って、ママの好きなお花でも買っていこうか」
「うん!」
マンションの外に出て、教会へ向かう。
道路には、私の影と娘の影だけが、くっきりと映っていた。