魔法の練習 1
「起きてください! 朝ですよ!」
「・・・・・・あと30分・・・」
「これでもですか?」
首筋に何か冷たくて細いものが当たっている気がする。いやな感触がしてなかなか落ち着けないので目を開けた。
「・・・えっ?」
「起きましたか。このまま起きないようであればもっとタノシイ事が出来ましたのに。」
「・・・それは?」
「これですか? 見ての通りナイフですけど?」
「・・・何をする気で?」
「ここは、治安が悪いといいましたよね? つまり、寝ているところを襲われることもあります。これでもマシな方ですよ? 一度声を掛けましたからね。本当であれば、あなたは気づかないうちに殺されてますからね?」
「は、はい。」
「分かったのであればいいです。本当は、私が近づいたところで起きるのがいいんですけど、安全なところで育った人にはそう簡単にできることではありませんからね。次から頑張っていきましょう。ということで、朝食をどうぞ。昨晩の残りですが。」
「あ、ありがとうございます。」
実のところ、朝から襲われかけ、食事も昨晩と同じ肉ばかりだったので、あまり食べたくはなかったが、出された食事は食べきる主義なので何とか食べきった。やはり相変わらず胃もたれしそうな食事だった。
「食べきられたようですね。では、今日の予定をお話しさせていただきます。まず、初めに意思疎通ができるようにこの周辺地域の言葉を覚えてもらいます。これは、読み書きと会話ですね。後、周辺の地理と貨幣についても教えます。多分、昼までには何とかなるのでその後、昼食を取ってから戦闘訓練を行います。」
「えっと、言葉ってそんなに簡単に覚えられますか?」
「大丈夫です。何とかなります。なので、今から始めていきます。」
「はぁ」
結論から言うと、何とかなった。なってしまった。会話については、日本語に方言が混じったような感じだったので、すぐに大体の意味は分かるようになった。読み書きについても、ローマ字とほぼ同じだったのですぐに覚えることが出来た。地理は、江戸時代とかにありそうな地図を見せられただけだし、貨幣も現物を見せられただけだった。なので、昼前には終わってしまった。
「ほらね、何とかなりましたでしょ? 予想より早く終わりましたが、今から昼食にしましょう。とは言ってもただの保存食になりますが。」
そう言って出されたのは、カロリー○イトのような見た目のものだった。保存食、というものはどこに行っても同じようなものになるのか。今までの食事は見た目が味に直結していたので、これは少し期待できそうだ。 いただきまーす。 そう言って、大きく口を開けて一口で食べた。
「味付けは、全くないただのクッキーですので多分口に合わないと思いますが。」
「ウホッ、ゴホッ、ゲフォ」
「どうされましたか?」
「そういう事は先に言ってください!」
「・・・・・・? 何かありましたか?」
最悪だ。口の中がパサパサする。あと、味が全くない。まずい、とかより食いものじゃない気がする。この世にこんな食い物があるとは思わなかった。
「あぁ、水ですね。はいどうぞ。」
俺は、差し出されたコップをひったくる様にとって飲み干し、怒鳴った。
「なんて食い物なんだ!!」
「落ち着いてください。これも、この辺りで旅の途中に食べられている一般的な保存食です。昼食の代わりとしても食べられていますからこれが食べられないと後々困りますよ?」
「そうなのか? よくこんなものが食えるな。」
「そういえば忘れていましたが、この付近では岩塩は取れるようですが、香辛料や砂糖は取れないようです。また、香辛料や砂糖は交易である程度入手しやすくなっていますが、まだまだ貴重です。なので、旅の途中でとる食事は味付けされていない事がほとんどですし、この付近の街でも味付けは塩が多いです。これからは、料理には期待しない方がいいと思いますよ?」
「なるほど。言われてみれば今までこちらで食べた料理には味がついていなかったな。」
「分かってくれたようで何よりです。あと、この付近では、という事なので別の地域ではしっかり味付けされた料理が食べられるところもあります。まあ、保存食はあまり変わりませんが。」
この世界の料理についてはよく分かった。何が何でもうまい飯が食えるところに行かなければ。
「それだは、昼食も食べ終わられたようなので戦闘訓練に入りたいと思います。とは言っても、あなたは剣や弓、槍が仕えそうにもないので、魔法をメインで後は・・・そうですね、剣道を少しやっていたようなので剣について教えていきましょう。」
「魔法! やっぱりあるの! いいね、テンション上がってきた! 教えて、教えて!」
「そんなに焦らなくても教えますから。それより、魔法を使うには集中力が必要なので落ち着いてください。そんなんだったら使えませんよ?」
失敗、失敗。魔法と聞いて少し気分が舞い上がっていたようだ。大丈夫、落ち着くんだ。
「おっと、魔法を使う前に教えておくことがありますのでよく聞いてください。」
「はい! 分かりました!」
「いいへんじですねー。返事を良くしても何も変わりませんよ? まあいいでしょう。まず、魔法は大きく分けて無詠唱と詠唱の二つあります。どちらも同じ現象を起こせますが、詠唱魔法はあまり集中せずに発動できる反面、発動に詠唱時間が必要なことと、詠唱するので相手に何をしようとしているのかバレる欠点があります。無詠唱は詠唱せずに発動できるので相手に何をしようとしているかバレませんが、集中していないと発動しなかったり、中途半端に発動して、こちらの想定外のことが起こったりするので注意してください。」
「説明も終わったので、魔法を発動する練習をしましょう。まずは、簡単に発動できる詠唱魔法から行きましょう。こちらが言う言葉をそのまま復唱してください。」
「分かりました。」
「今回は水の球を発生させます。では、いきますよ。『ra———』」
きれいな歌? みたいな音が聞こえた。そしたら、自称神様の手元に水の球ができた。よし、俺もするぞ!
「『ら~~~』」
何も起こらなかった。
「あれ? なんでだ?」
「発音が違います。こうです『ra———』」
「『ら~~~』」
「だから違います。『ra———』」
「『ら~~~』」
「違います! 『ra———』」
「『ら~~~』」
「ダメですね。発音が違うので魔法が発動するわけないじゃないですか。頑張ってください!」
「『ら~~~』」
「まだまだ!」
「『ラ~~~』」
結局、この後何回も復唱したが、発音が違うらしく一度も魔法は発動することはなかった。
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あの後、何度も練習をしたが魔法が発動する兆候すら見せず、夕方になってしまった。
「やはり、あなたの世界の言語の発音にはない音なので発音しづらいのでしょう。こればかりは時間をかけなければどうにもできません。想定外でしたが今日の練習はここまでにしましょう。明日は、無詠唱魔法と剣の練習をしましょう。」
魔法があると喜んでいたが、まさか自分にその才能がないとは・・・
「落ち込まないでください。詠唱魔法も無詠唱魔法も同じ魔法ですが、発動方法が違うので魔法すべてが使えない訳ではありません。」
どうせ俺は何をやってもダメなんだ。
「落ち込んでも何も起こりませんよ? 後、落ち込んでいるからと言って『スキル』や『チート』を与えたりもしませんよ?」
「ひどい! 少しは慰めてくれ!」
「元に戻りましたね。では、夕食にしましょう。前日と同じですがどうぞ。」
はぁ~。そう簡単に物事が進むはずもないか。諦めてご飯を食べよう。
「疲れたでしょう? 食べ終わったらすぐに寝ていいですよ。明日も早いので。」
ありがたい。朝が早かったからか、それともお腹がいっぱいになったからかは分からないが、少し眠たくなってきた。
「では、おやすみなさい。」