能天気
オレは志骸。
油赤子だ。
つってもあれだな。自分で自分を赤ちゃんって言っちまうくれえの、童顔なのもあるが、これはオレの因果だ。万年12歳だかんな。
しかもだ。胸くっそわりいことに、今回挑む任務では、9歳という設定だ。
「ふtっつつつつじこ!!」
(ふざけるな!!)
と叫びたくなったぜ。
もちろん美少女であるオレはそんなことはしねえ。
こんな語り口だが、自分のキャラはわきまえている。
それが大人の女ってもんだ。外見12歳だけどな。
ちなみに志骸は、滋賀の火、不知火という意味もある。不審火ってやつだな。
そんなわけで、オレの専門は、美少女フェイスを活かした潜入活動と、爆薬とか使った破壊工作だ。
おっと、言いたいことは分かる。
何それなんてアニメ設定?
そう言いたいんだろう。わかる、分かるぜ。
なんせ休暇のオレはゲームニートだかんな。
昼夜は完全サマーソルトだ。サマーソルトがわかんねえ奴は逆宙返りをマットの上で試してくれ。
首折っても知らねえがな。
アニメなんざしこたま見た。まあ、大体萌え系戦艦ロボット物には、オレみたいな外見のロリキャラが1人はいてだな、「ばかばっか」とか言ったりするもんだが。
れっきとした大和撫子な俺も、さすがに同じ事を言っちまったぜ。
空港でだ。
オレは今回組む、九虚の狐野郎と出発の時間を待っていた。
境間のおっさんが気を利かしてくれてだな、多濡奇のクソビッチも、オレたちも、奈崩の細菌野郎も、全員ファーストクラスで案件に飛ぶことになっていた。
まあ、村はあり得ないくらいの超絶悪の組織だかんな、どれくらいあり得ないかっつううと、ショッカーが可愛く思えるくらいだ。だから、金には困っていない。
けど、ファーストクラスとか、そういう気配りは、さすが境間のおっさんだ。
全くいい男だぜ。
おっと、これ以上は私情だ。
話を戻す。
オレはレッドカーペットみてえなファーストクラスの受付から、ちっと離れたところで、ゲームをしていた。セトリスって、煉瓦が降ってくる奴だな。
懐にはパスポートがある。トレードマークなセンター両分けのサラサラヘアーに、こぼれるくらいでけえ瞳。目じりが下がってるのが惜しいんだがなあ。まあ、とにかく美少女だ。
載ってる偽名は「甲斐火蛍」。
滋賀火蛍の方が良かったが、これは相方の狐野郎が「甲斐九朗」だから仕方ねえ。
今回、あいつがオレの親っつう設定だかんな。名字を合わせる必要があったのは分かる。
わかるが!!
同じ苗字って、夫婦じゃねえか!!
……まあ、相方だ。こんな語り口だが、オレは冷静でクールな仕事に自負がある。
だからだろうなあ。
相方にも、クールであってほしい。
なのに、なのにだ。
あの馬鹿狐。
クソビッチんとこ行って、どや顔でなんか話してやがる。
ビッチはすっげえ落ち込んでるが、どうせ自分で墓穴掘って自爆したんだろう。
あいつはそういう馬鹿女だ。
オレはセトリスをしながら、画面を傾けて、奴らの様子を伺っていた。
境間のおっさんに、押さえになってくださいね、とか言われたからな。
でも、まあ考えすぎかもなあ、たかが空港だ。
どういう勘違いにせよ、サヨナラオタガイガンバロウ、つう常套句は確定している。
……と、思ったときだ。
ビッチが狐の手を引っ張って、壁に連れて行った。
叩きつける。
そのまま壁ドン……って、おい。それは男が女にするものだろう。
いや、おい、その動き、マジか。
なにやってんだよおおおおおおおおおおお!!
……クソビッチは壁を崩壊させやがった。
0距離の打撃。寸勁。武に覚えがあるアピールはここじゃねえだろう。
てめえはゴリラか!?
しかも、案件に出発する前に目だってどうすんだ。
前任者のおっさん殺した敵に見つかったらデッドエンドだ。
てめえはズぺランカーか!!
いきなりデッドエンドしてどうすんだよ!!
と、テンション高すぎたんだわオレ。
携帯ゲーム機、握り潰しちまった。
ぐっばい……セトリス。
オレは2人がフロアの座席に戻るのを確認してから、トイレに向かった。
こめかみに昇った血を、顔洗ってクールダウンしたかった。
通路の角を曲がる。
T字道の突き当りの左右が男女に分かれている。
その、手前に。
奈崩がいた。
背を壁に預けて、腕を組んでいる。
無駄にすげえ威圧感だ。
オレの後ろに来た、多分トイレ行きたいんだろうな、老若男女が、目を合わせないように引き返していくのが分かる。
うん、そりゃあ、こええよ。
「なに、やってんだ?」
「……」
しかとかよ。
オレは口元に、皮肉を浮かべて笑い、肩越しにビッチに視線を投げる。
ぴんときたからだ。
「ここなら、あの女の視界に入んないもんな」
威圧感。
暴風のような迫力。
そうだなあ、虎でも鼻先に迫ってるみてえだ。
オレは首を傾げた。
「図星か?」
「てめえ、殺すぞ……!!」
オレは吹き出した。
なにこれわろす。おもれえ。
気が済むまで笑ってから、奈崩に歩き出し、ヤツの顎の下で、見上げる。
「……やってみろよ、疫病神。てめえがオレを殺したらなあ、案件確率下がるぜ? つうことはよお。てめえの愛しの多濡奇ちゃんも死んじまうよなあ」
オレはとても優しい顔をして、目んたまにいつくしみって奴を込めて言った。
細菌野郎は、ちっ、て舌打ちをして、目を背けた。
「……便所だろ、クソガキ。ささっと入れよ」
「てめえにゃ指図されねえ。細菌野郎。つうか、教えてくれよ。あのクソビッチの何がいいんだ? 歌歌えるだけの便所女だろうよ?」
片手で襟元を捻じ曲げられた。
そのままアームレスリングみてえに、宙にひねりあげられる。
息がかかり合う、いわゆる鼻先って奴だな。
奴はくわっ!! て目んたまでっかく開いて、言葉を吐いた。
「手前……!! あいつを悪く言うんじゃねえ!! 殺すぞ……!!」
口の端にシュールな笑いがこみ上げる。
悲哀もな。
てかよお、なんでこう。
……バカばっかなんだよおおおおおおおおおおおお!!!!!
「バカばっかだな」
こう呟きながら、細菌野郎の指、肉だけ吹っ飛ばしてやろうかと思った。
もちろん爆弾でな。




