プロローグ3
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エネルギーバリアが張られた裂け目の前に二列横隊で整列した12人の姿があった。
「これより、裂け目の内部に侵入する。内部がどうなっているのかはほとんどわからん各員は警戒を厳にして、進むように。なお、ビーム兵器の使用は厳禁であることを忘れないように。ただし、もし万が一必要を迫られた場合は使用するときにアラートを鳴らして知らせるように。ではスーツ起動小隊前へ」
隊員全員の顔を見渡しながら話すクワの胸の中には言いようのない不安を感じていた。
(嫌な予感がする、なんというかまるであの時のような。)
「了解!!スーツ起動!!」
大声に我に返り浮かんできた不安を振り払いつつシールド解除の指示を司令室に送る。
(まぁ杞憂だろ)
そう思いながら裂け目へと歩を進めていく。
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‘空間同士の間に存在する隙間は時間の流れが全く不明で、入ってみなければわからない’
そう論文に書いたのは人類史上最高と言われるある物理学者だった。
「な、何なのだ!?あれは!」アーマースーツの胸に少佐の階級が記されている男が叫んだ。
彼は第二次調査隊隊長ワンであった。彼の目の前で異形の怪物が猛威を振るっていた。
それは人の形に似てはいるものの人ではない何かであった。
‘ガガガガガガガガガガガッ’‘ガガガガガガガガッ’‘バシュゥゥゥゥゥ’
銃声が絶えることなく続き、時折紅蓮の炎が上がる。
「負傷者が10名を超えました。目標は依然として健在。なおアーマーからエネルギーコアをむしり取られた兵は活動が不能になったため後方支援に当たらせています。」
若い少尉がワンのもとに現状の報告に来た。
「弾薬はまだまだあるはずだが、奴には全く聞いていないようだな。」
「ハッ。まったくと言っていいほど効果がありません。驚くべき装甲です。」
「あれは装甲というよりもシールドのようなものを展開しているように見えるな。しかしだからと言ってビーム兵装を使用しても効果があるかどうかわからん。ひっかかるのは奴が我々のアーマーからエネルギーコアを回収していることだ。」
「自分も同感です。しかしやはり奴は奪ったそれを転用しているかと」
「なぜかね?」
「これをご覧ください。」
そういいながら少尉はタブレット端末を取り出してワンの目の前に差し出した。
「これは、つまり、奴はどんどん力を強めていると?」
「おっしゃる通りです。ですからわたくしは撤退を具申しにまいりました。」
「確かに奴は全く得体のしれない生物、第一次調査隊の二の舞にならないようにするためにもいったん引くべきか・・・。奴が第一次調査隊の行方のカギであることは間違いなさそうだしな。よし、各員に通達、互いに援護しあいながら徐々に撤退をかい ‘‘ズン’’ 」
ワンの目の前を火球が駆け抜けていく。そして数秒前まで話をしていた少尉の姿はもうそこにはなかった。
「「80mmキャノンが効かないなんて・・・・。そんな馬鹿な。」」
「「敵、前進を開始。攻勢を強めています。」」
「「負傷者を早く運び出せ!!戦闘の邪魔になる!!」」
「「だ、誰か助けてくれ。脚部装甲がパージできない!!」」
「「こ、こちら第三小隊!司令部、応答してください!!て、撤退の許可はまだですか!?」」
朦朧とする中ワンの耳に無線から様々な声が聞こえてくる。
「「も、もう駄目だ!だ、誰か。うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」」
‘‘ズン’’
振動と同時に無線が途絶する。
(悲鳴?いったい誰の?そういえば私は今何を?)
急速にワンの意識が回復し始める。
「うっ」
割れかけたバイザーにはいくつものアラートが表示され、警告音が鳴りっぱなしだった。
ワンが顔を上げると、と周りは火の海だった。目の前を通って行った火球のたった一発で司令部が壊滅したのであった。戦闘を続けている兵の姿はどこにもなくまるで地獄のよう光景が広がっていた。
??「クックックックックッ。俺様も運がいい。まさか逃げ込んだ先に上質の魔石を腹に抱えた人族どもがこんなにたくさんいるとはな。得体のしれない攻撃をしてきたから何かと思ったが全く大したことはなかったな。」
「んな!?」
先ほどまで化け物だった標的は人型に姿を変えていた。
‘ピピピピピピピピピピピピ’
エネルギーセンサーが激しく音を立てる。
それはつまり目の前にいる敵が膨大なP・Eを所持していることを意味していた。
(な、なぜだ。戦闘中は全く反応がなかったのに。)
??「はぁ。落ち着いたようだな。しかし上質な魔力だ。同化するのに少々時間がかかったな。」
(センサーの反応が消えただと!?それに魔力とは一体・・)
ふっと敵が笑ったように見えた次の瞬間ワンは腹部に大きな衝撃を感じた。
‘‘ドゴォ’’
「グハッ」
ワンの肺から一気に空気排出され壁に叩きつけられた。
「「警告、エネルギー調節弁が破損しました。直ちにアーマースーツをパージしてください」」
??「まだ生きている奴がいたとはなんという僥倖!おい人間、その魔石を保管しているところに俺様を案内しろ。」
いつの間にかワンの首が絞められ、体が浮き上がっていた。
「い、嫌だと言ったら?」
「貴様はここで死ぬ。」
ワンは首が徐々にしまっていくの感じた。
アーマースーツには簡易式のバックパック式スラスターがついている。ワンはそれのエネルギー弁を暴れるふりをしながら密かに開放した。
‘ビー’
「「警告、バックパック内に過剰なエネルギーが流入しています。10秒後に強制パージを実行します。」」
「わかった」
ワンは手を下して腰にあるスイッチに手をかけた。
「そうか。では「おまえと一緒に地獄行きだ!!」何!?」
そして
閃光が広がった。
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「九羽隊長、約1キロ先で高エネルギー反応確認。」
「何?誰かビーム兵装を使用したのか?各分隊に確認を取らせろ。」
「各分隊から報告。いずれも使用していないとのことです。」
「そうか。では追加で反応があった地点で合流することを伝えてくれ。」
「了解」
(考えられるのはいずれかの調査隊の生存者だと考えられるが、戦闘中の可能性が高いな。しかも空間内でビーム兵装を使用するほどの事態といううことになる。嫌な予感がするな。)
一抹の不安を心に抱きながら他の兵とともに合流地点へとむかった。