マサイ戦争
「っって~」
俺はTHE・動物園組から受けた制裁の後をさすりながら靴箱から上履きと靴を入れ替えた。靴を手に持って校舎内を進む。
保健室や相談室、はたまた進路指導の為の教室の前を素通りし、職員室の真下にある職員用玄関で靴に履き替え、ピロティーへ出た。
ピロティーに出てから校舎と職員用玄関の間の少し広くなっているスペースに鞄を置き、リュックのみを背負った。右手に進み、第三校舎の横から階段を下りて右に進み、公園のような道とテニスコートの前を通過して急勾配の坂を半分ほど降りたところに俺の所属する部活の部室がある。
その奥には、射撃場。
そう。何を隠そう俺の所属する部活は射撃部だ。俺はぶっちゃけてしまうとこの射撃部に入るためだけにこの学校に入学した。
ちなみにさっきまで教室にいたマングース…改め、田川も同じ部活に所属している。
そうなると「じゃあ田川も部活行けよ!!」とツッこむ方もいるかもしれないが、あいつは部活にちゃんと来る奴なのでそのツッコミは丁寧にお返しします。
ってなわけで部室に入ると明るい声が俺を迎えてくれた。
「やっほ~慈亜ちゃん!」
「あ、佐国さんこんにちは~」
「「佐国先輩お疲れ様です!!」」
俺の先輩の3年生、雨屋先輩と利見先輩、後輩で1年の葉渡と津川。そして2年の俺の、計5人がこの中学校の射撃部の女子だ。
この部活は男子は腐る程いるのだが女子は少ない。その理由は「射撃部」などというゴツイ名前の部活だからだろう。
男女比は2年生男子約10人女子1人と言えば察していただけるだろうか。
一応運動部の枠に入るし筋トレなども行うのだが、この部活はユルいのが売りのようなものなので他の運動部に比べれば休みも多いし楽なものだろう。
「こんにちは、お疲れ様です!」
と挨拶を返すと、置いておいたジャージに着替えた。
射撃部の活動は高校生中心だ。だから射撃場が使えるのは土曜日の中学生の練習時間か平日の放課後に早く来るしかないのだが、放課後を30分ほど過ぎると高校生が来るので、平日はほとんど筋トレに割り当てられる。
今日は動物園組にちょっかいをかけたのでもうそれくらいは経っているだろう。案の定、時計を見ると放課後から30分少し過ぎたくらいだった。
「先輩、そろそろ筋トレになりますかね?」
俺が確認のために先輩達に訪ねてみた。
「うーん…そうかな。そろそろ筋トレだと思う。」
と言われた。すると外から
「中学射撃部筋トレいくぞー!!」
と声がかかったので、俺たちはピロティーへ向かうことにした。
ピロティーに行くと先輩たちが筋トレの内容について話し合っていた。
各々で集まった部員はそれぞれ好き勝手に話したり巫山戯合ったりしていたのだが、1点だけ異様な光景が広がっている。
他の人からは少し離れたところで2人の男子部員が巫山戯合いにしては少しやりすぎと思えるほどの戦闘を繰り広げていたのだ。一人はさっきまで教室にいた田川だ。恐らく教室で着替えてきたのだろう。もう一人は少し不良のような雰囲気のある男子、遠野 晴だ。ツンツンと逆立った髪が特徴的で黒縁の眼鏡をかけている。運動神経が良く、しょっちゅうドロップキックやらシャドーボクシングまがいのことを人に当たらないようにやっている。さっきは不良のような雰囲気といったが本人にそんなところはなく、良い奴だ。ちなみにリア充で彼女にベタ惚れしている。その二人が殴り合い蹴り合いしているのだがお互い当てようとはあまり思っていないようで、綺麗に避けている。
二人はしょっちゅうこんなことをしているのだが、俺はこれを「マサイ戦争」とよんでいる。理由はこの戯れあい中に二人がピョンピョン跳ね回ることに由来している。だから俺は二人をマサイと呼んでいたのだが田川が認めないので今ではマサイというと遠野のことになっている。
「ふはっっ。今日もマサイ戦争御苦労様。」
俺は半ば反射的に軽口を叩いた。否、叩いてしまった。俺の言葉に反応した二人がピタリと動きを止める。
「おい遠野。ちょっと休戦して先にコイツ始末しよう」
田川がニヤリと口角を歪めて言った。
「ハハッ。そうだな。先にこいつ片付けるか」
と同意した遠野も笑う。
二人がゆっくりこっちに近づいてきた。
「えっ?ちょっと待とう?イジメ良くない…」
俺が態とらしく声を震わせて言ってみると田川がハッと嗤った。
「自分から言っておいてよく言うなぁ~!!」
あ、拙いこの人怖い。
さて、俺が最寄の交番まで駆け込むのが先か、こいつらにボコられるのが先か!
因みに最寄の交番まではかなりの距離がある。
自業自得だと思うだろ?
まったく、自分でもそう思うよ。




