第4話 疑惑
―1943年8月、米海軍の下で第二次世界大戦を戦っていたケネディは、ソロモン諸島近くで日本軍との戦闘中、海に投げ出された。
ところが持病の背がうずく中で彼はなんと傷を負った他の兵士達3人をボートで奇跡的に救助し、その類まれなる勇気とリーダーシップを称えられて褒章を受けることとなった。
その他においても彼は大いに活躍し、負傷兵を表彰するパープルハート賞、第二次大戦勝利賞などなど数々のメダルをその手に納めた。
そして終戦後、戦死した兄に成り代わりケネディは政治の世界に入る。
「ひぇ〜、ヒーローだね、まさしく。ほんとかよ。」
ジョンは再び茶々を入れてきたが、ステファンはそれを無視して画面を見つづけた。
― 1946年、ケネディはボストン市長選に当選し、市長を2期勤めた後、マサチューセッツ州知事に立候補。
そして1952年、知事に当選。
プライベートでは1953年、名家の令嬢ジャクリーヌ・ブービエと結婚。ところがこの期間中、持病の悪化により手術を受け、命の危険にさらされる。後にこの時の体験を基に書き下ろした自伝は1957年に出版され、ケネディはピューリッツア賞を受賞した。
「ただでは転ばない男だね、ほんと。」ステファンは思わずつぶやいた。
「まさに絵に描いたような出世ストーリーだな。」ジョンも感心してうなずく。
― 1956年、ケネディは民主党代表の副大統領候補にノミネートされたが、あえなく落選。
しかし、1960年、彼は大統領選に立候補する。その結果、テキサス州知事リンドン・ジョンソンなどをはじめとする民主党における並み居る候補者達を破り、ついに民主党代表の大統領候補となった。
「えーっと、この時、合衆国が抱えていた政治的な問題といえば、貧困層の解消と景気回復・・・、ぜ〜んぜん今と変わり映えしねぇじゃねーか。俺たちのふところがあったかくなるのはいつの日か?!」
「ジョン、ちょっと黙ってろよ、次が陰謀説によく出てくるところなんだから。」
「えっ?!どこどこ?えーっと、キューバ問題、そしてソビエトによるミサイル開発と宇宙開発計画に対するアメリカの科学開発の首位奪還・・・。あー、そうか、ロシア人の方がロケットの打ち上げは最初だったっけ?」
「どうりでお前の歴史がいつもEのはずだよな。」ステファンはため息をついた。
「へへ。そう言うなよ。・・・って、ちょっと待てよ。お前やっぱり陰謀説、調べてんじゃん。どこが陰謀説に関りあるって?」ジョンはあわてて回転椅子に座りなおした。
「まぁ、少しは興味がないっていやぁ、嘘になるよな。ちょっとぐらいならその辺りを見てみる気はあるさ。俺が聞いた話によると陰謀説に関りがあるって言うのは、キューバ問題が一番臭いってことだ。当時、ケネディと政治的意見を対立させていた奴らが黒幕って噂はあるし。」
「ああ〜、なんかその辺は映画かなんかで見たような・・・。」
「悪いがこのあたりをエッセイにするのはやめておこうな。
ドーソンに外交問題がどうたらこうたらと突っ込まれたら、元も子もないからな。」
ステファンが首をすくめて言うと、ジョンはそれを真似てステファンの顔を覗き込み、にやっと笑った。
「お前も結構、弱気だよな。」
「うるさいなー。とにかく先にネタ調べだ、ネタ調べ。えっと・・・、その他、ケネディが抱えていた問題には彼自身がカソリックであるための宗教問題も含まれていた。」
「カルト集団がカソリックのケネディを暗殺、ってか?・・・そんな話、つまらねぇの。宗教問題なんて俺は嫌だね。絶対書きたくねぇぞ。もっと他にないのかよ、次いけよ、次。」
ジョンは興味なさそうに片手を振った。
「別に俺も宗教問題なんて書くつもりはないね。あのネイサンあたりは好きそうなネタだろうけどね。」ステファンはふっと意地悪くネイサンの嫌味顔を思い浮かべた。
ステファンが彼の顔を思い浮かべたのには訳があった。
ネイサンというのはステファンと同じクラスの人気絶調のスポーツマンだ。
頭がそれほどいいわけではないのだが、そのハンサムな容姿とスポーツで鍛えぬかれた身体がクラスの女子にはダントツの人気を誇っていた。
そしてステファンが何より気に入らないのは、これまた同じクラスのリリアンもどうやら彼に気があるらしい。
3ヶ月前、そんな噂を耳にして以来、ステファンは事あるごとにネイサンを憎々しく思っていた。
「ああ、あいつ確か、日曜になると親父やお袋と一緒に教会のサービスに出かけるらしいな。
まじめなこった。でも、あいつが教会に行くのは別の目的があるらしいぜ。」
ジョンは何の気なしにネイサンの話をした。
「目的って?」
ステファンはジョンの言葉に気のない素振りをしながらも必死で耳をそばだてていた。
「どうやらあいつの本命が来るんだってよ、教会に。真面目な振りしてデートに誘おうって寸法だろ。」
「誰が来るって?」
ステファンは内心では必死だったが、表面ではそんな素振りを毛ほどにも見せないようにしていた。
「しらねぇよ、俺。ネイサンと友達付き合いしたことねえもん。
ただ、あいつのグループの一人は俺のガキの頃からの知り合いでさ、そいつからそんな話をたまたまちらっと聞いただけさ。
そういや、お前、最近やけにあいつにつっかかるね?
はは〜〜ん、なんかあるんだな、奴と。」
ジョンは嬉しそうに自分の腕をステファンの首に巻きつけた。
「おい、白状しろよ。何だよ、えっ?」ジョンはステファンの首をはしゃいで絞める振りをした。
「別に何もないよ、なんでもないんだって!
ただ、ちょっと俺も教会の話を耳にしただけさ。
とにかくそんなことよりこっち、こっちが先だろ?!」
ステファンはあわててジョンの腕を強く振り払うと、再びパソコンの画面に顔を向けた。
そうはいってもステファンの頭の隅ではどうすれば今週の日曜日、一人でこっそり教会に行けるだろうかと密かに考えてもいた。