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第11話 推理作法

午後の授業が終わると、ステファンはうちにすっ飛んで帰ってきた。

「あら、お帰り」玄関先の庭の手入れをしていたサラが、ステファンに声をかけた。

「Mom、今日、ジョンのところへ泊まりに行っていい?」

「いいけど、ジョンのお母さんは知っているの?」

「電話してよろしく言っといてよ。俺、すぐに出かけるから」そう言うと、ステファンはすぐに二階への階段を駆け上がった。

「どこ、行くの?」後ろからサラが叫んだ。

「ジョンのとこぉっ!ジョンが先に話つけてくれてるから、もう向こうは分かってるはずさっ!」

ステファンは二階にある自分の部屋で着替えなどを詰めながら、そこから大きな声でサラに答えた。

「OK、あんまり夜更かししちゃ駄目よ」サラはそう言うと、電話のある台所に消えた。


ジョンの家に着くと、早速、二人はジョンのパソコンがある部屋に入った。

「図書館で調べ物してもいいけどよ。腹が減った時、困るんだよな」

そう言って、学校でジョンは自分の家に来るようにステファンを招いた。

「それに、親父もお袋も、今日はチャリティーコンサートに行くって張り切ってるからよ、お前と俺でJFK三昧できるぜ」ジョンはニヤっと笑った。

「かなり入れ込んでるな、お前。本気でA、取ろうなんて思ってないだろうな?」

ステファンはあきれた振りをして言った。

「なぁに、言ってんだい。俺はAどころか、ピューリッツア狙ってるぜ」ジョンはふふんとうそぶいた。

「Oh、Man! お前、もう、既にいかれちまったのかもな、JFKに。

実際、そう言う奴が、このアメリカ中、ゴロゴロいるけどよ。

お前もとうとう、その病気にかかっちまったのかも・・・」

ステファンは大げさに頭を抱えこんで首を横に振り、そう言ってジョンをからかった。

「お前、俺にそんな口、利いていいのかよ?車、何とかしてやったのに」

ジョンはそのまま、うすら笑いを浮かべてステファンの痛いところを突いて来た。


「どうやって?」ステファンはふいに真顔になった。


「へへ。俺のお袋は、チャリティーやら宗教活動には昔から結構、入れ込んでるのさ。

俺がちょっと教会に行くって言ったら、涙、流さんばかりに喜んでよ。即、OKさ。

これで日曜に車を借りる口実は出来たし、お前の友情への義理ってもんも果たせるし、お前はリリアンとめでたし、めでたしってことになりゃあ、一石三鳥ってもんだぜ」

ジョンは威張ったようにして言った。

「お前、俺を利用したんだろ?」ステファンはジョンの意図を見抜いて、ちょっとむくれた。

「まぁ、まぁ。そう言うなよ。お前も車、使えりゃ、それでいいだろ?

俺も車、使う口実ってのが欲しかったんだ。まぁ、お互い利害関係の一致ってとこだな」

ジョンはそう言ってステファンの肩を叩くと、一人満足そうにうなずいた。

ステファンはジョンの小細工をちょっと胡散臭くは思ったが、それでも日曜には何とか格好がつきそうだと思うと安心した。

これで心配事が一つ、減った。

そう思うと、目の前のJFKにもっと集中できそうな気がした。


「さて、早速、やろうぜ。

で、発砲場所の特定ってのは、どうするんだって?」

ジョンは机の前の椅子を引き寄せて、ステファンにそう聞いた。

「俺が思い出した記事ってのは、これだよ。最初に読んだんだ」ステファンは、ジョンのパソコンを開くと早速、サイトのいくつかを検索して、一番、最初に見た記事を引っ張り出してきた。


― 証言によると大統領一行は、ダラス空港からシティセンターに入ったところで道路を見渡せる位置にある教科書ビルの窓から発砲を受けたと言われている。

「Oh、No」と叫んでジャクリーヌ夫人は銃弾で倒れたJFKを抱きかかえた瞬間、コナリー知事もまた撃たれた。

車の列の後ろの方にいたダラスタイムズの写真記者ボブ・ジャクソンは一行がディーリープラザに入ったところで銃弾を聞いた。

「俺が見上げると、窓からライフルが引っ込むのが見えたんだよ。

窓の手すりんところに(ライフルは)置いてあったんだと思うよ。だけど、男は見てないんだよな。」と彼は言った。

銃撃後、ケネディのリムジンはパークランド病院に猛スピードで向かった。




「ふーん、ってことは、このジャクソンってェ男は、確かにライフルが引っ込んだところを見たわけか」ジョンはちょっと納得がいかないらしく、その記事を疑わしそうに眺めていた。

「うん、多分、そいつの目の端ぐらいに一瞬、それが映ったんだろうと思う。例えば、近くで誰かがライフルをブッ放したとする。

そうすると、誰でもその音に驚いて、まず、それが聞こえてきた方向を見ようと目が追うものさ。

それが、どんな証言者でも決まって最初にする行動ってもんだろ?」

「でも、途中で見てた記事では、最初、誰も音に気がつかなかったって書いてあったぞ」

そう言って、ジョンはステファンからマウスを取り上げると、クリックして、その記事のところを指し示した。


― 最初の銃撃が起こった時、パレードを見ていた群集の耳にその銃声は届かなかった。

後で思い返してみても、彼らにはその音は単なる爆竹か何かぐらいにしか思えなかったようだ。

ただ、すぐ後で知事のコナリーが怪我をして倒れ、「No, no, no!彼らはわたし達全員を殺そうとしてるっ!」と言う叫び声で、ドライバーのビル・グリアーが尋常でない事態に気がついた。


ジョンが示した記事を読み終えると、ステファンは首の後ろで腕を組み、上を向いて考え込んでから、独り言のようにつぶやき始めた。

「・・・あの場にいた全員が証人ってわけじゃないさ。

気づいた奴と、気づかなかった奴。

見た奴と、見なかった奴。

こいつを上手く分けておかなきゃ、ワンサか証人が増えちまうだけで、何が本当か嘘か分からなくなっちまう。

それに見たっていう奴らの証言だって、全部が全部、正しいとも限らない。

嘘、ついてることもあるだろうし、逆に話してない事もある。

大体、一つの出来事を同時に見てたって、みんながばらばらの視点で見てるんだから、全く同じ話をするわけないしな・・・。

陰謀説のほとんどがデマっぽくなっちまうのは、わざと証言者を増やして、一つのことにいろんな話をくっつけ、元の話をぼやかしちまうからなんだろうな」

「何、言ってんだ、お前?」ジョンは訳がわからず、きょとんとしていた。

「ちょっと、考えてただけさ。お前と陰謀説、やろうって言い始めてから、どうすれば、上手く結論を引き出せるのかなって。

お前が言う通り、今までは皆、誰が殺ったかって言うと、裏で糸を引いている連中、それも動機の線から考え出した奴らばっかりだった。

それじゃ、実際、殺った奴が出てこない。


動機はなくてもる時は、る。

殺ることそのものが動機の奴だって時にはいる。


確かにそうさ。だから、皆が納得するような動機ばかり考えてたら、憶測しか出てこない。

多分、恐らく、のままで結論には至らないわけさ。

じゃあ、どうするかって言うと、実際にその場にいた奴を確実に探るしかない。

それも、極々、普通に考えて、幽霊でも魔法使いでもない限り、殺った奴ってのは生きている人間だろうから、どうしても人間がした痕跡こんせき、そいつがいたり、動いたりした証拠のようなものは残るわけだ」

ステファンは理論だって、ジョンに説明した。

「ちょ、ちょ、ちょっと待てよ。お前の言っている事、さっぱりわかんねぇよ」

ジョンは手を上げて、ステファンの話をさえぎった。


「ジョン、俺が何よりも言いたいのは、証言の比べっこをしようって言ってるのさ。

みんながいろんな事を見てた。

それは確かに何かが実際に起こったから、それを話すわけさ。

証言の1つ1つはバラバラなんだろうけど、同じことを見てたら、話は違ってても、絶対、共通する出来事ってのは浮かんでくるはずさ。

それが真実、ってことになる」

ステファンの目がきらっと光った。


ジョンはまだ、訳が分からず、きょとんとしている。

それを見て、ステファンは上手く説明できない自分にいらだった。

「つまり、そのボブ・ジャクソンがライフルを見た、と言った。

別の何人かが同じようなことを言ったとする。そしたら、それは確かに、起きたことなんだ」

ステファンがもう一度、念押しするように言葉を付け加えると、合点が行ったのかジョンはにやっと笑った。

「そうか、同じような証言をしているそいつらがつるんでない限り、証言の一致ってことで、起きた出来事そのものが浮かび上がってくるっていう、寸法か?」

「That’s right! 

だから、教科書ビルからの発砲だったと証言する奴が、一体、どのくらいいるのか、それを探ろうって言う訳さ。

そして、確かに教科書ビルから発砲されてるとすれば、犯人の一人は確かに、そこにい、た、ん、だ。

確実にね。

それがオズワルドであれ、誰であれ」


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