プロローグ
~ その人、
真実のスピリットを持つその人がやって来るとき、
その人こそ、あなたをすべての真実へと誘うだろう ~
(マタイ16章)
「とやかく言う前に何とかネタを考えろよ、ステファン。」
「そんな事言ったって何も浮かびゃしないよ。」
パソコンを前にしてステファンとジョンは唸った。
それでなくともドーソンの金切り声が頭に響く。
「君らはどういう脳みそを持ってるんだ?
君らの頭の隅にでも一欠けらぐらい、ブレインというものはこびりついてるだろう。
それをどうにか動かして、エッセイをすぐに提出するんだ、わかったかね?」
うるさ型のドーソンはそう言ってステファンとジョンを叱り飛ばした。
「おい、この前の“スーパーマンがアメリカに及ぼした政治的影響”のどこが
気に入らないのかね、あのアースホール(けつの穴)は。」
ジョンは椅子の背にあごを乗せて愚痴った。
「クラーク・ケントが教師の賃金ストライキに助けに来なかったからじゃないのか?」
ステファンはネットサーフィンをしながらふてくされて茶化した。
「おい、何か面白いネタ見つけろよ。」
「ジョン、そう言うお前こそ探したらどうだよ。
大体、お前がそっくりそのまま俺のエッセイをペーストするからこんなことになったんじゃないか。」
ステファンはジョンの言葉にいらついて言い返した。
「まぁ、まぁ、そういきり立つなよ。俺とお前の仲じゃないか。」
ジョンはステファンの反撃を受けて、軽く彼の肩を叩いてごまかそうとした。
エッセイの期限は1週間後。
とにかく誰でもいい、政治に関して有名人物を述べよ、というのがエッセイのテーマだった。
「ニュース、ニュース記事を検索するといいぞ。
そうしたら、何かネタぐらいつかめるだろ?」
「してるよ、さっきから。横からぐちゃぐちゃ、うるさいな。」
ステファンはぞんざいにマウスをぐりぐり動かしては何度かクリックしてみた。
ページ越しのバナーには有名女優の豊胸エクセサイズの宣伝やら、政治団体の寄付金広告、そして特集記事の広告などが踊っていた。
“これであなたもナイスバディ。恋人とめくるめく幸せを実感してください”
“今こそ、新しい自由の光を掲げよう、ドーネーション(寄付金)はこちらをクリックください”“糾弾に倒れた、若き希望。ケネディ暗殺40周年”
―これだっ!
ステファンは目をこらした。
JFK、そうだよ、これだよ。これしかない。
クラシック物ならあのドーソンもぐちゃぐちゃ言わないだろう。
JFKなら映画もドキュメンタリーもずらりと出てる事だし、サイトも多い。
ちょっとぐらいよそから記事を取り込んだってバレやしない。しかも都合よく40周年と来た。
これなら他の生徒もじゃかじゃか書いてくるだろうし、ドーソンが全部の記述に目を通す事もまぁないだろう。
ステファンはにんまりして、ジョンを見た。
ジョンは最初、きょとんとした顔をしていたが、察しよく同じくにんまりと笑顔を返してきた。
ステファンがクリックすると、記事はすぐに目の前に飛び出てきた。
―ケネディ暗殺から40周年
アメリカ合衆国大統領ジョン・F・ケネディ(JFK)がダラスに凶弾に倒れて早40周年。
その間、様々な説が飛び交い、今だその死は謎に包まれている。
「これ、これ。ケネディだったら、あのドーソンだって喜ぶだろ?どうだ?」ステファンがそう言うと、ジョンも椅子に座りなおして画面に見入った。