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ここはなにかが欠けている

モテモテへの道

作者: 浮月重月
掲載日:2026/11/03

ここにパートという冒険者見習いとなった九歳の少年がいる。


彼は、戦う職業はモテると思い込み、先日冒険者組合へ突撃した。

割と大きな商会の末っ子だった彼は読み書き計算は出来るのだが、

やはり末っ子という事で家族から良くも悪くも甘やかされていた。

承認欲求が高じた挙句、パートは冒険者を目指すことにした。


親兄弟としては微笑ましくもあったが、出来れば商人にしたい。

冒険者は「犯罪歴のない九歳以上」なら登録可能なものなので、

見習いではあってもなったものは仕方がないと考えてはいたが、

さすがに武器を買い与えて本格的にやらせようとはしなかった。

そもそも安全とは言い難い職業だ。本音はやめさせたい。


「もし本気でなりたいのなら自分でお金を貯めて買いなさい」と。


思い込みと思い付きで行動したのだし、諦めるだろうと考えたが、

親兄弟の予想は外れてしまい、パートは見習いの依頼に精を出す。

普段家ではやった事もない清掃作業や薬草採集に勤しんでいた。


意外と続いたのに親兄弟も困惑したもののそのうち飽きるだろう、

とパートの活動を知りながらも放置していたのだが。


ついに貯まって買えてしまったのだ。規格外品で安い小剣が。

しかも割と熱心に依頼をこなしていたせいで昇格してしまった。

パートは下級冒険者である一つ星になってしまったのである。

あ、ちなみにまだ誰にもモテてはいない。


◆


もっともまだ、パートが買えたのは規格外の小剣だけであり、

防具は揃っていないし活動に有用な道具も持ってはいない。

それに九歳の少年なら当然だが、戦闘経験もまだない。


親兄弟はそれに気づいてはいたが、あえて指摘はしていない。

本格的に活動開始されてもどうかと思っているからだ。


またパートは、これまで誰か仲間と共に活動した事はないのだ。

これまで依頼は全て、合同依頼はあっても個人名義で受けていた。

せいぜい他人とは作業内容の確認の際会話した程度なのである。

親しいと言える冒険者はいなかった。これでモテるはずもない。


よって、駆除依頼はまだ年齢的にも出来ない事を知らなかった。

いや、パートを最初に担当した受付嬢は実はきちんと伝えたのだ。

彼が高揚感もあってすっかり頭から消し去っていただけで。


彼の場合、通常では後三年、十二歳にならないと受けられない。

そして護衛依頼の場合、戦闘経験のない者は敬遠される傾向にある。

これも説明を受けてはいるのだが、当然のように頭に残っていない。


ただ駆除依頼は受けられなくとも戦闘自体には抜け道があるのだ。

偶発遭遇。偶発的に害獣や魔獣、敵対種族に遭遇した場合であれば、

戦闘し倒す事は自己の安全の為にも認められた対応である。


先日パートは、十歳の少年がワイバーンを倒した事を知っている。

ゆえに自分も遭遇すれば倒してしまっても良いと考えていた。

彼は遭遇目当てに単独で王都を離れ、森を目指していた。

防具もなしに小剣一本だけで。無謀もいいところである。


◆


とは言え、そうほいほいと駆除対象に出くわす訳でもないのだ。

森の中を進む事しばし、パートはなかなか姿を現さない敵に焦れた。


かの少年は、確かに実のところわざと「偶発遭遇」しているのだが、

魔術を併用し、対象にとっては悪辣とも思えるえげつない罠を張り、

実に効率的に自分の研究資金の元手を稼いでいた。


当然パートは知る由もない。事情を知るのはかの少年に近しい者達。


それでも諦めきれずに、森の中をあちらこちらとさまよっていると、

パートはやや森の開けた場所へ出てきてしまった。


先客が複数いる。どうやらこの場所では薬草が採集出来るらしい。

何かと戦うような場所でもないし、他の場所へ移動するか。


パートが踵を返そうとした時。


やや離れたところから、獣の唸り声のようなものが聞こえた。

薬草採集していた者達も、何事かと皆その方向を向いている。


どうするか。声の方向へ向かってみるか?

パートが迷っていると、草むらを割って誰かが台車を牽いてきた。


二十歳ぐらいの女性冒険者だ。台車にはクマが載っている。

彼女は大弓を使っているようで、クマの額に穴が穿たれていた。

パートは知らなかったが、マーダーベアという魔獣である。


「あっ、イエドラさん」


薬草採集していた者達と知り合いらしい。彼女に声をかけている。

どうやら彼女は結構人気のある冒険者なのだろう。


「付近にはもう何もいない。採集は続行して大丈夫だろう」


イエドラと呼ばれた彼女はそう返すと、そのまま台車を牽いていく。

薬草採集していた者達は安堵し、採集の続きに戻っていった。


そうか、ここにはもう倒せるようなのはいないのか。

残っていても仕方ない。今日は引き上げるしかなさそうだ。

パートは溜息をついて森を抜ける。


◆


王都への帰り道、パートは先程の女冒険者を思い返していた。


さっきクマを倒したらしい女の人はモテているみたいだった。

大弓って強い武器なのかな?一撃でクマを仕留められるぐらい。


小剣だと、何度も斬りつけないとあんなクマ倒せそうになかったな。

折角お金を貯めて小剣を買ったけど、大弓の方がいいかもしれない。


あれだけ大きいんじゃあ、足を斬るのも時間がかかりそうだ。

活躍してこそあの人みたいにモテるようになるんだろうし。


そんな事を考えているが、無論そんな簡単にクマを倒せはしない。

パートでは後悔すら出来ずに逆に一撃で倒されているだろう。


よし!お金を貯めて今度は大弓を買うぞ!モテるために!

と、決意を新たにしていた。買えば使いこなせる訳でもないのだが。

それでもいきなりの無謀な戦闘からは少し遠のいたようだ。


別にイエドラは大弓を使うからモテている訳ではない。

本人はどう感じているか不明だが、凛とした容姿が最たる要因だ。

そして一撃で倒せるのは、彼女が優れた狩人だったからだ。


パートがその事実にいつ気づくのかは定かではない。

家族や近しい者からは甘やかされたため、勘違いを続行中。


イエドラについては「大弓の女冒険者」をご覧いただければ。

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