第4話『翠の残響 ―Green Mode―』
放課後の学園は、夕日で茜色に染まっていた。
教室に残る生徒の声が遠ざかり、やがて静寂が訪れる。
冴はひとり、屋上へと続く階段を上っていた。
――あの“声”が聞こえたのは、昼休みのことだった。
誰もいないはずの屋上から、確かに自分の名を呼ぶ声がした。
「……一色、冴」
耳に残る低い声が、頭の奥で反響する。
ドアノブに触れる指先が震えた。
夕風が吹き抜け、扉が静かに開く。
そこにいたのは――緑色の光を纏う人影。
「誰……?」
冴が問いかけると、その影はゆっくり振り返った。
顔はフードに隠れて見えない。
ただ、その胸元には、見覚えのある装置――自分のスーツと同じ“変身ドライバー”が輝いていた。
> 「五つの色。その三つ目を――お前が継ぐ番だ」
「……何の話?」
冴が一歩近づくと、影は手を伸ばし、彼女の胸に触れた。
瞬間、視界が緑の光で満たされる。
――風が止まり、世界が静止した。
耳の奥で、知らない“記憶”が流れ込んでくる。
森の中、誰かが笑っている。
小さな花を摘む手。
そして、名前のない少女の声――。
> 『ありがとう、冴……。あなたが、わたしの記憶を継ぐの』
「誰……なの……?」
膝が震えた。
その瞬間、ドライバーが翠の光を放つ。
カバンが自動で開き、金属の羽音を立てて変形を始めた。
「まさか……バトルモード……?」
緑のエネルギーが体を包み、制服が分解されていく。
腕、脚、胸元――翠の外装が装着されていく。
紅や蒼のそれよりも、しなやかで柔らかな輝き。
バイザーの中、瞳が深緑に染まった。
「――バトルモード、翠!」
空気が揺れる。
その瞬間、屋上の床を突き破って、怪人が出現した。
樹木のような装甲を持つ異形。
枝のような腕が冴を薙ぎ払う。
冴は軽く身を翻し、指先を前へ向けた。
翠の光が掌から放たれ、怪人の攻撃を弾く。
光が触れた部分が、みるみる再生していく――まるで生命の息吹。
「これは……癒しの力?」
しかし次の瞬間、その再生した枝が暴れ出した。
“癒し”が敵にも作用していたのだ。
「……優しいだけじゃ、戦えないんだね」
冴は飴玉を咥え直し、静かに息を吐く。
翠のオーラが彼女を中心に渦巻いた。
「――必殺、“翠断風”!」
緑の光が旋風となり、怪人を包み込む。
風が止んだ時、屋上には静寂だけが残っていた。
スーツの光が消え、冴は膝をつく。
胸の奥で何かがズキリと痛んだ。
その痛みは――誰かの記憶だった。
「ねぇ……あなたは、誰なの?」
夕暮れの空。
翠の残響だけが、いつまでも冴の髪を揺らしていた。




