表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/8

【第一話:通りすがりの女子高生 ―紅影(こうえい)―】



夕暮れの街が、炎に染まった。

ビルの影から立ち昇る黒煙。

通りには、鉄を引き裂くような咆哮が響く。


「我ら《影喰シャドウ・デヴァウア》に逆らう者は、誰も生かさぬ!」


異形の怪人が吠える。

腕は鋼鉄の爪、瞳は赤く濁り、体表は黒い装甲のように硬化していた。

地面に散らばる車の残骸を見下ろし、ゆっくりと振り向く――その時。


コツ、コツ、と軽い足音が響いた。


夕陽の逆光の中、制服姿の女子高生が歩いてくる。

右手には学生カバン、

口には一本の飴。


「ちょっと、やりすぎじゃないの?」


その声は静かで、けれど、どこか冷ややかだった。


少女の名は――一色冴いっしき・さえ

通りすがりの、ただの女子高生。

……のはずだった。


怪人の背後から、コートを翻す組織の幹部が姿を現す。

白い仮面に、銀の縁取り。声には歪んだ愉悦が混じる。


「おや? 面白い。子供が、怪人ごっこにでも混ざりたいのか?」


冴はゆっくりと足を止める。

飴を舌で転がしながら、

その目に、わずかに紅の光が宿る。


「ん? 通りすがりの女子高生だよ」


そう言うと、冴は飴を指で弾いた。


飴が、宙に舞う。


――その一瞬、街の空気が揺れた。


学生カバンが低く唸りを上げ、金属が再構築されていく。


「――変身」


制服の布地が光の粒となって分解され、

黒い装甲が冴の身体に吸い付くように形成されていく。


肩を覆う黒鋼のパーツ、

胸部のブラタイププロテクター、

ミニスカート型の装甲、

ルーズソックスが変形した脚部ブーツ。


ハーフヘルメットが頭部を包み、

紅いバイザー越しに光る瞳が怪人を見据える。

口元は露出しており、薄く微笑んだ唇の端がわずかに上がった。


風が吹く。紅のマフラーがたなびく。


落下する飴を、冴は再びキャッチして咥える。


「――バトルモード、紅」


幹部が鼻で笑った。

「面白い、ひとりで我々に挑むか」


冴は飴を咥えたまま、ゆっくりと首を傾げる。

「ひとりで十分。……行くよ」


瞬間、彼女は飴を“ガリッ”と噛み砕いた。


乾いた破裂音。

そして――足元のアスファルトが爆ぜた。


紅蓮の炎を纏った拳が、怪人の胸を撃ち抜く。

その一撃は重く、速く、残像すら炎に見える。


怪人が咆哮を上げて腕を振るうが、冴の姿はもうそこにはいない。

背後。

右。

左。


紅の残光だけが、風の軌跡を描く。


「必殺――紅連踊ぐれんらんぶ!」


次の瞬間、爆炎が弾けた。

数百の拳痕が怪人の全身を刻み、轟音と共に吹き飛ばす。


静寂。

燃える空気の中、冴はゆっくりと立ち上がった。

バイザーの奥で、紅の瞳が淡く光る。


幹部が焦燥の声を漏らす。

「貴様……何者だ……!」


冴は飴の欠片を噛み潰しながら、

マフラーをなびかせて振り返る。


「だから言ったでしょ――通りすがりの女子高生だって」


炎の残滓が風に溶け、

彼女の姿は静かに夜の街へと消えていった。


――《一色冴、通りすがりの女子高生》。紅影、顕現。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ