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空想ラジオの放送記録

作者: kyky

まえがき


ラジオを聴いたことはありますか?

最近は動画や配信が主流になって、ラジオを聴く機会が減った人も多いかもしれません。でも、ラジオには不思議な魅力があります。顔も見えない、どこにいるのかもわからない誰かの声が、ただ静かに響いてくる——まるで手紙のように、時間や場所を超えて届くもの。


この物語、「空想ラジオ」は、そんなラジオの“幻”についてのお話です。決まった周波数もなく、いつどこで流れるのかもわからない。でも、確かに誰かが聴いたという、不思議な放送。


もしこの本を開いたあなたが「空想ラジオ」を聴いてみたいと思ったなら——それは、きっともうあなたの中で始まっているのかもしれません。


さあ、音のないラジオのスイッチを入れてみましょう。

きっと、どこかで誰かが聴いている。

それでは、放送開始です——。


kyky


第3回放送:夜に響く足音


(オープニングジングルが流れる。静かに、ノイズ混じりの音楽が流れる。)


DJ: 「こんばんは、ようこそ空想ラジオへ。今夜も君に、不思議な物語を届けよう。」


(紙をめくる音。)


DJ: 「さて、今夜のメッセージは……ちょっと怖い話かもしれない。」


(ノイズが混じる。)


リスナー投稿:

『私は夜道を歩くのが好きです。静かな街並み、微かに聞こえる虫の声、遠くで走る車の音……。だけど、最近、妙なことがあるんです。


いつもの道を歩いていると、背後から足音が聞こえるんです。

それも、私の歩調にぴったりと合っている。


最初はただの空耳かと思いました。でも、ある夜、私は試しに急に立ち止まってみたんです。

すると……足音も止まりました。


怖くなって振り返ったけれど、そこには誰もいませんでした。

私は何かを感じて、すぐに家へ走りました。


その夜、ラジオをつけると、ノイズ混じりの中で微かに声が聴こえました。

「……見つけた」


すぐにラジオを消しました。でも、それ以来、足音は聞こえなくなったんです。

……あの声は、一体誰だったのでしょう?』


(沈黙。BGMがゆっくりと流れる。)


DJ: 「ふむ……怖いね。でも、もしかすると、その足音の主は、君が見つけてくれるのを待っていたのかもしれないよ。」


(遠くで風の音。)


DJ: 「このラジオも、誰かに気づいてもらうために流れているのかもしれないね……。」


(次の投稿へ——。)


第5回放送:止まった時計


(静かなピアノの音色が響く。)


DJ: 「今夜の放送は、ちょっと時間についての話をしようか。」


(紙をめくる音。)


リスナー投稿:

『家に古い掛け時計があります。もう何年も動いていません。ゼンマイ式なので、巻かないと動かないんです。


でも、先日、夜中にふと目が覚めたとき、その時計がチクタクと動いていたんです。

私は驚いて時計を見ました。時刻はちょうど午前2時。


「誰がゼンマイを巻いたんだろう?」


不思議に思いながらも、そのまま眠りました。


翌朝、時計を確認すると、やはり止まったままでした。


でも、私は確かに聞いたんです。あの夜、確かに時計は動いていた……。』


(ノイズ。)


DJ: 「時々、時間は不思議な動きをすることがあるよね。過去と現在が交錯する瞬間、見えないはずのものが見えたり、聞こえないはずの音が聞こえたりする。」


(ゆっくりとBGMがフェードアウトする。)


DJ: 「午前2時、止まったはずの時計が動き出す……。このラジオも、そういう時間にこそ聴こえるのかもしれないね。」


(ノイズが混じる。次のエピソードへ——。)


第9回放送:消えたバス停


(オープニングジングル。遠くで車の走る音。)


DJ: 「さて、今夜の話は、ある“場所”に関するものだよ。」


(紙をめくる音。)


リスナー投稿:

『私の家の近くには、昔、小さなバス停がありました。


子どもの頃、私はよくそのバス停で祖母を待っていました。でも、数年前、そのバス停は廃止され、バスはもう止まらなくなりました。


なのに、ある日、夜道を歩いていたら、そのバス停があったんです。


「おかしいな」と思って近づくと、そこには時刻表まで貼ってありました。しかも、つい最近更新されたように新しい紙でした。


その時、遠くからバスのヘッドライトが見えました。


でも、そのバスは私の目の前を通り過ぎ、何もなかったかのように消えてしまったんです。


翌朝、その場所を確認しに行くと、やっぱりバス停なんてありませんでした。


でも、私のスマホには、昨夜そのバス停を撮ったはずの写真が一枚だけ残っていました。


そこには、誰もいないバス停と、ぼんやりとしたバスの光だけが映っていました。』


(沈黙。BGMが静かに流れる。)


DJ: 「ふむ……。時間が作り出した幻なのか、それとも本当に存在したのか。君が見たものは、過去の記憶の断片だったのかもしれないね。」


(遠くで電車の警笛のような音。)


DJ: 「消えたはずの場所、失われた記憶、でも、確かにそこにあったもの……。このラジオも、そんなもののひとつかもしれない。」


(ノイズが混じる。次の放送へ——。)


最終回放送:さよならの代わりに


(これまでよりもゆっくりと、オープニングのジングルが流れる。どこか寂しげな旋律。)


DJ: 「……今夜の放送で、このラジオは終わりを迎える。」


(静かなピアノの音が流れる。)


DJ: 「このラジオは“偶然”が生んだものだった。偶然、電波を拾った人がいて、偶然、耳を傾けた人がいた。その“偶然”がなかったら、君と出会うこともなかったんだよね。」


(遠くで誰かの笑い声が聞こえる。リスナーの声だろうか? それとも、ただの幻聴?)


DJ: 「このラジオは消えてしまうけれど、君が聴いたこと、それはきっと、君の中に残る。だから、さよならじゃなくて……。」


(一瞬のノイズ。そして、静寂。やがて、最後の一言が響く。)


DJ: 「また、どこかで。」


(放送終了——。)


あとがき


ここまで読んでくれたあなたへ。

まずは、「空想ラジオ」を最後まで聴いてくれて(読んでくれて)、ありがとう。


この物語は、ふとした思いつきから生まれました。決まった電波もなく、偶然受信した人だけが聴けるラジオ——そんな不思議なものがあったら面白いなと思ったのが始まりです。


ラジオって、実際に目には見えないけれど、確かに“そこにある”ものですよね。話している人の顔は見えないし、相手の表情もわからない。それでも、声だけで誰かと繋がれる。そんなラジオの魅力を、この物語に詰め込みたかったんです。


「空想ラジオ」の放送は終わってしまったけれど、もしかすると、どこかでまた流れているかもしれません。もし、ある日ふとノイズの向こうから「やあ、こんばんは」という声が聴こえたら——それはきっと、偶然が生んだ小さな奇跡なのかもしれませんね。


最後にもう一度、読んでくれてありがとう。

また、どこかで会いましょう。


kyky

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