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ユニット名

 今日はドラマの撮影で海に来ていた。


 ドラマ撮影の待機時間、しゃがみながら白桃大知と海を眺めていた。白桃大知が『遥斗くん、日焼けしちゃう』と心の中で呟き、マネージャーから黒い日傘を借りてきて今何故か白桃大知がさしてくれていた。


「なぁ、どうしよっか、ユニット名。なんか思いついた?」


 

「名前……」

『どうしよう、まだ思いついてない。訊かれてるのに答えられない……』

 この質問は白桃大知を追い詰めるのか?

「まぁ、そんな大事なこと急に決められるわけないし、お互いに考えておこうか」

「はい、分かりました」


 とは言ったものの、思いつくだろうか。




「そういえば、歌上手いけど、何かやってたの?」

「小さい頃、習わされていました」


 習わされていた……。


「嫌々やってたの?」

「いやいやというか、物心ついた時からレッスン通っていたので、学校の勉強みたいな生活の一部みたいなものだった感じですかね……」

「そうなんだ……」


 白桃大和は本当に歌が上手かった。俺のソロ曲はもちろんのこと、グループ時代の曲も全て頭にはいっているらしく、家の中で「歌ってみて」と言うと、照れながら、いつでも聴かせてくれていた。ふたりのデビュー曲のメロディーと歌詞もすぐに覚えて、その才能が羨ましく思えた。見た目もよく、才能も溢れている白桃大知は何故自分のファンなんだろう。


「前も聞いたけど、白桃はどうして俺のファンになったんだろうな……結構前からイベントにいつも来てくれていたよね?」

「えっ?」

『なんでバレてるんだ? あんなにファンがいる中で……それに僕は顔を隠していたのに。なんでなんだ?』

「覚えていたのは、心の中の声が周りとなんか違ってたから……」

「心の中?」

「うん……あっ、いや、なんでもない」

 

 思わず俺の能力の話をしそうになった。

 誰にも言えてないことだけど、白桃大知なら信じて受け入れてくれるのか?


 どうしてファンなのか?って質問からスタートし、気がつけば出番まで沢山質問をしていた。


 普段暇な時はなにをしているかとか。ちなみに「特に何も。今は遥斗くんに釣り合うためのレッスンや自分磨きです」と答えていた。心の声も『釣り合って、迷惑はかけたくない。そして支えるんだ』と。裏表にズレはひとつもなかった。


 もっと、白桃大知を知りたい。

 全ての白桃大知を知りたい――。


***

 

 仕事も白桃大和との同居生活も、全てが順調に進み、ユニット名もついに決まった。


 7月の暑い日だった。


「balloon flowerって名前どうでしょうか?」と、オフの日、家で一緒に冷たい蕎麦をすすっていた時に突然提案してきた。


「なんで? バルーンフラワーって風船みたいな入れ物に花が入ってるやつ? あれ、ファンからもらったことあるけど、可愛いよな」

「それもありますけど、こないだ映画をみていると桔梗って花が出てきて花言葉が僕が遥斗くんに対して思っている……あ、それはどうでもよくて」

 急によそよそしい態度になる白桃大知。

 聞こえてくる心の声でその理由は解決した。

『だって、花言葉は永遠の愛で、遥斗くんへの想いと同じだから……』


 心の声が聞こえてきて喉に蕎麦が引っかかりむせた。


 距離が近づいても相変わらずファンでいてくれて、近くでこんな感じの本音が聞こえると、こんな暑い日も気持ちいい風が通過していくようで心地よい。心の声にお礼を言いたくなる日々だけど、言えなくて。少し複雑な気持ちにもなった。


 今も花言葉の件は何も反応出来ない。

 話も濁してきたから、あえてスルーした方がいいのか。


「いい名前だな。なんか俺らが風船の中に入ってるみたい」

「一緒に風船の中……」


 白桃大知はぼそり呟く。


『遥斗くんは美しい花だけど、自分も釣り合うような花となれるのか?』


 白桃大知こそが花だと思う。無自覚だけどかなりレベルが高い外見だし、歌も上手いし。それも伝えたいけど、白桃大知が心の中で呟いている言葉だから伝えれなくてもどかしい。


***


 白桃大知と過ごしていくうちに、イベントに来てくれていた時から特別な感じはしていたけれど、だんだんといなければいけない存在になっていった。


 balloonflowerのデビュー曲のレコーディングやMV、宣伝用の撮影も次々とこなしていく。


 ドラマの撮影も後半に差し掛かり、順調だ。


 ドラマの放送もはじまった。

 お互いに仕事のない日は、ソファで並んで一緒に観ていた。


 ドラマの反応も気になったから、SNSもチェックしながらテレビを観る。俺への反応もすごかったけど、白桃大知の反響はもっとすごかった。


『遥斗くんの相手の人って、遥斗くんのアカウントで前一瞬流れてきた人だよね?』から始まり、白桃大知について深堀りされ、子供時代にドラマやCMにいくつか出ていたことまで発掘されていく。小学生ぐらいの時の白桃大知が写っている写真や、映像までも流れてきた。SNSで流れてきた白桃大知の子供時代は、目がはっきりとしていて、可愛さとカッコ良さが共存している雰囲気だった。なんと賞を沢山受賞している実力派俳優が父親らしい。


 知らない世界を知れるネット世界の広い情報網は、恐ろしくもありすごいなとも思える部分。知らない白桃大知を、ネット世界を通して知ってゆく。


「白桃は、演技上手いなって思ってたけど、ドラマとか小さい時に色々出てたんだね」


「はい、そうです」

『遥斗くん、今演技上手いって僕のことを……でも遥斗くんに比べたら上手くないし。遥斗くんは本当に全てが完璧で……』


 いや、演技は俺よりも上手い。


 振り返ってみれば、白桃大知は撮影前にやる本読みやリハの時から、多少のムラはあったけれど上手かった。そして、憑依体質というか、本番になるとすっと完全な役になれるタイプ。


 そんな白桃大知は、表では言葉数が少ないけれど、相変わらず心の中では褒めちぎってくれる。白桃大知が隣にいるようになってからは、自己肯定感も高くなった。ひとりの時には、自分にがっかりして落ちる所までひたすら落ちていたけれど、その現象が最近は起きていない。気持ちが安定している。


「ずっと、隣にいればいいのに」


 横にいる白桃大知を見つめていたら、自分の心の内の言葉が無意識のうちに外にこぼれた。それに気がついたのは、白桃大知が「えっ?」といいながら驚いた表情をしてこっちを見たから。


「いや、ごめん。間違えた」


 何も間違えてはいないけど。


『遥斗くんは何を言っているんだろう。隣にいてほしいってのは、僕? いや、まさかな。ドラマ? ドラマの役に入りきっている? うん、そうだ。きっとそうなんだ……』


 白桃大知の心の声は興奮気味だった。隣にいてほしいってのは、役に入りきってるわけじゃなくて――。


「活動、一緒に頑張っていこうな!」

「……はい。よろしくお願いします」


『活動についてのことか……』


 活動だけではなくて、全ての生活についてなのにな。こういう時だけいつもとは逆に、白桃大知が俺の心を読めたらいいのにとも思う。


***



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