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白桃大知とユニット結成

 それは6月3日、俺が25歳の誕生日を迎えた日。


「はるとくーん! お誕生日おめでとう!」


 社長に呼ばれていたから朝から事務所に行くと、ドアを開けた瞬間に社長からお祝いの言葉をもらった。


 この事務所は、弱小事務所だったけど、俺が売れてから大きくなった。ちなみに社長は55歳の俳優だ。声も見た目も良くて、イケおじと言われるようなタイプの人。俳優といっても歌もダンスもこなせるマルチな俳優。「実力あるけれど、僕は作品に恵まれず出演作が全部鳴かず飛ばずだったんだ……」と酒に酔うたびに社長は語っていた。心の中を読んでも同じことを思っていて、本音とのズレはなかった。確かに芸能界の世界は実力もビジュアルも整っている人は数多くいる。謙虚さやら世間には伝わらないような努力やら、大事なものは山ほどあるけれど、運の良さが何よりも大切な職業なのかもしれない。


 そう考えれば、俺がこの事務所で活動して、推されているのも運がいいからなのか。


「今日は、誕生日プレゼントのサプライズがありまーす!」


 社長がうきうきした表情で「こっちにおいで」と、隣の部屋にいる誰かを呼んだ。


 呼ばれたイケメンな男がのそのそと歩いてきて、目の前に来た。


「今日から遥斗くんの相方になる、白桃大知くん、遥斗くんと同じ25歳だよ」


 ユニットか――。


 驚きはしなかった。以前マネージャーに「ユニット組んだりするのは大丈夫?」的な質問をされていたから。


 それよりも相方となるこの男は、俺のファンであり、お母さんみたいな心の声をしていた男だ。その男が顔を全部さらけだして今、目の前にいる。


 普段のイベントではマスクをしていて顔を隠していたけれど、目元や雰囲気で彼だとすぐに分かった。


「もしかして、お母さん?」と、思わず呟いてしまった。


 顔も予想通りに恰好よかった。スタイルも良いし、他のアイドルたちに負けないぐらいなビジュアルだ。


「お母さん?」と社長が首を傾げる。

「あ、いや……社長、これはどういうことですか?」


 何故今ユニットを組むのだろうか。ソロでもやっていけてるのに。


「あのね遥斗くん、ひとりでも素晴らしいんだよ? でもね、ふたりでハモったらもっと売れると思うんだ」


『遥斗くんは歌そんなに上手いわけでもないし、顔で売れてる感じだからなぁ。今だけ旬のアイドルってのをさけたい。受け入れてくれるか?』


 社長の心の本音がダダ漏れ。今後を見通してのユニット結成。そういうことか、本当は気を使わなくていいからソロが楽だけど。


「分かりました。白桃くんと頑張ります」


 作り笑顔でそう応えた。


「遥斗くんはいつもやる気があって嬉しいよ。あとこれも、白桃くんとダブル主演のBLドラマなんだけど、すぐ撮影入るから確認よろしくね」


 社長からドラマの台本をもらった。

 相手役は今知ったけど、ドラマの話は前から聞いていた。原作を読んですでに内容や大体のセリフとかも頭の中に叩き込んで、役作りもしていた。


 相手役は白桃大知か……。

 パラパラともらった台本のページをめくった。


「色々と、よ、よろしくお願いします」


 白桃大和がビクつきながらお辞儀をしてきたのと同時に、彼の心の声が聞こえてきた。


『これからは朝ごはん、僕が準備出来たりするかな? あと、遥斗くんこの前クシャミすごい日あったから、部屋のホコリが原因とかある? 風邪だったのかな? 部屋の窓を開けて部屋の換気をこまめに、あとは……』


 えっ? 怖い。なんか同じ家に住んでる妄想してる……。仕事を一緒にするとなると、ちょっと距離を置いた方がいい系なのか? なんて考えている時に社長がお願いごとをしてきた。


「あ、そうだ! 遥斗くんにお願いあるんだけど、大和くんのアパート解約したみたいだから一緒に暮らしてあげて?」


「はっ?」

 

 明らかに誰から見ても嫌だと分かる表情をしてしまった。


「いや、あの、やっぱりいいです……」

「でもさっき、大知くん、喜んでたじゃん」

「さっきはあんなに盛り上がってしまいましたが……新しい家が見つかるまで安いホテルとかに泊まったりしますから大丈夫です」


 下を向きながらしょんぼりしている白桃大知。


『一緒に暮らすのぐらい、いいじゃん。ユニット組む相手なのにそんなに嫌がって、これから大丈夫なのか? さっきの話は無かったことになるな。とりあえず、白桃くんのホテルと住むところを探すか……』


 社長の心の声が聞こえてきた。

 あぁ、先に社長と白桃大知は口裏合わせてたんだな。


 俺は相手の心を読んで、上手く過ごしてきた。ボーイズグループでは上手くやれなかったけれど。


相手が本当に求めている答えを心の中で聞き、それに応える。そうすることで当たり障りなく生きていけると知った日から、そう生きている。でも時々、真夜中や気持ちが不安定な時、それが虚しいなと思って、無気力になる――。


 ふと小さい頃の、服屋で起きた出来事を思い出す。


「その服嫌だ。あっちがいい」と自分の意見を伝えると『絶対こっちの方がいいのに。あぁ、この子とは合わないわ』と、母親の心の声が聞こえてきた。

「あっ、やっぱりママが言ってた方の服がいいかも……」

「ふふっ、じゃあこっちにしようね」


 親の笑顔を最後に、意識が現実に戻ってきた。小さい時からそんな感じだ。だから今も応えるしかない。


「大丈夫だよ、白桃くん。一緒に暮らそう」


 作り笑顔で白桃大知をみた。

 

「いいんですか? よ、よろしくお願いします」


 白桃大知は心から喜んでいるような笑顔だ。


 そうしていきなり、白桃大知との同居生活も始まった。

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