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お母さんみたいな心のファン

 俺はアイドルとして活動している。


 歌やイケメンのランキングにインしたり、メディアで俺を見ない日はない。同年代の同業者たちと比べると、人気は真ん中よりも上だろう。人にも囲まれて生きている。だけど生まれながらにして持ってしまった特殊能力のせいで、孤独だ――。


***


 2月の夜。


 今、インテリ風な男のマネージャーが運転している車に乗っている。次の現場に移動中だ。後ろの席で、先日テレビで放送された歌番組の見逃し配信を、スマホで観ていた。


「水樹 遥斗さん、今週もシングルランキング1位、おめでとうございます」

「ありがとうございます」

「イケメンランキングにもランクインされていますし、順調ですね」

「はい、このように活動が出来るのは応援してくださっている方々をはじめ、支えてくださっている皆様のお陰です。ありがとうございます!」

 

 俺はカメラに向けて、思い切り微笑んでいる。だけどあの収録の時も、心の中は全く笑っていなかった。

 


***


  ゴールデンウィーク。

 ショッピングモールの野外イベント広場にいる。


 今日はCDのリリースイベントの日。

 スタンバイしてファンが流れてくるのを待っていた。


 イベントがスタートした。


 CDを購入してくれたファンたちが一列に並んで、次々に流れてくる。ひとりひとり会話をしたりして、数秒だけ交流をする。


『はぁん、かっこいい』

『イケメン、ご尊顔やばやば』

『ひぃ、本物』


 俺は、人の心が読める。

 人の心が読めるということは、人の本音が分かってしまうということだ――。


 3年前の22歳の時まで、6人組のボーイズグループにいた。高校生の頃から所属していたグループだ。『うちの事務所、遥斗ばっかりひいきしすぎだから』『なんでこいつばかり事務所に推されてんの? 俺の方が歌上手いから……』俺に対しての渦巻くぐちゃぐちゃなメンバーの心の声が聞こえたせいで、そのグループから抜けた。事務所の方針がある時から〝グループ全体も売り込むけれど、その中のひとりに特にスポットライトを当て、そのメンバーを売り込む〟に変わった。その役割に俺が選ばれた。


 歌だけでなく、新曲の宣伝のためにソロでバラエティーに出演したり、人気ドラマに出演したり。


 男女問わず他のグループをみても同じような戦略で売り込んでいるところはある。ひとり人気が出るとグループを世間に知ってもらえて相乗効果が生まれるからだろう。


 俺はグループを知ってもらうための入口で、人気を底上げするんだ。


 初めはそう意気込んでいた。だけど、他のメンバーの心の中の言葉が酷くて。グループのために一生懸命やっていたのに、バカバカしくなっていき、その気持ちを態度にも出すようになっていた。やがて俺はグループのメンバーたちからハブられた。そして俺が抜けたグループはグタグタになって、解散した。


 人の心が読めるのは、短所だ。


 だけどその中でも心が読めて救われる時もあった。イベントの時、ファンの中で一際心の声が目立つ男がいた。いつも黒いマスクとキャップで顔を隠している男。


『遥斗くん、いつもより顔色悪い? 朝ご飯抜くと一日の調子が出ないって雑誌おっぴーのインタビューに答えてたけど、今日はきちんと食べてないとか? はぁ、心配だ』と、今日は心の中で呟いていた。イベントではいつも、ひとことだけ「頑張ってください」や「応援してます」とか、話しかけてくるだけなのに。心の言葉はいつもお母さんがイベントに来ているような雰囲気の内容だった。


 その男はイベントの常連で、俺のファンのひとり。顔は隠されていて分からないけれど、すらっとしていて俺よりも高い身長でモデル体型。唯一見えるのは目元だけだけど、マスクを外すと多分恰好良いだろうと予想されるような目力がある。

 

 いつからかは正確に覚えてはいないけど、グループに所属していた時からイベントには毎回来てくれていた。その頃から今日まで、ずっと心の中は変わらずお母さんみたいだった。


 そんなお母さんみたいな男と近づくことになるなんて、この時はまだ知らなかった。


***

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