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第十一話 妖精からの贈り物


 さすがに負の命が多くなりバランスが崩れた私は恐らく耐え切れずに消滅する。


 ベルゼブブから受けた攻撃で弱った体には負担が大きすぎた。


 私はグレスを失って泣きながら崩れ落ちるスカイの元へ向かった。


 亡骸を必死に強く抱きしめるスカイを見ていると心が痛む。


「大丈夫だよ、スカイさん。グレスは生き返るから」


「本当か?どうしたらいい?」


「……」

 そんなこと言えるわけがない、貴方はきっと止めてくる。


 そしてもう二度とみんなと会えなくなるんだ。

 口に出したらきっと涙が止まらなくなる。


「大丈夫……それと、みんなによろしくね。お姉ちゃんにも大好きだよって伝えて」


 それだけを言い残して最後の力を振り絞り天に向けて光を放った。


 どうせ消滅するならば最後に誰かを救いたい。


 人を生き返らさる行為は神様以外やってはいけないことだけどきっと許してくれるよね。


 スカイは何かを叫んでいるけれど聞こえないふりをした。


 そんな身勝手な私が最後に伝える言葉。


「みんな楽しかった。ありがとう」


 もう一度、お姉ちゃんに会いたかった。

 もし……もし私が人間としてこの世に生を受けたのならどんなに良かったのだろう。


 目を閉じた私は少しずつ姿が消えていく。


 みんなと出会ったあの日、頭を撫でてくれたり、恋の話をしたり、みんなでいろんなところへ行ったのはとても大切な思い出。


「やっぱり……みんなともっと一緒にいたかったよ」

 

「エナ!エナ!」

 叫び続ける声を聞きながら私は消えていく。


 そうして完全に消えてしまいそうになった時、優しくて温かい声が聞こえた。


「ご苦労様、きっと貴女のおかげで彼女は自分の気持ちに気づけたはずよ」


 私は全て理解した。

 雪の妖精の私に命を与え奪うのともう一つ役目を与えられたことを……。


 それは恋を発展させること。なぜ貴方達だったのかは分からないけれど。


 今回、全ての始まりはきっとあなた(神様)の仕業ね……。

 

 私は温かい光に包まれながら消えた。


――――――


「エナ!ふざけるな!他に良い方法はあるはずだからいなくなるな!」


 俺の声は彼女には届かなかった。


 彼女はこちらを向いてニコッと優しく笑い目を閉じた。


 本当は泣きたいはずなのに生きたいはずなのに……。


 最後に一粒の涙と俺が彼女にプレゼントしたガラスの白い鳥が一匹落ちてきて雪が優しく受け止めた。


 それを俺は拾い握りしめて彼女が消えるのを見届けた。


「大切な思い出をありがとうエナ」


 エナが消えたと同時に雪が降ってきた。


 不思議なことに太陽が顔を出したのに雪が降っている。


「不思議だ……寒いはずなのに温かい雪だ」


 雪が優しく俺たちに当たって溶ける。


 腕に抱えていたグレスが目をあけた。


「グレス……良かった」

 思わず俺は泣いた。啜り泣くように静かに……だけど涙は止まることなく出てきた。


「何泣いてるんですか?」

 いつものグレスだった。ツンツンとした態度で俺に強く当たっているけれどそれが嬉しかった。


「何でもない……だけど、涙が止まらないんだよ」

 何でもないことなんてない、大切なグレスが生き返ったんだ。

 

「そういえば……堕天使は?エナは?」

 キョロキョロと辺りを見回してエナを探すグレス。


 そこに傷が癒えたソフィアとルーヴも現れた。


「スカイ様!堕天使のやつはどうなったんです?エナはお家へ帰ったのですか?」


「堕天使はエナが倒した。エナは……俺たちの傷を癒して帰っていったよ」


 俺はエナが消える間際に落としていったガラスの小鳥を見つめた。


 俺の悲しげな表情とガラスの小鳥を見て察したグレス達。


「もう、会いないんだね……」


 黙って頷くと真実を知った三人は泣き出した。


「笑って……笑ってさようならをしよう。エナに感謝の気持ちを込めて」


 俺たち四人は綺麗な雲が動く空に笑顔を向けた。


「大切な思い出をありがとうエナ」


 きっと彼女は生まれ変わって最高の時間を過ごすはず。


 俺を転生させた神様ならきっと俺たちのことを見ているはずだから。


 お願いします神様、エナに最高のご褒美をプレゼントしてください。


「そろそろ行こう、王様が待っている」


 俺は馬車へ引き返す途中気になることをグレスに質問をした。


「そういえばあの時何で急にキスしたんだ?」


「!?」驚いたグレスは顔が真っ赤になり俺に怒鳴ってきた。


「そんなことしてない!て、いうか知らない!もししたとしてもそんなこと聞くのはどうかしてるわ!」


 俺は動揺するグレスを見て自分が質問したことを恥じた。


 もしかして……そういうこと?

 あのツンツンとしたグレスが俺のことを?


 怒りながら歩くグレスを見て思った。


「いや、ないな……グレスは強い男とかの方が惚れそうだし……」


 彼女は俺にとって最高の仲間、いや相棒ってところかな。


 そうして俺たちは自分たちの家、プレザント王国の城へ帰った。


 数日かけて城へ戻ると王様が首を長くして待っていた。

 

 「きちんとエナを送り届けることができたか?」


 王様の問いに俺たちは答えることができなかった。


「王様、これをエナが最後に落とした物です」


 ガラスの小鳥を受け取る王様は何かを察したように黙ってしまった。


「エナの国へは無事送り届けました。ですが最後堕天使に襲われてエナはそいつを倒した後俺たちのために……」


 ガラスの小鳥を眺めながら涙を流す王様。


「最後にエナは王様に大好きだよと言ってました」


 泣き崩れる王様。

 俺は彼女の背中を摩り慰めることしかできなかった。


 王国の雪は溶けまだ肌寒いけれど太陽の日差しが眩しく輝き城を国を照らしていた。


 こうして俺たちの小さな冒険は終わりを告げた。

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