星座を愛する年上公爵の、穏やかな婚約破棄
年の瀬。
一年を締めくくるパーティーの最中、婚約者を連れて庭園へ出た。
寒空の下では申し訳なかったが、上着を羽織らせて私は夜空を見上げる。
澄んだ空気を吸い込んで、吐き出した。
「婚約を破棄しましょう」
二回りも年下の、デビュタントを終えたばかりの彼女は虚をつかれていた。
「何か粗相がございましたか?」
「いえ、何も。ただ私には、あなたを手にする権利がないと思ったのです」
彼女はいまいちピンときていないという表情を見せた。
けれどそこに縋るような焦りも、望まない婚約を破棄できるという安堵感もないように見えた。
良くも悪くも、彼女の貴族教育はちゃんとしていた。
「空の星をご覧なさい。一番に輝く星があなたなら、私は間もなく消えゆく星です。ますます美しくなるあなたの隣に、私は不要でしょう」
「星、ですか……」
「例えの話です。あなたの周りにはたくさんの良縁がある。自らで選び、引き寄せてください」
「公爵様を例えた星の名はなんですか?」
「え?」
「星の名です」
彼女は空を見上げて、私の指す星を探していた。
そんな素直さと幼さに自然と眉が下がり、私は答えた。
「ベテルギウスです」
「見つけた」
即座に返ってくる。
驚く私に、彼女は夜空を指さした。
「オリオン座をつくる恒星のひとつですよね」
「え、えぇ。よくご存知で」
「では、私に例えた星はなんですか?」
私は戸惑いながら彼女を窺う。
婚約破棄を切り出したというのに、彼女の目には星空しか映っていなかった。
「一番輝きが強いのは……シリウスです」
答えると、彼女は満足そうに頬を緩めた。
「これほどたくさんの星が散らばる空に、ベテルギウスとシリウスは隣り合っています。冬の大三角をつくる大事な星達ですよ。離れてしまっては、だめでしょう?」
「ですが……」
「消えゆくというなら、私がさらに輝いてあなたを支えます」
あどけなさの残る笑顔でふんわりと。
けれど、揺らぎのない瞳が私を見つめた。
「私は、自ら選んで引き寄せたんですから」
幼い婚約者にここまで言われては、私は情けなく笑うしかなかった。
私とは比べ物にならないほど肝が据わっている。
冬の大三角には星座が一つ足りないが、それは「作ればいい」らしい。
まったく、若さゆえの真っ直ぐさだ。
あたたかくて愛おしい。眩しいほどに。
彼女は最後の確認ですよと、私の冷えてしまった手を包み込んだ。
「私とは婚約破棄なさるのですか?」
じんわりと伝わる熱に、私の答えは幸せを求めた。