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04-02.先生

「“ファントムクロウ”を更に発展させた機体の開発、ですか?」


 僕のその問いにカレンさんは頷く。

 既に世界の最先端と言って良い技術をふんだんに取り入れた次世代量産機である“ファントムクロウ”の運用に成功しているのに、更に性能を上げた機体の量産を行いたいんだとか。


 何をそんな贅沢を、なんてそんな事を思う人もいるかも知れない。ソメイヨシノ隊がやっている事がただの戦争ではないんだ。


 カスタマイザーの撲滅を謳うソメイヨシノ隊は、その作戦傾向から卓越した操縦技術を有するカスタマイザーと正面からぶつかる場合がある。


 例え次世代機を複数機ぶつけたとしても、圧倒的な技量を持つカスタマイザーに対して無傷では済まず、ソメイヨシノ隊に被害が出る事も少なくないらしく、全力でぶつからざるを得ない状況に陥り、下手をすれば拿捕対象であるはずのカスタマイザーすらも撃破して命を奪ってしまう、又は実力が至らず、命を奪われる事が多々あったのだと言う。


「カスタマイザーの持つ戦闘能力と我々が持つ技術力の差異を更に大きな物にしなければ現状は打開できない。彼らに対抗するには圧倒的なポテンシャルを持つ機体が必要なんだ」


 人間の能力には限界がある。その限界の果てに行き着くためには血の滲むような努力をするしかない。

 ダリル基地で僕と戦闘した“ファントムクロウ”、つまりはあの暴力女の部下達の実力から察するにその努力は十分に行なっていたと思う。


 となれば、僕たち技術者にできる事は彼らパイロットの力を120%発揮できるような機体を提供する事なんじゃないかと思う。


 だからカレンさんの気持ちはすごく分かる。


 努力し、自身の技を磨いたパイロットに高性能機を与えればカスタマイザーとの力量差は少なからず埋まるだろう。


 そうすれば、今まで苦労していた〝不殺〟での保護も可能になるんじゃないのかと思った。

 

 不殺は即ち敵を殺さない様にするという事で、端的に言うと手加減だ。

 対峙する相手との力量差が均衡していれば、その手加減は隙となり自らの命を落とす事になりかねない。しかし腕のあるパイロットが相手を圧倒するほどの機体を有していれば

例えカスタマイザー相手といえども、それが出来るのではないか。


 全力で暴れる人喰い熊に対して竹槍で立ち向かっては、いくら鍛錬を積んだ達人が束になってかかっても被害者は必ず出る。

 しかし人間の知恵を使って罠を張り、鉄砲を持ち、多数で挑めばより安全に狩りが出来るはずだ。


 そして例えば、その鉄砲の弾丸を麻酔弾に置き換えたら、捕獲後にきちんとした処置が出来るように環境を整える事が出来たなら。


 カスタマイザーは組織の枠を超えて世界中にいる。ソメイヨシノ隊が持つ技術を更に発展させる事が出来れば敵味方問わず被害者は最小限に収める事が出来るんじゃないかと。


 この“ソメイヨシノ”はこれからも時と場合によっては国際連合軍とも戦闘する事もあるだろう。しかしその時にソメイヨシノに〝手心を加えるほどの力量〟があったとしたら。

 襲いかかってくる人喰い熊の一撃をいなせるだけの技があったとしたら、お互い被害を抑える事が出来るんじゃないだろうか。もちろん“ソメイヨシノ”が間違った方向に行かない様に誰かが舵取りをしなければならないのだけれども。


 確かに僕は戦いに身を投じる立場にはある。それなのに被害者が出ないように、なんて甘いかも知れない。しかし、被害者を出さずに済む道があるなら、その道を選ばない理由はない。そして、このカレンという人はそれを現実にする技量がある。

 それでもやはり相手の命を奪わなければならない事の方が多いだろうが。不殺で、というのは作戦目的が捕獲などの時の話だ。


 彼女はレイズの研究員だったそうだけど、僕が持ち込んでアカギ教授が発展させた技術を更に応用して、この時代に第4世代MK(モビルナイト)の開発に、更には量産に成功している秀才だ。

 他の研究者のデータをすぐに解析して応用する技術はさすが。

 

 彼女が作ったジェネレータを開いて見た僕としてはカレンさんの才能がいかに秀でたものかが手に取るように分かった。

 そんな秀才がこんな僕を頼ってきてくれている。僕にも得るものがないはずがないので、僕は彼女の誘いに乗ることにした。いや、乗るだなんて少し偉そうだ。僕の勉強にもなるんだから。


「協力なんてとんでもないです。僕も勉強させていただきます」


 そうだ、これは協力なんかじゃなく僕の為の勉強でもある。

 ニウライザ開発もいち早く進めなければいけないが、僕はニウライザの知識はあれど精製工程の構築やそれに伴う作業は出来ない。そう、音頭は取れても作業員に比べたらその技術は無い。


 カレンさんの部下の研究者たちは優秀だし、方向性をしっかりと指し示せば素晴らしい仕事をしてくれる。けど彼らがつまずいた時にすぐ対応出来ないと作業の遅延に繋がってしまうから艦を離れれわけには行かない。

 僕には知識はあれど作業を手伝う訳には行かないので、空き時間も確かにある。


「ははっ、謙遜だな。けど心強いよ。よろしく頼むよ、先生」

「先生なんてやめて下さいよ」

 

 僕の技術的知識はあくまでもアカギ教授の側で科学の移り変わりを見てきたから身についたものであって、彼ら、彼女らの様に物を生み出した事なんてない。


 だからその呼び方はアカギ教授やカレンさんにこそ相応しい。


「そうと決まればコータ、君にも私の自慢の機体を見てもらわなきゃな」


 そうだ、ダリル基地で鹵獲出来た“ファントムクロウ”一機は少し分解させて貰ったけど、開発者の解説付きならすごく興味がある。


 格納庫に行けば整備兵達の刺さる様な視線を受けることになるかも知れないけど、まぁ得るものが多そうだから我慢しよう。



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