03.1-04.幕間 ※カレン・ゼィアイト視点
「私を、スカウト……ですか?」
レイズ軍の研究部でMK開発に携わっていた私はある日突然そんな話を持ちかけられた。相手は大学生時代から付き合いのある職場の先輩。
もともと医師をしていた私だったが、その先輩に誘われて畑違いである今の職場に転職した。大学では確かに工学と同時に学んでいたのだ、MKとは非常に奥深くて日々の努力が機体に顕著に現れる所が好きだった。
あれだけ食べるなと言ったのに「食べ物には気をつけました」と言って嘘をつくメタボリック症候群のおじさんとは大違いだ。私はその研究部での仕事にやりがいを感じていた。
MK開発の仕事にもやっと慣れてきた。という時期に突然そんな話を持ちかけられて、私は困惑した。
詳しく話を聞くと、その先輩は極秘傭兵組織の諜報員として活動しているらしく、前々から目をつけていた私を引き抜こうとそんな話を持ちかけたのだという。
このか弱い私が傭兵? 勘弁してくれ。
すぐさまそう言って断ったが、話を聞くとどうも違うらしく、私をその傭兵組織の研究部に招き入れたいのだといった。
まずは先輩がその極秘なんたらの諜報員だった事に驚いたのだが、どうやら今よりも環境は良さそうだったが、得体の知れない所に行くというのがどうも引っかかった。
それなりに苦労して医師免許は取ったし、今の研究部も中々の待遇で設備も整っている。仕事に不満はない。……断ろうかな。そう思った時に先輩はさらに私を口説き始めた。
どうしても私の力が必要だと、そう言ってくる。今の職場に誘ってくれたのも先輩じゃないか。せっかくの好待遇なのに。そうも思ったが、先輩は引き下がらない。そして、これを聞けば絶対に来たくなると、そうも言った。
先輩の思惑通り、その組織の今の主な任務内容を聞いた私はすぐさま頷いていた。
どうやら今その組織はカスタマイザー根絶に向けた任務を主に請け負っているのだという。
MKのパイロットだった弟がレギュレータ依存症だった私は二つ返事で入隊を決めた。
私の弟はカスタマイザーだった。
そう、だったんだ。
◇
まだペンキの匂いのする戦艦“ソメイヨシノ”の艦内で私は初めてアヤコとアスカに出会った。
既に活動していた彼女らの話を聞くと何故私が呼ばれたのかが納得がいった。
彼女らは世界中に潜ませている諜報員からの情報を集めて、カスタマイザーであると思われる兵を特定。高性能艦である“ソメイヨシノ”を用いて接近し、戦闘をして拿捕する。もしくは敵拠点に赴き突入部隊を編成して保護しているのだとか。
その保護した後が悲惨だった。薬品で眠らせて、生きるために必要な栄養を点滴し、レギュレータ依存症の改善策が生まれるまでこのままで保護し続けるのだとか。
一見あんまりだと思う人間も多いだろうが、レギュレータ切れを起こしたカスタマイザーは何をするかわからない。もしかしたら本人にとってもこの方が幸せなのかも知れないと、亡き弟の最期を看取った私はそう思ってしまった。
アヤコは私に圧倒的なポテンシャルを持つMKを開発してほしいと持ちかけてきた。レイズで学んできた技術をさらに発展させて、強力なMKの量産をしたいのだとか。
一般兵が、カスタマイザーとの戦闘を有利に運ぶ為には鍛錬に鍛錬を重ねて腕を磨いた上で、さらに機体性能で圧倒するしかない。それも単体相手に複数で。
資金だけは潤沢にあるようで、腕に覚えのあるパイロットや技術者を世界中から集めている最中なのだとか。なるほど確かに私に提示されたギャランティも相当な額だ。
それにアヤコは防衛学園にて国際連合軍側のMKの父、アカギ教授の元で学んできたのだという。
レイズ軍の研究部で同じくMK開発に携わっていた私の知識を合わせればもしかしたら相当のポテンシャルのある機体を生み出せるのではないか。そうも思った。
潤沢な資金で思うままの研究が出来る。技術者としてこれ以上魅力的な事はない。
そして“ソメイヨシノ”に乗って数年、アカギ教授が未だ謎に包まれた薬品、レギュレータについての論文を発表する。
私はそれを元にレギュレータの中和剤の精製を試みたが、全く上手くいかない。何度も何度も失敗を繰り返しても私は諦めなかった。
大切な弟にあんな悲惨な最期を遂げさせたレギュレータ。それに対抗する中和剤をなんとしても精製したかった。
アヤコにも協力を仰いで、失敗に失敗を重ねて、ようやく兆しが見えてもやはり上手くは行かなかった。アヤコはアカギ教授の教え子であるので、彼に数度教えを乞うても中々上手くいかなかった。
そんな最中にアークティック社が国際連合軍にカスタマイザー専用機を納品するという情報を掴んだ。
そこで私は、私たちは運命的な出会いをする事になる。
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