03.1-02.幕間 ※アスカ・ウエハラ視点
志願兵として日本軍に入隊した私は直ぐに国際連合軍の部隊に編成された。買われたのは持って生まれた運動神経……では無くて英語力。
私のオジィは英語しか話せなかったので、私の実家の中では英語と沖縄弁が飛び交う環境だったから自然に身についたもの。沖縄の家庭ではたまにある。
でも今思えば、その英語を活かして観光客相手にガイドなんかしても良かったんじゃないかなって思ったりもする。
いや、それは無いか。だってそうしていたらこれから出会う仲間達と巡り合っていなかったんだし。
彼らとの出会いは私の半生を語るにおいては無くてはならない存在だと思う。彼らのおかげでたくさん楽しい思いをして来たんだから。
そう、それと同じ数だけ別れも経験する事にはなるんだけど。それを差し引いても……いや、それも含めて、私はこの道に進んで良かったと思う。
私が配属された部隊は戦艦の中で1番小さな“マーキュリー級”のとある艦だった。
戦闘機とヘリコプターが主の部隊で、当時最新型だった第二世代MK“ジェニスタ”が数機配備されている部隊。
そんな部隊の炊事補助をしていた。
幸い包丁の扱いは不得意では無かったのでそれなりに重宝されていたと思う。小さい頃からアンマーやオバァに叩き込まれてきた成果かな。海で獲って来た魚とかも捌いていたから。
炊事の仕事には従事していたけど、やはりそこは軍隊。非戦闘員の私も当然日々の訓練に参加する必要があった。そこで私の運動神経に着眼した中隊長がいた。
当時の私より10歳以上も年上の男性将官。下手をしたら倍ほど歳が離れていたかも知れない。
「お前は絶対に良いパイロットになる」
そう言われてその中隊長に訓練してもらう内に私は彼に恋をしていた。
でも結果から言うとその恋は実らなかった。その中隊長は美人の奥さんがいる既婚者だったし、なにより可愛い赤ちゃんも居たんだから。
幸せな家庭を壊す趣味は無いし、何より幸せそうな彼をこんな近くで見ていられる事を役得だと思えるくらいに私は彼に陶酔してしまっていた。
「俺の子だ。可愛いだろ?」
と愛娘の写真を見せびらかしてくる、そのゆるゆるの表情さえも愛おしく思った。
彼の献身的な訓練を経て、私はMKのパイロットに選ばれた。軍隊とはそういう場所だと分かりながらも、まさか自分がこうして銃を、ましてやMKを駆る事になるとは夢にも思わなかった。
正直最初は怖かった。人の命を奪うのが。
でも私は気づく。奪わなければ奪われるという事に。
度々戦闘が起こるたびに仲間が死んでいく。
同じ卓を囲んで食事をしていた仲間が死んでいく。
許せなかった。いつしか私は自分が生活する為にでは無く、復讐の為に操縦桿を握る様になっていく。
悪意を以て悪を絶つ。血で血を洗うという表現があるけど、まさにそれだ。
仲間の仇を討って討たれて、また私は銃を持って立ち向かう。けど私は同時に喜びを感じていた。それはもちろん人を殺すのが楽しいだなんてそんな事ではなくて、曲がりなりにも仲間を守る手段を手に入れる事が出来た、という事が。
私が敵機を墜して帰艦する度に中隊長は言ってくれた。「お前のおかげで助かった」と。
私はそれで幸せだった。
この為に生まれて来たんだと勘違いする程に、人を守る手段を手に入れた事が私は嬉しかった。
そんな戦闘が続いたある日、母艦が沈んだ。
敵軍、レイズの部隊と戦っていた最中だった。その敵部隊のエース、それがカスタマイザーでは無いかと噂されているヤツだった。
そう、確かにアイツの動きは人間離れしていた。
銃口を向ける前に回避行動が終わっている。今まで私の動きを戦場で先読みされているかの様に感じる事が何度かあったけど、その時の敵の動きはそれをはるかに上回る動きだった。
私の機体は大破し、部隊は全滅、母艦も粉々に砕け散った。私の初恋の相手もろとも。
その事を知ったのは、それから数週間後、負傷兵が収容される病院のベッドの上だった。
自分で息をすることも叶わない様な容態だった私は奇跡的にたった一人だけ命を取り留めた。怪我さえ治れば再び歩く事も出来るだろうという事だった。
なんとか自力で食事が摂れるようになった頃、防衛学園を卒業したアヤコが会いに来てくれた。
数年ぶりにあう彼女はすごく大人びていて……そして瞳の奥に確かに決意めいたものを湛えていた。
アヤコは防衛学園で学びながら、ある組織に所属していて、その組織はMKのパイロットを必要としているんだとか。
なんだその怪しい組織はと問うとアヤコは真剣な表情で訥々と話してくれた。
その組織はどの国にも属さない組織。その組織の最終目的地は戦争のない、平和な世界だと。
少し前までの私なら綺麗事を、と切り捨てていたかも知れない。
だけど、今の私は心から戦争のない平和な世界を望んでいた。仲間が死んでいくのはもうたくさんだ。
海に潜って魚や貝を獲って、それをオジィやオバァ、それにアンマー達家族みんなで食べる。泡盛で酔っ払ったらオジィが三線を弾いてオバァが手踊りをする。そんな生活。そう、島を出るまではそうしていた、なんて事のない生活。そんな生活に戻りたい。
兵隊を辞めれば戻るのは簡単だ。しかし私は世界の闇を垣間見てしまった。
人間を超越した存在。人間を殺すために作られた人間、カスタマイザー。そんな存在を野放しにしておくわけにはいかなかった。それに、
「ガーランド大佐が……?」
私に耳打ちしたアヤコの口から出た名前がどうしても信じられなかった。
まさか、有り得ない。私たちパイロットの目標。憧れであるガーランド大佐がカスタマイザーを生み出した張本人?
「そんな情報が入ってきた。真相はわからない。でも国際連合にもカスタマイザーはいるみたいなの」
「なんて事……」
私が動いても何にもならないかも知れない、私の小さな正義だけでは世界は動かないかも知れない。
でも、そう、私は動かずにはいられなかったんだ。
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