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03.1-01.幕間 ※アスカ・ウエハラ視点

今回は幕間、アスカ視点のお話です。


 きっかけは些細なことだった。

 選択肢が無限にあったわけじゃない。勉強が苦手だった私は限られた、狭い選択をする事を余儀なくされてきた。


 そう、まさか自分がレジスタンスの隊員になるなんて。まさかMK(モビルナイト)のパイロットなんかになるだなんて思いもしなかった。


 今振り返っても何がどうなるのかなんて分からない。これまでも、もちろんこれからも。



 勉強はからっきしでクラスでも学年でもビリ。同学年の児童が5人しかいない様な田舎だったからビリでも仕方ないというのは当時の私の言い訳だ。


 でも木登りは得意中の得意だし、素潜りも誰にも負けた事がないから別に気にしていなかった。そう、素潜り。


 海で泳ぐのが大好きだった私は学校から帰ると制服を脱ぎ捨てて実家の目と鼻の先にある海へ飛び込んで行っては、うみんちゅの真似事をして遊んでいた。

 それはもう思春期になって胸が膨らもうが何しようがその習慣は続いた。そもそも島民は全員家族みたいなもんだ、見られて恥ずかしいなんて思わない。それより海は楽しい。潜る度に発見があって。

 ずっとこうしていたい。そう思ったけど、そうはならなかった。そう、進路だ。中学3年生になった私は岐路に立たされていた。


 物心ついて初めて立った人生の別れ道。この時に違う選択をしていたら今の私は居なかったかも知れない。

 

 地元の高校へ進学するか、うみんちゅ……漁師として働くか。私が最初に選んだのはもちろん後者だった。


 でも地元の漁師達の人手は足りており、どの船にも私を乗せる余裕なんて無かった。考えてみればそうだよね。漁師は昔からやってるオジィばかりだし、若い先輩達(シージャカタ)は次々と島の外に出ていく。


 この島には働き口なんて無かった。自分で漁師をするって手もあるにはあるけど15歳の私にそんな度胸は無かった。


 仕方ない。進学するか。と思った時に問題にぶち当たった。


「89点て。どうなってんの?」

「89点なら上等さ!」

「全教科でね!」


 お母さん(アンマー)が机に叩きつけたテスト用紙の枚数は5枚。全て足してようやく89点だ。どう計算してもそれ以上にならない。


 そう、私は壊滅的に勉強が出来なかった。本島にある私立高校に入ろうとしてもこの学力じゃ足らない。自分の馬鹿さ加減が嫌になる。


 ……でもいいや、別にどうしても学校へ行きたい訳じゃないし。本島に行ってマーケットでレジ打ちでもしよう。と思っていた所で床の間を背にして座っていたおばあちゃん(オバァ)がポツリと呟いた。


「アスカ ヤ チューバー チュ」

「オバァ?」


 昔からオバァは私の運動神経を誉めてくれていた。海で取ってきた貝やヒトデを見せるとニッコリ笑っていた。


 そういえばオジィとオバァは本島にある兵士学校で出会ったんだっけ。昔を懐かしむ様に思い出話を語るオバァは、すごく幸せそうで、楽しそうで。

 兵士学校だなんてもちろんいい事ばかりじゃないとは思うけど、それでもオバァの話が好きだった私はそうか、と思い至った。


 そこになら体力バカの私でも出来る事、学べる事があるかも知れない。


 今、日本は戦争中だ。人手はいくらあっても足りないはず。


 元々、正義感だけは強い人間だった私は兵士学校へ行く事を決意した。



「……落ちた」

「え……マジ?」


 沖縄本島にある兵士学校の合格発表の日、合格者の番号が張り出される掲示板に私の番号は無かった。

 一緒に試験を受けた幼馴染のアヤコがめちゃくちゃ引いている。それはそうだ、定員割れしているので受験番号001番から229番まで全部ある。私の125番以外全部。


「アスカが落ちたら私、行く意味ないじゃない」

「……その受験票ちょうだい」

「別に良いけど。はい」

「やったぁ! ありがとう!」

「……本気?」


 片眉をひくつかせているアヤコを見て理解した。合格した番号の受験票を持っていても本人じゃなきゃ入学出来ないんだ。慌ててアヤコに受験票を突き返す。


 アヤコは私に付き合ってこの学校を受験してくれたんだ。私のレベルに合わせて。

 だから私が落ちてしまった今、彼女はこの学校に通う理由が無い。


 どうやらアヤコは本命であった北海道の防衛学園に行くつもりらしい。そちらの方は既に推薦入試で内定を勝ち取っている。


「……どうしよう……」


 もっと勉強しておけば良かったなんて後悔してももう遅い。本当にマーケットでレジ打ちをしようか、なんて考えているとアヤコが紙切れを一枚差し出してきた。

 内容を読むと日本軍が発行している志願兵募集の概要が書かれた紙だった。


「最初はジャガイモの皮剥きかららしいわよ?」

「やるやる! 全然やる!」


 なるほど、これなら学校へ行かずとも兵隊になれるのか。なんだ、こんな近道があったんだね、知らなかった。

 勉強なんてまっぴらだし、私にピッタリじゃないか。


 そうしてまさか運命を左右する重要な選択をしたとは気づかない私は志願兵として日本軍に入隊する事になった。


最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!

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