03-27.Happy birthday to You ※リオン・シロサキ視点
※リオン・シロサキ視点
「ライト、ライター、着替え、よし。カードも、よし。パスもある。お金は……現金も少しあった方がいいかな」
寮にある自室で私はアカデミーから訓練用に支給されたバックパックに思いつくものを詰め込んで荷造りをしていた。
とにかく必要なものを持っていきたい所だけど、捜索の妨げになってはいけないし。かと言って自分が遭難してしまってはダメだし。
捜索。そう、私はコータを探す為の準備を進めていた。
あの日、“ジェニスタ”ごと回収された私は直ぐに“ハーリンゲン”艦内にある反省室に入れられた。
それは簡単に言えば営倉送りになってしまったという事で、軍の持ち物であるMKを無断で持ち出して兵器まで使用したんだから当然だよね。
本来ならかなりの大事になってしまう事件なんだけど、活躍したからという艦長さんの判断で艦を降りた後は不問にしてくれた。本当に良かった。そのおかげでこうしてコータを探しに行く事が出来るんだから。
私が荷造りを終えて寮の廊下を歩いていると、エレベーターホールでシャルに出会った。
シャルは壁にもたれていたけど、私の顔を見るなり少し慌てたように口を開いた。その様子を見て納得した。どうやらシャルは私を止める気らしい。
「リオ、待てよ、ちょっと待て」
「ダメだよ、シャル。私は行く」
エレベーターのボタンを押そうとする私の腕を掴んでシャルがそんな事を言う。無茶なのは分かってる。だけど私はこの衝動を抑える事ができない。
国際連合は“ザブロック”に連れ去られたコータの捜索はしないのだと言う。
“ハーリンゲン”の艦長さん曰く、正確には捜索は一旦打ち切りで、後日、必要なら捜索隊が編成されるだろうと。そう言った。
後日、必要なら。聞けば、戦闘中に兵士が行方不明になる度にそのように言われ続けてきたのだとか。そしてそのまま捜索隊は編成されずに戦没扱いにされていくのが現状。
それが例え最新機種“ワルキューレ”もろとも行方不明になったパイロットがいるとしても。
そう、国際連合軍からは捜索隊は出ない。となれば私が行くしかない。
「って言ったって何をどう探すってんだよ、お前ひとりでどうにかなる問題じゃないだろ?」
「まずはあの場所に行く。それから機体の足跡とか、それから……」
「んな事しても見つかるわけないだろ、“ザブロック”は水中を潜航出来るんだ、川に入ったら足跡も何もないだろう!?」
「だけど……!」
そんな事はわかってる。分かっているけど。
「じゃあどうすればいいの……」
抑えていた涙がここでまた溢れてきてしまった。コータの事を思うと、気を抜くとこの涙はどんどんと溢れてきてしまう。その度に自分に言い聞かせるんだ。コータは大丈夫。無事だって。
何度も何度も言い聞かせる。すると涙は治まる。そして頭では無謀だと分かっていても、どうしようもない衝動が私を突き動かす。コータを探しにいけと。
アラスカに行っても何も得られないのは分かってる。シャルだって親友の行方が分からないのは辛いはず。けど、こうして私を必死に止めてくれる。
心配しているのは私やシャルだけじゃない。エディータ先輩もメイリン准尉と一緒に軍の作戦部に掛け合ってくれている。彼女たちだってコータを失って辛い筈なのに。
私はこうしてシャルを困らせるようなことしか出来ない。
「……けどよ、明日から一応アカデミーも長期休暇だろ? その……行くだけなら良いんじゃないか。無茶な事しないなら」
「……シャル?」
顔を上げると心配そうな顔をしたシャルと目が合う。燃え上がるようなルビー色の瞳に私が映る。こんな顔をしていたら心配してしまうよね。そう思えるほどに私の顔は酷いものだった。
「えとな、その、アタシもついて行くからよ。保護者役として。だから泣くな、な?」
ポンポンと優しいリズムで私の背中を叩いてくれる。まるで子供をあやす時のやように優しく。
そうだ、ダメだ。親友にこんなに心配をかけては。
「一緒に来てくれるの?」
「ああ。それで気が晴れるならな。部屋に篭ってたって気が滅入るだけだろ? けど、その格好は旅行には微妙じゃないか?」
「え、ああ、そうか」
そうだった、捜索に行くつもりだった私はアカデミー指定の野戦服姿だ。女子2人で行く旅行、という名の手掛かり探し……にしては色気が無さすぎる。それにすっぴんだ。
散々に泣いたせいで目は腫れて、睡眠不足で目の下にはクマが出来ている。肌荒れも酷い。
シャルと二人で現場に行ってもきっと何も変わらない。けどそれで気が晴れるなら。あわよくば何かの手がかりが掴めるかも知れない。
心強い親友の提案を私は受けることにした。
「一旦戻って支度してくるね」
「おう、アタシも準備してくる。一人で勝手に行くなよ」
「あはは、もう大丈夫。ありがとう、シャル」
このままシャルを置いて私一人で行ってしまうと思ったのかな。でもそんな事をいうシャルは確かに心配そうだった。けど、うん。さっきまでの私は確かにそんな事をしでかす様相だったと思う。
あのまま飛び出していたら無茶も厭わない程には。それを止めてくれたシャルの存在に有り難さを感じながら、私は部屋に戻った。
「……?」
自室の角に置かれた木製の勉強机の上に見覚えのない手紙が置いてあった。
え、なに?
少し不気味に思いながらも私は机に近づいて手紙を確認……。
次の瞬間、私はその手紙に飛びついていた。比喩ではなく本当に飛びついていた。
その手紙の宛名。もう使われなくなった私の〝和名〟、知る人は少ない私の日本人としての名前。漢字で確かに書かれた【白咲 莉音様へ】という文字。
この筆跡。間違いない。
見紛うはずのないコータのものだ。
急いで、でも丁寧に封を切って中から便箋を取り出す。丁寧な心のこもった文字で書かれた手紙だった。私は溢れ出る涙を抑える事もせずにその手紙を隅から隅まで読んだ。
手紙にはまず私は無事なのかという心配。それからコータ本人も無事な事が書かれていた。
どうしてもやらなければいけない事があるのでしばらくは帰れないという事が書かれていた。
そして最後に、
「……誕生日、おめでとう……」
手紙の最後にそう書かれていた。すごく可愛いケーキのイラストも添えて。すごく嬉しかった。けど、
「それって、少なくとも誕生日までは会えないって事じゃない」
私の誕生日は12月25日。随分と先の誕生日を既に祝われてしまった。それはつまりはそういう事。
あのコータの事だ、やらなければいけない事ということはきっと誰かの為にする事なんだと思う。昔から彼はそうだ。仲間思いで優しくて。
随分長い間会えないんだ……。そう思う反面、
「無事……だったんだ……」
良かった、本当に良かった……!
会えないのは寂しい。でも、生きているなら、無事なら今はそれだけでもいい。大好きなコータが今も確かに生きている、それだけでいいじゃないか。
ああ、どうしよう。安心したはずなのに涙が止まらない。
生きていたのが嬉しくて、会うないのが寂しくて。でも、きっとコータも頑張っているんだろうっていうのが文字から伝わってくる。
メソメソなんてしていられない。次にコータに会った時にもっと素敵な女になっていなければならない。
それに、もっと強くならなくちゃ。コータを守れる様な女にならなければならない。
ドアがノックされる。多分シャルだ。シャルにもこの手紙の事を教えてあげなくちゃ、すごく心配していたから。
かなり早いバースデープレゼント。
嬉しい。けど、やっぱり誕生日には会いたいかな。贅沢だけど、どうしてもそう思わずにはいられなかった。
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このお話で第三章は完結です。
幕間を数話挟みまして第四章に続きます。
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