03-24.研究室
アヤコ先輩とカレンさんに案内された研究室。
室内は学校の保健室の様な作りで、白い壁紙のおかげで小綺麗で清潔な印象だった。
研究室というより病院の診察室みたいだな。カレン自身が軍医だと言っていたし、実際にこの部屋で診察もする事もあるのだろう。
まずはカレンさんとアヤコ先輩が独自に行ったという研究をまとめた資料に目を通す。努力の結晶とも言える研究結果を今日出会ったばかり、更に言えば敵だった僕に丸々提示してくれているところからすると、本当に藁にもすがる思いで研究してたんだな。
「……」
数十枚の紙に印刷された彼女らなりの見解と計算式の羅列、様々な研究結果を示したグラフに目を通す。
そうしている間にも室内にいた研究員が僕に訝しげな視線を送って来ている。まぁそうなるよね。僕は中身はともかく見た目は15歳の少年だし、同い年の男子にくらべても少し身体は小さい。童顔ってのも相まって、まぁその、子供っぽい。……自分で言ってて切なくなる。
一度は成人したんだぞ、こう見えても。なんて言えるわけもなく「こんな子供に何がわかるの」的な視線を甘んじて受ける。
“ワルキューレ”の機体説明会の時もそうだけど、この見た目のせいで舐められることが多いんだよなぁ。場合によっては侮られていた方がいい時もあるから一概には言えないけど。
「……どうだ」
「……」
僕が思った彼女らの研究結果への見解をカレンとアヤコ先輩に述べる。
アカギ教授の論文を元に彼女たちなりに苦労して導き出した研究結果だけあって非常に的を射た素晴らしい成果だった。けど、やはり問題点が多い。その間違いが非常にハイレベルな所で起きているので気が付かなかったんだと思う。
それを2人に指摘すると、彼女らは目を見開いて、互いの顔を見合わせた。
「そ、そういう事だったのか! ケータ、早急にこれを試してみてくれ」
「は、はいっ」
「す、すごいわ、コータくん」
「いえ、カレンさんもアヤコ先輩も独自の研究でここまで辿り着かれていたのには驚きました。素晴らしい研究をされていたんですね……ん、どうしまし
た?」
「いえ、いいの。はは、アヤコ先輩か、なんだか学生みたいで良いわね」
「あ」
しまった、つい昔の呼び方で呼んでしまった。嫌がっている様子もないし、失礼じゃなければそのままでもいいのかな。協力するとは言っても彼女の部下になったわけじゃないんだし。
「艦長に対して失礼でしょ」
「アスカ、コータくんは協力者ではあるけど外部の人間よ。それに、こちらから協力を依頼しているんだからその辺は弁えなさい」
さっきまで泣いていたはずのウエハラが飽きもせずそんな事を言ってきた。けど、まぁ確かに部外者の僕が艦長に対してそんな態度では良くないか。
「……ち」
と思っていたら、まさかウエハラが舌打ちをした。ホント顔が良いだけだなコイツ。
「アスカ三佐!」
「あー、はいはい、分かりました分かりました」
てかあの暴力女が三佐? 将校かよ、アイツ。マジか、どんな冗談だ。そしてお前の艦長に対する態度こそ改めろ、他人には厳しく言うくせに自分は上官に舌打ちとか。そんな大人、修正してやる。
まぁ、でも確かに他の乗組員に面目が立たないから気をつけた方がいいとは思うけど。でも【先輩】はダメかなぁ。
それにしても。
確かにカレンさんやアヤコ先輩が熱心に研究を進めていたとはいえども、これはちょっとした小細工でどうにかなるレベルではなさそうだ。
今の段階であるニウライザの精製の技術を知る誰かの監修の下で更なる研究を進めなければ、精製方法の確立は難しい。アカギ教授に頼んで製薬会社から人を派遣してもらおうか……けど、何もかもアカギ教授に頼むのも少し気が引ける。
僕がここに残って監修する事なんて出来ない。アカデミーで今よりさらに操縦の腕を磨かないといけない。新型試作機のパイロットに選出されなければならないのだから。
「やはり私が見込んだ通りだ。コータくん、君には妄想を実現させる力がある。これならば中和剤、ニウライザだったか。それの量産も夢じゃないぞ。既に精製した実績があるのだろう?」
「はい、ですが」
「そうだな、精製方法が確立出来るまでしばらくはかかるだろう。そうだな、1年……いや、君がいてくれたら半年足らずできっと」
半年。
そうだ、それくらいの時間が必要だ。しかしそれは僕がこの場に残ってカレンさんやアヤコ先輩と一緒に、更に言えばカスタマイザーを救済するための薬などという一見需要が低そうな薬の開発を進めてくれている製薬会社が協力した場合だ。
それにこの人生で、アヤコ先輩は研究者ではなく“ソメイヨシノ”の艦長なんだ。戦艦の艦長がラボに入り浸って研究する訳には行かないし……そうなれば人手はいくらあっても良いと思う。
やはりアカギ教授に頼んで製薬会社から目ぼしい人を派遣してもらうのが良いと思う。製薬の専門家だ、僕が手を貸すよりもっと効率的だろう。それにアカギ教授の人柄だし、きっとコネを持っているはずだ。
製薬会社とソメイヨシノ隊での二人三脚で精製方法を確立させて世界に流通させる。安価で手に入りやすいニウライザが完成すれば、依存症に苦しむカスタマイザーの多くを救うことが出来る。
カスタマイザーを蝕むレギュレータを体内から中和させるニウライザ。それの早期完成は必ずしも好影響をもたらす筈。
それは回り回って、リオを救う手段になるとも言えるだろう。
善は急げだ、早速アカギ教授に連絡を付けよう。
“ソメイヨシノ”のような艦だし、きっと暗号化通信できる端末もある筈だ。
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