03-23.英霊達に
僕はこのソメイヨシノ隊に協力する事にした、などと言えば僕が力を〝貸してやる〟みたいな聞こえ方をしてしまうかも知れないけど全くもってそんなことはない。
アヤコ先輩やカレンの様な技術者がニウライザの研究に加わればそれの開発スピードが格段に上がり、より良いものが出来るに違いない。
正直、カレンにだけ説得をされていた時は迷っていたけどアヤコ先輩の登場に背中を押された様な状況だ。
それとソメイヨシノが持つ資金力が心強い。結局は金かと言われてしまうかも知れないけれど、必要なものは必要。無い袖は振れない。
ニウライザ完成に向けてのプロジェクトを進行していくにあたって、お金の問題はついて回る。ソメイヨシノ隊が有する資金力無くして完成はない……とまでは言わずとも、時間がかかる。
現に開発を進めている製薬会社での扱いも良いものだとは言えず、レギュレータ依存性の患者、つまりカスタマイザー自体が世界的にたくさんいるわけではないので、その中和剤開発部署への予算割り当ても潤沢なものだとは言い難い。
それもそうだよね、カスタマイザーは禁忌の存在。実際に戦っている兵士はともかく、戦争に関わっていない市民からしてみれば都市伝説的な存在なんだから。
しかしソメイヨシノ隊の全貌はまだ見えていないので、アヤコ先輩が率いているとは言え、完全に信用しきってしまうのはまずいとは思う。
それはアヤコ先輩が信じられないというわけではなくて彼女もまた誰かの指示で動いている可能性がある、という事。
何がどうなって僕の目論みが何処かに漏れてしまうかも知れないので、そこは十分に慎重になる必要があるだろう。
そしてソメイヨシノ隊に協力するにあたって僕は条件を出した。その条件は多数あるけど、まず僕が出したのは先の戦闘で起こった“ハーリンゲン”の被害だ。
アラスカのユーコン川沿いで仕掛けてきたソメイヨシノ隊だが、国際連合側に如何なる被害が出たのか、それを確認したかった。
リオは無事なのか。まずはそれを確認しなければならない。
前回の作戦目的はやはり“ワルキューレ”や、そのパイロットの捕縛。まぁ結果的にカスタマイザーであるエディを捕らえる事は出来なかったが、大会目標である“ワルキューレ”を捕縛したソメイヨシノ隊はそれから早々に撤退したらしい。
ソメイヨシノ隊が集めたデータから察するに、“ハーリンゲン”には誰も近づいて、いや、近づけていない。つまり、艦内にいたリオは無事。良かった、本当に。
けど、本当ならば僕は捕まってしまったわけだから、リオを守りきれなかったという事になるんだよな。
“ワルキューレ”があるから大丈夫だなんて思っていたけど、全然そんな事は無かった。
ソメイヨシノ隊はダリル基地での戦闘データを持ち帰り、“ワルキューレ”をしっかり研究して戦い方を練って、対策を打ってきた。
今後はもしかしたらそういう戦いが増えるかも知れないから、機体性能に甘えた戦い方ばかりをしていると今回みたいに足元を掬われかねない。
もっともっと自分を追い込んで操縦技術の底上げを図らなければリオを守る事なんて出来ないぞ。
エディやメイリン准尉、E.M.Sのもう1人のパイロットのジムも撃墜などされる事なく戦闘を終了したみたいだ。
ソメイヨシノ隊には数名の戦死者が出たそうだ。カスタマイザーを保護するのが目的だとは言っても、死者が出る様な戦闘を繰り返していくしか無かったというのはそれが正解かどうか本当に分からないな。
「えっと、シタハラさん?」
「ウエハラよ」
「失礼。キョウカさん?」
「アスカよ! わざとやってんでしょ、アンタ!」
僕の前に棒の様につっ立ったままのウエハラが大きなつり目を更に吊り上げて憤怒した。やはり直情型、すぐ怒るから揶揄うと面白いな。顔が真っ赤だ。
って、これじゃ僕が性格悪いヤツみたいじゃないか。全てはこの暴力女が悪い。
「あの、僕、もう行ってもいいですか? 艦長やカレンさんが待ってるんですけど」
「うぐっ……!? く、くそ……!」
リオやエディ達の安否を確認出来たところで、早速僕はアヤコ先輩やカレンに連れられて艦内にあるというラボに案内してくれるらしく、ウエハラが牢の中に手錠を外しに来たんだけど。
手錠を外した時点でアヤコ先輩がウエハラに「何か言う事があるでしょう」と言ってからこの通り固まってしまっていた。
あの様子だと尋問の後でこっ酷く叱られたっぽい。だよね、監視カメラもあったし、アヤコ先輩はあんな事を許す様な人じゃない。
ウエハラの頬の湿布は多分アヤコ先輩にでもしばかれた後か、ざまぁみろ。
「ご、ごごご、ごめんなさい……」
「何について謝ってるんですか」
「な、ななな殴ってごめんなさい……」
「嫌です」
「なっ!?」
分度器で計らないと分からないほどの角度で頭を下げたウエハラはそれでも勢いよく頭を上げて、驚いたように目を見開く。
あんなものは尋問じゃない。こちとら手錠をかけられた状態で殴られたんだ、そう易々と許してたまるか。
「あの時に腕の骨を折っておくべきでした。後悔してます」
「なっ!?」
この反応、やっぱりダリル基地で鉢合わせたマスクの女だったか。いきなり銃を向けてきたから腕を捻り上げて飛び付き十字固めをしたけど、その時に腕を折って終えば良かった。次は折る。
「……ふふっ」
「アヤコっ! カレンまで……」
ウエハラは思わず吹き出してしまったであろうアヤコ先輩とカレンさんに恨めしそうに睨んで更に顔を赤くする。
でもウエハラが怒った理由は、気持ちは分からなくない。というか、そうしたくなる気持ちは痛いほどわかる。行動に移さないだけで、そうしたくてしょうがない兵は沢山居ると思う。
例えば僕が、考えたくもないけどリオやシャル、エディ、メイリン准尉達が誰かに殺されて、その相手が目の前にいたら衝動を抑えられるか分からない。そう、考えただけで怒りが込み上げてくる程には。だから、
「けど、アナタの部下には敬意を。アナタの部下は確かに強かった。それは本当です」
ひとつの信念を貫いて、己が信じる正義の為に死んでいった英霊にはせめて敬意を払いたかった。
黒いMKの動きは確かに洗練された素晴らしいものだった。一撃一撃に気持ちが入った素晴らしいものだった。
僕が牢を出る時、ウエハラが泣き崩れる声が背中に聞こえた。
殺してしまって、ごめんなさい。
まさか、そんな無神経な事は口が裂けても言えなかった。
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