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03-22.先輩


「アヤコ、何でこんなヤツに謝罪なんか! この鬼のせいでジュンコやフランクは――」

「痛い目にあったのにまだ分からないの!? それと同じ様に私達は彼の大切な人の命を奪っているのよ!? それに、彼の言う通り、きっかけはコチラにある」

「でもカスタマイザーを」

「それはこっちの都合よ。それでは命を奪っていい理由にはならない」

「……」


 そう言われてウエハラは唇を噛んで押し黙った。


「アヤコ……イチノセ」


 短く切り揃えられた黒髪、特徴的な瑠璃色の瞳、育ちの良さが伺える端正な顔立ち。間違いない。


 そう、僕と彼女は1周目の人生で出会っている。

 あまりにも突然訪れた再会だったせいか直ぐに思い出す事が出来なかったけど。


 驚いた。だって彼女は1周目の人生では防衛学園の教官だったのだから。

 教官であり、同僚。いや、彼女の方が10歳以上年上なので同僚というよりは先輩だ。

 

 彼女と僕はアカギ教授の助手として共に研究をしていたんだ。それはMK(モビルナイト)開発であったり、そう、カスタマイザーの身体を蝕むレギュレータを体内から取り除く方法の研究を。


 その彼女がどういう経緯でこの艦の艦長なんてしているのかは分からない。分からないけど、見当はつく。


 恐らくこの“ソメイヨシノ”の後ろに控えている組織は……。


「ナナハラ重工のご令嬢がなぜテロリストなんかに? お父様に合わせる顔が無いのでは」

「っ!? 何故それを!?」

「ポーカーフェイスというものを知らないの、アスカ……」


 僕の指摘に狼狽えたウエハラに、イチノセ氏……1周目の呼び方をそのまま使うのならアヤコ先輩はあからさまに項垂れた。


 アヤコ先輩の言う通りにいちいち反応していたらどんどんと不利になっていく。ウエハラみたいに直情型の人間はこういった話し合いの場には向かないな。なぜ尋問官として現れたのか謎で仕方ない。


「若いのに博識みたいね」

「博識かどうかは知りませんけど、経験値は割と高いかも知れませんね」 


 ウエハラをやれやれと言った様子で嗜めていたアヤコ先輩だったけど、涼しげにそんな事を言いながら僕に向き直る。


 知識はどうか知らないけど、何といったって僕は一回死んだ事がある人間だ。伊達にあの世は見てないから経験値は高いと思う。


 彼女は、アヤコ・イチノセは日本にあるあの“キュー”を生み出したMK(モビルナイト)製造会社、【ナナハラ重工業】の創設者の一族。確かお爺さんは現会長、ゲンゾウ・ナナハラ氏だ。


 そして父親は現日本国首相、ケン・ナナハラ。イチノセというのは母方の旧姓。正体を隠す為にイチノセを名乗っているんだろうけど、それは1周目の人生でもそうだった。これを聞いた時はひっくり返る程驚いたけど。


 初対面でいきなり正体を言い当てられたのだからウエハラのあの反応も頷ける。逆に言えば表情ひとつ変えなかったアヤコ先輩や軍服の男を褒めるべきだろう。


 しかし、なるほど。アヤコ先輩が指揮をする部隊か。僕の中でバラバラだったパズルのピースがはまっていく。

 次世代MK(モビルナイト)を量産出来る技術、それを運用できる資金力。


 ナナハラ重工は“キュー”の様な小型作業用ポッドを製造する一方、国の旗艦にもなる様な大型機動戦艦を製造する企業だ。更にはそれを筆頭に、そのグループ企業は宇宙コロニーの製造にも着手する日本が誇る巨大企業。その資本力は計り知れない。


 と、僕はソメイヨシノ隊の裏にはナナハラ重工がいるなんて想像したけど……まさかアヤコ先輩個人の資本で運用しているなんて事はないよね?

 

「カレンとの話が難航しているみたいだったから」


 カスタマイザーを救う組織というものに疑問を持っていた僕だけど、アヤコ先輩の登場で合点が行った。


 アヤコ先輩は防衛学園でカスタマイザー救済の方法を熱心に研究されていた方だ。

 最終的に僕が決定的な発見をしたものの、彼女の力が無かったらそれを発見出来ていたかどうか分からない。


「カレンから聞いたと思うけど、私たちはカスタマイザーをこの世から消し去りたいと思っているわ。けれど正しい方法が分からず、武力を以て彼らを拉致じみた方法で保護する事しか出来なかったの」

「何故カスタマイザーを保護しようと思われたのですか」

「カスタマイザーは全員被害者よ。全員救う必要がある。例え自らの意志でカスタマイザーになった人がいたとしてもね」

「自らの意志でなったとしても?」

「そうよ。全てはレギュレータがあるからいけないの。それをこの世から消し去る事が今の私たちの仕事」


 そう語るアヤコ先輩の瞳には確かにそれを実現させるんだという強い意志の様なものが秘められている。そう、それは一緒に肩を並べて研究をしていた時と同じ力強い瞳だった。


「手荒な真似をしたのは本当に謝ります。それ以外の方法を知らなかったの。でも、中和剤が出来れば」


 僕のタブレット端末に入っているデータだけではニウライザには辿り着かない。それを元にアカギ教授と知識を擦り合わせてやっと形になりつつあるシロモノだ。


 さっきは強がってしまったけど、正直そのニウライザもまだ完成には至らない。

 

 エディに投薬しているものは完成品ではあるのだけれど、今の精製方法ではエディを救うのが精々だ。それでもかなり進歩してはいるのだけど、この世のカスタマイザー全てに行き渡るには圧倒的に量が足りない。


 ニウライザの完成には沢山の研究者の知恵と情熱と時間、それから金が要る。


 今あるニウライザ精製のノウハウを開示して練りに練れば、完成時期を早める事が出来るはずだ。そうすればエディの様に依存症に苦しむ人を少しでも減らす事が出来るんじゃないか。

 

 ガーランドの手駒にされてしまうカスタマイザーをも救えるかも知れない。


 もし彼女たちがニウライザを生み出そうとするならば僕の協力なくしては実現出来ないだろう。


 防衛学園で教官をしているはずの彼女が何故ここに居るのか分からない。しかし、今目の前にいるのは確かにあのアヤコ先輩だ。


 ニウライザの製薬方法を確立し、彼女の持つ膨大なコネクションを使って世界に流通させる事が出来るかも知れない。


 彼女なら、彼女が率いる部隊なら信頼出来る。


 




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