03-21.謝罪
カレンはカスタマイザーを救いたいのだと、その為にはレギュレータを正しく理解し、対策を打てる人材の協力が必要なのだと言った。その為にソメイヨシノ隊は世界中に斥候を放ち、些細な情報を集めてカスタマイザーを保護しているのだという。
保護、救いたい。
それなのに何故彼女らは武力を行使するのか。その矛盾がどうしても理解出来なかった。僕が彼女たちの思考を理解するには、僕はあまりにも彼女らを知らなさすぎる。
情報の開示を求めると、カレンは全てを話す事は出来ないがと前置きをして話し始めた。
カレンやあの暴力女ウエハラが所属している部隊は〝ソメイヨシノ部隊〟と名乗っているらしい。
正式名称はないみたいなので母艦の名前がそのまま隊の名前になっているのだとか。と言っても名乗る機会もそうはないらしいけれど。
その母艦の姿形などは話してくれなかったけど、今はその艦の中に居るみたいだ。一体何処を航行しているのか分からないけど、エンジン音は聞こえないし、空を飛ぶ際の風切り音などが一切聞こえない。
この静寂性の高さ。潜水艦かとも思ったけど、独房ですらそれなりの広さがあるし尋問室へ向かう際に通った廊下の幅も広かった。それを思うと艦自体がかなりの大きさをしていると推測できた。
もしくは、もう僕は地球上にはいないか、だ。窓がないからそれを知ることは出来ないけど。
彼女たちはどの国家にも属さない非正規の軍隊。よく言えば傭兵団。僕の解釈で言えば、やはりテロリストだろうか。
「レジスタンスと言ってくれるかな」
「どちらにしてもあまり良い意味では無い気がしますが」
テロリストよりは何倍もマシだとは思うけど。あのウエハラにはピッタリの呼び方だ。テロリストもレジスタンスも非合法なものであるから、いずれにしても戦犯として扱われることはない。
ソメイヨシノ隊が戦場で行う行為の多くは犯罪として処理される。
「それで、そのレジスタンスが何故ニウライザを? さっきも言いましたが、既に国際連合内部に於いてニウライザの製薬は始まっています。あなた方が動かずともカスタマイザーは救われつつあるんですよ」
「そうだな、その話は確かに知らなかった。既に中和剤、ニウライザが流通しつつあるなんてな」
「では――」
「しかしそれでは何も変わらないんだよ、コータ」
カレンは言う。国際連合にいるカスタマイザーはそれで救われるかも知れないが、レイズにいるもの達はいつ救われるのだと。
彼女らソメイヨシノ隊は世界中から情報を集めて、カスタマイザーだと思われるパイロットを保護しているのだと言う。真相は分からない。しかし、カレンはそう言った。
カスタマイザーに対抗するには相当の技量を必要とする。その様なパイロットを育成するためには時間と金、それとそれなりの才能を持った人材を要する。
ともなれば、やはり投薬してステータスの底上げを図ったカスタマイザーを生み出してしまうのが早く、時にはそれで得た力によって、その本人の命すら救うことになるかも知れない。
「しかしそれでは……」
「そうだ。それではペイに対するバックがあまりにも乏しすぎる」
投薬に投薬を重ねたカスタマイザーの末路は悲惨だ。
自身の限界を超えて駆使し続けた肉体はある時急に悲鳴をあげる。筋肉同士を繋ぐ靭帯はボロボロになりやがて身体が不自由になる。
研ぎ澄まされた第六感とも言える感覚はやがて頭の中にもう一人の自分を作る。四六時中、もう一人の自分の呟きに悩まされ続ける。
しかしそうなってもやはりレギュレータを投与しなければ自らを傷つける程暴れ回る。
その果てに待ち受ける苦痛は、果たして戦闘力に見合う代価なのか。
誰のために、何のために戦うのか、戦わされているのか。
そう、もはやそこに本人の意思など無い。
それぞれ戦う理由があったにしろだ。
「1人のカスタマイザーが敵兵を2人殺せれば良いなどと考えているんだよ、君たちの上層部の人間は」
「そんな事は……」
「うん、まぁもちろん全員がそうだとは言わないがね。それでもごく一部の阿呆のせいで苦しむ兵隊がいるのは確かだ」
本人だけじゃない。その家族、友人。そのカスタマイザーに殺された兵隊でさえも。
マッドサイエンティストが生み出した狂戦士と言う存在は何も、誰も幸せにしない。
あの日、虐殺テロに紛れていたであろうカスタマイザーすらも。
「……」
気がつけば僕は強く拳を握り、歯を食いしばっていた。ただひたすらに夢を追って、掴んだリオから全てを奪った卑劣なテロを起こしたガーランド。エディを操り、駒にしか見なかったガーランド。
許せなかった。
そうだ、ニウライザが国際連合内でのみ普及しても意味がない。
レイズにカスタマイザーが居続けるなら、それに対抗するべく国際連合からもカスタマイザーは居なくならないだろう。その逆も然り。双方からカスタマイザーが居なくならない限りは根絶はあり得ない。
僕にはレイズにニウライザを流通させるアテは無い。しかし、コイツらなら。国という縛りがないソメイヨシノ隊ならそれが可能なんじゃないだろうか。
カスタマイザーの情報を集め、保護しているコイツらならニウライザを世界にばら撒き、この世からカスタマイザーを根絶させる事ができるんじゃないか。
いや、でも。
「信じられない、か」
「……」
僕はコイツらが信じられなかった。
ダリル基地を襲撃して、兵を殺してエディも重症を負った。カスタマイザーを救う為ならなぜ武力を行使しなければいけないのか。
いや、答えは簡単だ。話し合いなんかでは人は分かり合えない。
「難航してる?」
「アヤコ、話がまとまるまで待ってくれと言っただろ」
すると突然、僕の死角になっていたところから軍服を着た女が現れた。僕とカレンの会話を聞いていたんだろう、カレンの口ぶりからするとまだ彼女の出番ではなかったようだ。
僕が訝しげにその女を見る。彼女の傍らには、軍服を着た若い男と、それから何故か頬に大きな湿布を貼ったウエハラが控えていた。相変わらずものすごい勢いで睨んで来るけど、なんなんだ。
……え、いや、ちょっと待て。
タイトスカートタイプの軍服に身を包んだ小柄な女が僕の前に一歩歩み出てきた。特徴的な瑠璃色の双眼に僕の姿が写り込む。
なぜ彼女がここに、
「はじめまして、コータ・アオイさん。私は“ソメイヨシノ”の艦長、アヤコ・イチノセ。まず手荒な真似をした事を謝罪させてほしいの。ごめんなさい」
「……アヤコ、イチノセ?」
思い出した。
この女と、いや、この女性と僕は面識がある。
いやしかし、彼女のいう通り彼女と出会うのは初対面だ。
そう、この人生においては。
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