03-18.尋問
机を挟んで僕の向かいに腰掛けた長髪の女が僕の目を見て問うてくる。
「それで、どうしてあの白いMKにアナタが乗ってたの? あの白いのは〝女傑〟用に作られた機体だって聞いてたんだけど」
「アナタ達がいきなり攻めてきたから乗り込む事になったんです。じゃなきゃ僕みたいな素人があんな機体に乗れるはずないでしょ」
「てことは、ダリル基地の時にあの白いのには既にアナタが乗っていたって事じゃない」
ウエハラと名乗った女と、後ろに控えていた男たちが少しだけ動揺したように見えた。やっぱりというか、ダリル基地を襲ったのはコイツらの一味だったみたいだ。
前情報から、あの時“ワルキューレ”を操っていたのはエディだと思っていたらしく、パイロットがライセンスを取ったばかりの僕だったと知って驚いているみたいだ。
「じゃあどうして今回もアナタが乗ってたの。ダリル基地の時から時間も経っているし準備も出来たでしょう」
その質問に僕は少しだけ思考してから、結局答える事にした。
「……あの機体は一度パイロット登録をすると登録の変更は出来ない仕組みになってます。アナタ達みたいな奴らに奪われても起動出来ない様にするために。ですからあの機体は僕専用です」
もちろん敵に情報を流してはいけないと分かってはいるけど、これはある程度MKを理解しているものが調べを進めれば分かることだし、わかった所でどうなる事でもない。
話しても問題ない情報とそうじゃない情報を精査して話していかないといけない。あまり適当な事を言うと何してくるかわからないから。
僕のその答えに女は眉根を寄せて、少し言い淀む。
「あの機体に乗っていたという事は、やはりアナタも……」
「……?」
「いや、なんでもないわ……」
次々と質問を投げかけてくる女だけど、どうも質問に一貫性がある様に感じた。
エディはカスタマイザーなのか、“ワルキューレ”はカスタマイザー専用機じゃないのかと。
本当のところは分からないし、僕の思い違いかも知れないけど、どうもこの女はカスタマイザーの何かを探っている様に感じた。まぁこの場で個人的な質問をしてくる事は考えにくいので、彼女が属している組織が、という事にはなるのだろうけど。
すると扉がノックされて白衣姿の長身の女が入ってきた。長い髪のせいで瞳は片方しか見えていない深い紫色の瞳。少し急いだ風の女の白衣には大量の血液が付着していてた。
一瞬何があったのかとギョッとしてしまった。
尋問中だったはずのウエハラと言った女が白衣の女に詰め寄る、カレンと呼ばれた白衣の女がウエハラの肩を掴んで落ち着かせる様に言った。
「落ち着けアスカ」
「カレン、ヨーコの容態は!?」
「一命は取り留めた。……しかし、右腕を失った」
「……くそっ!」
ダンとウエハラは拳をテーブルに打ちつけてから僕を睨む。
僕に向けられた燃えるような殺気。思わず目を逸らしてしまいそうになるほどに強烈な殺意だった。そのヨーコとか言う人物が何なのか知らないけど、殺したくなるほど僕を憎んでいるのは伝わってきた。
「アンタ達カスタマイザーが居るから……!」
「待て、アスカ。これを見ろ、彼の血液検査の結果だ。マイナスだよ、彼は」
白衣の女がウエハラに白い用紙を渡した。その用紙を受け取って目を通す。どうやら話の流れから察するにあの女は医者のような立場の人間なのかも知れない。
というか僕の血液検査? マイナスって何のことだよ。
「……何ですって? カスタマイザー専用機のはずでしょう、カスタマイザーじゃないと乗れないんじゃないの」
「それは分からんが。彼がカスタマイザーではない事は数字が物語っている。彼は違うよ」
「じゃああの反応速度はどう説明するつもり? 明らかに尋常じゃない動きだったわ」
「それは説明出来ないな。単に彼の才能か、努力の賜物か。どちらにしても彼は〝白〟だよ」
「……なんて事」
話の流れがよく分からないけど、ウエハラは僕がカスタマイザーだと思っていたらしい。
恐らくはカスタマイザー専用機だという情報を事前に仕入れていたから、“ワルキューレ”のパイロット=カスタマイザーであると思っていたんだろう。だから僕のこともカスタマイザーだと思っていたという事か。
カスタマイザー差別主義者か……?
世の中にはカスタマイザーを差別的な目で見る者が多くいる。単に薬物依存者だと揶揄するものもいれば、自然の理に反した存在だとして忌み嫌うものもいる。
カスタマイザーの多くは研究者の教育という名の摺り込みによって、いつの間にか薬物投与された者がほとんどだという事もしらないで。
そう、エディの様に薬物と戦って苦しんでいる者もいるのも知らないで。気がつけば僕は自分でも驚くほど低い声で言葉を発していた。ウエハラを睨みつけながら。
「アナタ達はなんなんですか」
「……何?」
鋭い視線を向けてくるウエハラに僕は怯まずに言い放つ。僕を捕らえた理由もわからないままに、こんな犯罪者みたいな扱いを受ける道理がない。それに、
「何故僕がこんな仕打ちを受けなければならないんですか、コクピットにガスまで注入して。真っ当な兵がやるような事じゃねぇですよ」
「ッ!」
『――』
机の上に飛び乗ったウエハラが拳を振り抜いた。あの細い身体からは想像出来ない重い拳を受けて僕は折り畳みの椅子ごと吹っ飛ばされた。
瞬間、あの感覚が過ってウエハラの動きが読めた。けど避けなかった。反論するのは彼女の怒りを受け止めてからだと思ったから。
けどウエハラの行動を不味いと思った白衣の女が僕とウエハラの間に身体を入れて制する。
「待て、アスカ!」
「止めるなカレン! 貴様、あれだけ暴れ回っておいて自分は何もしてませんとでも言うつもりか! ダリル基地で貴様が殺したのは全員が私の部下だ、ジュンコ、フランク、サム、リリィ! そして、昨日トールも死んだ。ヨーコは右腕を失った! 彼女はまだ15だぞ、貴様と同い年だ、貴様はもう立派な人殺しなんだよ、それだけで私は貴様を殴る権利がある!」
ウエハラは白衣の女に制されながらもそんな事葉を僕に投げかけてくる。人殺し。その言葉が確かに僕の胸に刺さる。口に広がる鉄の味。口の中を切ったらしい、僕は血液を吐き出して口元を拭った。
そして睨みつけるような視線を送るウエハラがさらに吠える。
「それでも、貴様は何もしてませんというのか、私たちが悪いと言うのか!」
彼女は瞳に涙すら溜めて僕に訴えかけてくる。部下を思うからなのか、それはわからないけど、テロリストだからって人の血が通っていないわけではないみたいだ。でも、
「当然でしょう、アナタ達が来なかったら僕たちは戦わずに済んだんです。きっかけを作ったのはアナタ達テロリストだ」
自分達から責めてきて仲間が死んだ途端に被害者面か?
自己中心的で同情する余地も無いな、まったく理解できない。
「きっかけなど今に始まった事じゃないんだ、物事を平面的に捉えて目の前の事だけ処理したつもりになっていい気になるんじゃない! 全てはカスタマイザーを「もういい、アスカ」
「……」
白衣の女が途中で会話に入ってきたが、確かに僕の耳にはウエハラの言葉が届いていた。
「カスタマイザーを、根絶?」
そう僕には聞こえた。
「……それを為さねば負の連鎖は断ち切れない」
そう最後に言ってからウエハラは踵を返した。否定しないという事は確かにそう言ったのだろう。
「カスタマイザーが悪いわけではないのは分かっている。しかし……いや、お前にこんな事を話しても仕方ない。今日の尋問はここまでだ」
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