03-17.拘束
「……ぐっ」
凍えるような寒さを感じて目を開ける。
僕は無機質なコンクリートの部屋に横たわっていた。
身体のあちこちが痛い。おまけに……手錠をされて身体の自由を奪われていた。
そうだ、僕は敵に捕まって……。
朦朧とした頭でここまでの経緯を思い出す。
アラスカの森林での戦闘中、僕はあの黒い次世代機と戦闘をしていた。その最中にチャフと思われる攻撃を受けて機体のセンサーが一時的にダウンした……いや、あれは機体も動かなくなってしまっていたからただのチャフじゃないかも知れない。
なんとか機能を取り戻そうとしたけど、ジェネレータとコネクションを切られて出力が駆動系に伝わらなかった。
あの時、多分味方機だとは思うんだけど、一生懸命に援護射撃してくれていたな。そんなはずは無いんだけど、なぜかその砲手がリオだったんじゃないかって思えてならない。
そう、それからの記憶が無い……。
何とか機体を立て直そうとしていた時に意識が少しずつ薄れていくような感覚に襲われた。敵機に囲まれていた事から考えると、あれは機体の空気循環機構から気化した何らかの薬品を流し込んだか……いや、まさか、いくら何でもそんな非人道的な手段を講じるか。でも現に僕はなんらかの手段で気を失っているわけだし……。
いや、しかしなるほど、そんな手を使って来るような相手だったというわけだ。
僕の形を見るからにそれなりに手荒な事はしているみたいだし、やはり賊扱いされて然るべき相手だったというわけだ。
僕はパイロットスーツ姿を着たままで手錠で拘束されて、四方をコンクリートで固められた部屋、恐らく独房に閉じ込められている。
部屋の角にはあからさまに監視カメラが2基、それから鉄格子の電子扉。ベッドは無く毛布が畳んで部屋の隅に置いてあるだけ。あとは低いパーテーションで区切られたトイレ……一応清掃はされているようで安心した。
それからしばらくして監視カメラで僕が目覚めたのを確認したのだろう、武装した部下を2名引き連れた女が牢の前にやってきた。
腰まで伸びる黒髪を側頭部で結い上げた東洋人と思しき女だった。160cm台半ば程の僕の身長より少し小柄で一見、線は細く見えるけど身のこなしと姿勢。何より隙のない眼光を放つ瞳。明らかに腕に覚えのある兵の目だった。
「……目ぇ覚めた?」
「……」
鉄格子の向こうで女が腕を組んでそんな事を聞いてきた。歳の頃は20代前半か。そんな事は見れば分かるだろ。そう思ったけど、女のその言葉が日本語だった事に驚いた。
「……分かんない? じゃあ英語ならどう?」
「……」
「まぁいいわ。……今から尋問するから。部屋を移動するけど変な動きしたら痛い目見るから」
今度は幼さすら残るその声で流暢な英語でそういうと部屋のロックを外して、引き連れていた明らかにガタイの良い自動小銃を携えた男が部屋の中に入ってきた。女も腰のホルスターから拳銃を抜いて油断のない視線を向けてくる。
全員しっかり銃の安全装置を解除している辺り、その言葉がただの脅しではないという事が計り知れた。
現状の打開を目論む心算だけど、行動するのは今じゃない。とりあえず、今は言う通りにしておこう。
あからさまに尋問って言ったよな、コイツ。どんな事されるんだ……。そう思うと憂鬱なんて言葉で済ませられない程に気持ちがブルーになった。
◇
「で、あんたの名前は」
「あなた達は何者ですか」
「質問に答えて」
簡易テーブルの前の折り畳みのパイプ椅子に座らされた僕の前の女の片眉が上がり、語彙が少しだけ乱れる。
テーブルの上にはベタにスタンドライトがある。中学の頃に警察で事情聴取を受けた時のことが何となく脳裏に過ぎる。あの時とは状況が違い過ぎるけれど。
「あんまりふざけない方がいいわよ」
「……」
女の黒い瞳が一瞬鋭くなる。
心の中で、でしょうね。などと思って口をつぐむ。まぁ相手はコクピットにガスを流し込んだりしてくるような下劣な輩だ。戦争法などの概念があるとは思えない。気分次第で本当になにをしてくるか分からない。
こちとら入隊すらしていない民間人なんだ、指の一本や二本くれてやる。なんて覚悟があるはずもない。この女の言う通り、あまり意地を張らない方がいいかも知れない。かと言って洗いざらい話すつもりもないけど。
「で、名前は」
「……コータ・アオイです」
「パスと一致。正直に話したわね。私はアスカ・ウエハラ。アンタ達に部下を殺された今すぐアンタを殴り殺してやりたくてウズウズしてるオンナよ。よろしく」
「……」
そう言いながらパッとテーブルの上に放ったのは、僕のアカデミーの学生証。タブレットケースに一緒に入れて持ち歩いていた物だ。作戦前にシートの下のアメニティボックスに放り込んでいたっけ。
この女、最初から僕の名前を分かっていて正直に証言するのか試したって事か。多分、下手な事を言ったらタダじゃ済まない。この女はそういう雰囲気を纏った女だ。
「いくつか質問するからしっかり答えなさい」
そういうとアスカと名乗った女は軍服のボタンを一つ外した。
そう、彼女らは軍服を着ていた。
見たことのない軍服だけど、それは彼女らが軍に在籍している事を示していた。
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