表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

83/179

03-17.拘束



「……ぐっ」 


 凍えるような寒さを感じて目を開ける。

 僕は無機質なコンクリートの部屋に横たわっていた。

 身体のあちこちが痛い。おまけに……手錠(・・)をされて身体の自由を奪われていた。


 そうだ、僕は敵に捕まって……。


 朦朧(もうろう)とした頭でここまでの経緯を思い出す。

 

 アラスカの森林での戦闘中、僕はあの黒い次世代機と戦闘をしていた。その最中にチャフと思われる攻撃を受けて機体のセンサーが一時的にダウンした……いや、あれは機体も動かなくなってしまっていたからただのチャフじゃないかも知れない。

 なんとか機能を取り戻そうとしたけど、ジェネレータとコネクションを切られて出力が駆動系に伝わらなかった。

 あの時、多分味方機だとは思うんだけど、一生懸命に援護射撃してくれていたな。そんなはずは無いんだけど、なぜかその砲手がリオだったんじゃないかって思えてならない。


 そう、それからの記憶が無い……。


 何とか機体を立て直そうとしていた時に意識が少しずつ薄れていくような感覚に襲われた。敵機に囲まれていた事から考えると、あれは機体の空気循環機構から気化した何らかの薬品を流し込んだか……いや、まさか、いくら何でもそんな非人道的な手段を講じるか。でも現に僕はなんらかの手段で気を失っているわけだし……。


 いや、しかしなるほど、そんな手を使って来るような相手だったというわけだ。

 僕の(なり)を見るからにそれなりに手荒な事はしているみたいだし、やはり賊扱いされて然るべき相手だったというわけだ。


 僕はパイロットスーツ姿を着たままで手錠で拘束されて、四方をコンクリートで固められた部屋、恐らく独房に閉じ込められている。

 部屋の角にはあからさまに監視カメラが2基、それから鉄格子の電子扉。ベッドは無く毛布が畳んで部屋の隅に置いてあるだけ。あとは低いパーテーションで区切られたトイレ……一応清掃はされているようで安心した。


 それからしばらくして監視カメラで僕が目覚めたのを確認したのだろう、武装した部下を2名引き連れた女が牢の前にやってきた。

 腰まで伸びる黒髪を側頭部で結い上げた東洋人と思しき女だった。160cm台半ば程の僕の身長より少し小柄で一見、線は細く見えるけど身のこなしと姿勢。何より隙のない眼光を放つ瞳。明らかに腕に覚えのある(つわもの)の目だった。


「……目ぇ覚めた?」

「……」


 鉄格子の向こうで女が腕を組んでそんな事を聞いてきた。歳の頃は20代前半か。そんな事は見れば分かるだろ。そう思ったけど、女のその言葉が日本語だった事に驚いた。

 

「……分かんない? じゃあ英語ならどう?」

「……」

「まぁいいわ。……今から尋問するから。部屋を移動するけど変な動きしたら痛い目見るから」


 今度は幼さすら残るその声で流暢な英語でそういうと部屋のロックを外して、引き連れていた明らかにガタイの良い自動小銃を携えた男が部屋の中に入ってきた。女も腰のホルスターから拳銃を抜いて油断のない視線を向けてくる。

 全員しっかり銃の安全装置を解除している辺り、その言葉がただの脅しではないという事が計り知れた。


 現状の打開を目論む心算だけど、行動するのは今じゃない。とりあえず、今は言う通りにしておこう。

 あからさまに尋問って言ったよな、コイツ。どんな事されるんだ……。そう思うと憂鬱なんて言葉で済ませられない程に気持ちがブルーになった。





「で、あんたの名前は」

「あなた達は何者ですか」

「質問に答えて」


 簡易テーブルの前の折り畳みのパイプ椅子に座らされた僕の前の女の片眉が上がり、語彙が少しだけ乱れる。

 テーブルの上にはベタにスタンドライトがある。中学の頃に警察で事情聴取を受けた時のことが何となく脳裏に過ぎる。あの時とは状況が違い過ぎるけれど。


「あんまりふざけない方がいいわよ」

「……」


 女の黒い瞳が一瞬鋭くなる。


 心の中で、でしょうね。などと思って口をつぐむ。まぁ相手はコクピットにガスを流し込んだりしてくるような下劣な輩だ。戦争法などの概念があるとは思えない。気分次第で本当になにをしてくるか分からない。

 こちとら入隊すらしていない民間人なんだ、指の一本や二本くれてやる。なんて覚悟があるはずもない。この女の言う通り、あまり意地を張らない方がいいかも知れない。かと言って洗いざらい話すつもりもないけど。


「で、名前は」

「……コータ・アオイです」

「パスと一致。正直に話したわね。私はアスカ・ウエハラ。アンタ達に部下を殺された今すぐアンタを殴り殺してやりたくてウズウズしてるオンナよ。よろしく」

「……」

 

 そう言いながらパッとテーブルの上に放ったのは、僕のアカデミーの学生証。タブレットケースに一緒に入れて持ち歩いていた物だ。作戦前にシートの下のアメニティボックスに放り込んでいたっけ。

 この女、最初から僕の名前を分かっていて正直に証言するのか試したって事か。多分、下手な事を言ったらタダじゃ済まない。この女はそういう雰囲気を纏った女だ。

 

「いくつか質問するからしっかり答えなさい」


 そういうとアスカと名乗った女は軍服のボタンを一つ外した。


 そう、彼女らは軍服を着ていた。

 見たことのない軍服だけど、それは彼女らが軍に在籍している事を示していた。


最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!

少しでも面白い! 続きが読みたい! と思っていただけたら、

『ブックマーク』と広告下の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にしていただけると幸いです!


評価ボタンは、モチベーションに繋がりますので、何卒応援よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 主人公にはテロリストのやった非道ぶりを 少しくらいは皮肉ってもらいたいですな、、、
[一言] なるほど、リオちゃんの援護射撃からコータ君が復帰出来なかったのは相手側がパイロットの無力化計ってたからなのか… 手段を選ばないにも程が有るだろ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ