03-12.出撃
パイロットシートに座るとすぐにヘルメットのバイザーを下ろして“ワルキューレ”のOSとリンクさせる。すると様々な情報がバイザーに映し出されていく。
これは全て360°モニターに表示されている情報であるので、その多くの数値が重複してしまっている事にはなるのだが、全てこのバイザーに表示されるので情報の確認が素早く行えるような工夫がされている。
「……けど情報量が多いな。後でソフトのプログラムを書き換えないと」
僕は持ってきた自前のタブレット端末をシート下の収納ボックスに放り込むとヘルメット側面にあるスイッチで表示項目を減らした。
確かにハイテクだけど、表示が多すぎてこれは逆に目がチカチカしてしまうな。
エディータ隊の他の機体はアイドリングまで済ませており、いつでも発進できる状態になっているはずである。
しかしこの“ワルキューレ”は僕がいないと起動しない。正確に言えば、起動はするがメインエンジンに火が入らないので動かない。電気駆動のみであれば操縦席に誰か座って操縦する事も可能だ。その場合は非常に非力で、姿勢を変える程度の動きしか出来ない。つまりは整備用に設けられた仕掛け。
その状態にまで持っていってくれてさえいれば、後は起動まではすぐ出来る。
僕はコクピットのハッチを閉めると上部に現れた投影式コンソールパネルを操作して現在の状況を確認する……と同時に隣にいる“ティンバーウルフ”に搭乗しているメイリン准尉からの指示に耳を傾ける。
表示とメイリン准尉の言っている事はすごくシンプルだった。要するに、
『敵機を迎撃。深追いはするな、可能な限り撃墜して追い払え』
「了解しました」
基本的に攻撃力が高い“ハーリンゲン”だけど、懐に入られたら弱い。それは全ての艦に言える事だけど、そうなる前にMKが先鋒を務めて敵機の前進を食い止める。
敵の襲撃か、などと悪態をついて出撃準備に躍起になっているのは、北大西洋部隊所属の小隊だ。アンカレッジにて任務が終わったと気を抜いていたらしく、機体に対してパイロットの数が合わない。今頃艦のどこかで慌てて準備しているのか、あるいは。
何にしろ僕たちエディータ隊には率先して出撃せよとの命令が降りてきている。次世代MK2機を所有しているし、エディはもとより、メイリン准尉も名前が知れたパイロットだ。この艦で1番功績を上げている隊だと言っていい。機体の準備が出来次第、射出式カタパルトで出撃だ。
『ヤン・メイリン准尉。“ティンバーウルフ”行きます!』
『……エディータ・ドゥカウスケート少尉。“ブルーガーネット・リバイヴ”、出ます』
それぞれ名乗りを挙げて出撃していく味方機……だけど、あれ、僕もやった方がいいのかな、階級とかないから……って考えてる場合じゃない。
敵機を艦に近づけさせないようにしなきゃ。こうなったら見よう見まねだ。脚部をカタパルトに固定して、発進可能との合図であるシグナルがブルーになったのを確認して言ってみた。えーと、こんな感じかな?
「コータ・アオイ。“ワルキューレ”、行きます!」
次の瞬間、リニア式カタパルトの猛烈な加速による負荷が身体を襲ってあっという間に“ワルキューレ”は戦場に放り出された。
◇
僕は敵のこの襲撃のタイミングに違和感を感じていた。アンカレッジに要人、何かのコンテナを下ろした後。つまり僕たちは任務をしっかりと終えたという事だ。だけど帰路である現在、何者からかの襲撃を受けている。
襲撃をしてきている奴らの正体は今確認されている事実をつなぎ合わせていくと、以前ダリル基地を襲撃してきた輩の別部隊だろうというのは機体と肩のマーキングで確認出来た。
恐らくそいつらだと見て間違いないだろう。
要人、もしくは積荷がこの艦に乗っていない事はこの“ハーリンゲン”を観察していればわかる事だろうし、それは当然把握しているはず。
という事はそれらが目的ではない可能性が高い。多分、いや、多分というかほぼ間違いなく目的は“ワルキューレ”だろう。
破壊か、強奪か……敵討ちか。
いずれにせよこの“ワルキューレ”に用があるのを予想するのは難しくない。
そんな敵の目標になりうる機体をこうも簡単に出撃させてしまうのがこの“ハーリンゲン”のお偉さん方の思い切りが良いところというか何というか。
少し考えれば思い至りそうではあるけど、それが分かった上で出撃させている、と思う。
敵の目標だと分かっている“ワルキューレ”を出撃させたのは、単に戦力として評価してくれているのか。それとも、〝お荷物〟さえ吐き出してしまえば後はどうにでもなる。というところか。
出来れば理由の全てが前者であって欲しいけど、実際の所、艦の重要性からしてみれば囮を排出して搭乗しているクルーの安全を優先するのはすごく当然だと思う。
第4世代MKも確かに重要だろうけど、数百の乗組員の命の方がずっと大切なんだから。これは命が尊いとかそういう話ではなく、単に散々教育してきた兵士たちにかかった時間と金のことを考慮して。という話だ。
もちろん僕としてはその方がいい。
僕たちが戦っている間に大切なリオを少しでも安全な場所に遠ざけて欲しいから。
僕は右腕にフォトンライフルを装備させて戦闘が起こっているエリアに機体を向かわせていた。
先発の航空機やMK隊の戦闘の流れ弾が数発、僕の近くに着弾してくる。
その多くが実弾、だけど、中にはフォトンビームも混ざっている。やはり敵機の中に次世代MKがいる。
数は未出撃の機体を合わせると今のところこちらの方が有利、だけど機体性能ではあちらに分がある。
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