03-11.襲来
多数の小隊を載せた“ヴィーナス級”戦艦“ハーリンゲン”は第一目的地であるホワイトフォースへ出航した。
アメリカの西岸沿いが集合場所になっていたという事もあり、そのホワイトフォースまでは太平洋上を航行して北上する予定みたいだ。
“リトルダーナ”のような小さいものではなく、“ハーリンゲン”には大型船舶用のフライトシステムが搭載されている。けれど船体がかなり大型になるので高い高度まで船を持ち上げる事が出来ない。雲の上を飛行する事は出来ないけれど、航行は小型空母の“リトルダーナ”と比べるまでも無く快適で、速度も速い。
けれどやはりというのか、その船体は主砲やMK発射用カタパルトなど、戦闘を鑑みた設計のせいで航空機の様に航空力学を加味した作りとはほど遠い。
大型のフライトシステムの能力を最大限活かしているとは言いにくかった。これは僕の妄想……というか、仮定の話なのだけど、将来的に何らかの形で船体の正面に空気抵抗を抑えるための〝傘〟のような物を取り付ける事が出来れば飛行にかかるエネルギー効率も上がったりすると思うんだけどな。
真空に近い空間戦ならともかく、やはり空気や重力がある地上戦では空を如何に制するかが勝敗を分けると思う。とまあ、僕は戦艦の設計なんて全く分からないからこれは本当に妄想、ただの余談だ。
けれどやはり現時点で足は十分に速いようで、出発してものの数時間で目的地のホワイトフォースに到着した。
そこで本来の任務である要人を“ハーリンゲン”に収容して出発……とは、やはりいかなかった。
補給するほどの航行も、ましてや戦闘もしていないのに、初めからそうする予定であったかの様に弾薬などのコンテナに混ざって、ロゴも何も記載のない大型のコンテナがいくつも積み込まれてきたのを確認した。僕は蜘蛛のような六つ足が取り付けられた“キュー”で搬入の手伝いをしたから間違いない。
一つ一つのコンテナの大きさと数からしてMK一機分くらいはありそうだ。いやもちろん中身がわからないから僕の思い過ごしで全然見当違いの物が入っている可能性だってあるんだけど。
それならそれで全然いいんだけどね。それを狙った輩が来なければ安全な航海は保証されるんだから。
現状で乗っているクルーのどれだけの人間がその実験機の存在を知っているか分からないけど、どれだけ秘密にしていても敵は何らかの形で情報を仕入れるだろう。
少なくとも軍を相手取るような相手だ、そのような情報を仕入れるコネクションは持っていると見て間違いないだろう。逆にそれがわかっているからこその護衛なんだから。当方を束ねるのもやはり戦というのを熟知した軍部であるという事なんだろう。
情報が漏洩しているであろうと予想してそれに対して手を打って行かなければ事は回らない。
しばらくホワイトフォースの街に停泊していた“ハーリンゲン”は、数時間の搬入作業を終えて航路を西へ向け、一路アンカレッジに向かって出発した。
アンカレッジは北アメリカ大陸のほぼ西端に位置する大きな港町で、戦艦などを製造する大きな造船所や、近年では軍が独自に手掛けるMKの生産工場もある。
アークティック社をはじめ、外部の企業に製造委託しないのは恐らく技術を独占したいがためだろう。
MK製造会社は世界中に数社あるけど、その多くが国際連合軍とレイズどちらにも機体を販売している。
そのような企業に国を代表するような機体、つまりはフラッグシップ機になり得る機体のノウハウを知られないようにするために自軍の工場で製造される。
この新型機製造計画においては見事にその思惑が当たって素晴らしい機体が生まれる事になる。
つまりは、それだけ高い技術が生み出されつつあるのだから、それを横から奪おうという輩も当然いるだろうとそういう事だ。
それだけで必ず奪いにくると決めつけるのは確かに早計だけど、もしそうだったとしてと仮定して予防線を張って考えて行動していかないとダリル基地襲撃のときみたいに後手に回ってしまったら痛い目を見るのはこちらだ。
大丈夫だ、襲撃者なんか現れない。と楽天的に考えられるほどあの事件から時間は経っていないから。
うちの機体だけでも調整は万全にしておかなきゃ。そう思って手が空いた時点で各機体の調整をしているとリオ、それにロイ軍曹やミーシャさんが手伝ってくれた。
声をかけて居ないのにこうやって万一に備えて手伝ってくれる。今は補給作業が未だ終わっていないのでどちらかというと艦内に流れる空気はゆったりとしているけど、それでもだ。
他の小隊のクルーを見てみても少しダラっとしているように見えるのは仕方ないだろう、あの人たちもプロだ。有事の時は動いてくれるだろうし、やる事はしっかりやっているはずだし。
◇
その後、再び出航した“ハーリンゲン”は僕の予想をいい意味で裏切って、アラスカ半島にある町アンカレッジに到着した。結果からいうと、敵国やそれに準ずる輩たちからの襲撃は一切なかった。戦艦での輸送が抑止になったのかも知れない。
要人と積荷を下ろして、僕たちの任務は半ば終了。現地に召集され、待機していた別部隊に引き継いで、“ハーリンゲン” 部隊は意外とあっけなく解散となった。
中にはアンカレッジの街で現地解散する小隊もあり、部隊は往路よりも結果縮小された形になった。MKの数で言うと半分以下くらいだろうか。
でも要人と積荷の護衛任務は終わった訳だからそれもさして問題ではない。あとは安全に帰るだけ。
そう、任務を終えて人員が少なくなったそんな時にこそ襲撃者が現れる。
気が抜けているだろうと、兵力も落ちているだろうと。
まさか。むしろ“ハーリンゲン”の艦内の雰囲気はむしろ逆で、兵力が落ちた分自衛しなければという危機感が生まれていた所だ。伊達に大戦経験者が多数在籍していない。
鳴り響く接敵警報の中でパイロットスーツに着替えた僕は廊下を駆け足で走っていた。向かう先は格納庫。正式な緊急発進はこれが初めてだな。
けど僕がMKに乗り込む時はいつもこうだ。サンクーバの時も、ダリル基地の時も。だからなのか僕はすごく冷静でいられた。
「コータ、ヘルメットを」
「ありがとう」
「気をつけてね」
「うん、行ってくるよ」
短く、けれどしっかり目を合わせてそう会話をした相手は作業服に身を包んだ僕の大切な人、リオだ。
そう、僕はこの場所に帰ってくる為に全力を尽くさなければならない。帰ってこれる場所を守り抜かなきゃならないから。それが僕の活力になる。
ハーフタイプのパイロットヘルメットのストラップを顎下で固定した僕はリオと拳を合わせてハンガーを走り抜け、コクピットに向かった。
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