03-09.理由
「整備補助員? リオが取ったの?」
「うん。えへへ、驚いた?」
うん、いや、驚いた。すごく。
週に何回か行っている整備補助もあくまでもアルバイトとしてやっているだけだと思っていたから。
僕に付き合ってくれているだけで、リオ自身がそんなに資格を取るほど熱を入れているとは思わなかったから。
パイロットになるためには機体に関する知識はそれなりに必要になるし、勉強の為かとも思っていたけど、整備が楽しくなったからなのかな?
その旨をリオに伝えると、彼女は少し笑ってから首を振った。
「整備は嫌いじゃ無いし興味もあるよ。でもそれ以上に、少しでもコータのそばに……いたかったから」
「……リオ」
最後の方は顔を赤くして、けれどもしっかりと口にした。こんな僕と一緒に居たいだなんて言ってくれるリオがすごくいじらしく、何より愛おしく思ってしまう。
パイロットになるという夢を追う最中のリオ。そう、リオは未だ夢への道を歩んでいる段階だ。現段階で成績優秀だとは言っても、それはアカデミー一年生としてでの話で、操縦技術はまだまだ発展途上だ。そんな彼女が僕と同じ時間を少しでも増やすにはどうしたら良いか考えた結果、僕と同じ整備補助員の資格を取得するという方法に行き着いたんだ。
そして何よりもその翡翠色の瞳の奥に秘められた真意。その優しさに僕は心を打たれていた。
「私、コータの力になりたい。サンクーバの時も、クルスデネリの時も、何も出来ずにただコータの無事を祈っているなんて嫌……出来ない」
力になりたい。それは今まさに僕がリオに対して思っている事だった。
あの日、何も出来ずにリオの背中に守られて、ただ隠れていた無力な自分。そんな何もできない僕なんかを守る為にリオは命を差し出した。そうさせてしまったのは僕が無力だったせいだ。
今でも度々思い出すあの無力感。
あの時に僕に戦う力が有れば、術があれば、能力があれば。勇気が、あったら……。
それが、その後悔が今の僕の動力の全て。リオを助けたい。そして自分があまりにも無力だった事が許せない。
もしかしたら今のリオはそれに近い感情を抱いているのかも知れない。幼馴染だからといってリオの気持ちが全部手に取るように分かるなんて事はないけど、それでも彼女の瞳にはそんな強い意志のようなものが秘められていた。
「この間の事も。エディータ先輩があんなになっちゃう事故って何? いつの間にかコータがパイロットになっちゃってるし……ちょっと普通じゃないよ。」
前日のダリル基地襲撃の事は上層部の思惑があって詳細は情報統制が取られた。国際連合を事実上統括する国の内地にある基地が襲撃を受けて、ましてやエースパイロットの1人が墜とされる寸前まで追い込まれただなんて、あまりにもショッキングだし。
ある実習中に事故が起こった。そういう事になっている。あの事件で怪我をしたのはエディだけではもちろん無いし、命を落とした兵も二桁にのぼる。
そんな大きな事件でもやはり国際連合軍ほどの大きな組織にかかれば情報を隠匿するのは比較的簡単らしい。少なくとも僕の周りには真相を知るものは関係者以外ではいない。
けれど、エディが大怪我をした。“ブルーガーネット”が大破した。そして何故か僕が“ワルキューレ”のパイロットになっている。
明らかな異常が僕の周りで起こっている。リオが違和感を感じないはずがない。けど彼女はそれを表に出す事なく、ましてや詮索もする事なく今まで通りに接してくれていた。
彼女なりに感じて考えて、僕たちの事情を恐らく推測して、彼女なりの考えに行き着いたんだと思う。
「次の作戦に私も同行出来るようにヨナにお願いしたの」
「え、ほ、本当に……?」
そしてリオはリオが出来ることを一生懸命に、健気にやって形にした。それが整備補助員として、僕たちの作戦に同行するということ。
アカデミーでの授業もあるのに、リオはそれでも僕といる事を選んでくれた。僕はリオのために、そして多分リオは、僕のために。
それがすごく嬉しかった。
作戦に同行するなんて当然だけど危険が伴うはずだ。それでも、僕の心は温かくて。だからこそリオが一緒に来てくれる事が楽しみになっていく。僕は思う。
今の僕にはリオを守る手段がある。
幸いにも僕には専用機“ワルキューレ”がある。パイロットとしての腕はまだまだだけど、最新鋭機である“ワルキューレ”は世界最強、とまでは言わないまでも、恐らく現段階で存在するMKには遅れを取らないはず。少なくともスペックでは。
リオが作戦に同行してくれる。パイロットの夢を追いながら、同時に僕のことまで追ってきてくれるなんて。こんなに嬉しい事があるのか。
ああ、ダメだ。本当なら危険だからと言って考え直してもらわなきゃいけないのに、すごく楽しみで、ワクワクしてきてしまう。
そして胸に広がる責任感と使命感と、心地よい緊張感。
リオの素直な気持ちを感じられて、僕はリオを心から好きなんだと実感した。
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