03-08.要人護衛
エディとの模擬戦を終えて“ワルキューレ”と“ブルーガーネット・リバイヴ”の最終調整が終わった頃、僕はE.M.Sから再びエディータ隊に出向して次なる作戦に同行する事になった。
目標はあのダリル基地を襲った賊の討伐……ではなく、要人の護衛、らしい。
この間の事件の仇討ちを出来るかと思ったけれど、そうそう上手くは行かないらしい。正直、今回は少しそれが叶うんじゃないかと期待してしまった。
というのも第4世代MKを用いてダリル基地を襲撃してきたあのテロリスト共のアジトのおおよその位置を推算出来ていたからだ。
ソースは前回の戦闘の際に回収した機体のデータから抜き出すことに成功した。
と言っても回収した機体に残っていた暗号化されたデータを読み解く事は非常に困難で、アジトそのものを特定するには至らず、おおよその場所、もっというと多く活動していたであろう範囲を算出するにとどまった。
まぁ今までのようにいつ出会うか分からずウロウロしているだけの頃に比べたら十分すぎるデータだ、というのはメイリン准尉の言葉である。
それ以前にエディータ隊は既に奴らと一度遭遇して戦闘を行っている。メインの活動エリアを慎重に捜索すれば遭遇する事も十分に考えられるだろう。
とは言っても任務は任務。今回は“リトルダーナ”のような小型空母ではなく、中隊規模が収容出来る戦艦に派遣される予定だ。
E.M.Sから派遣されるのは3名で、パイロットは僕とジム、整備士はミーシャさん。
ジムはいつも通りに“ティンバーウルフ”に搭乗して僕は“ワルキューレ”に乗り込む。
戦艦に搭乗するのは人生で初めてだから少しワクワクしてしまうな。
それにしても要人の護衛に戦艦が出払うなんて少し大袈裟じゃないか?
っていう事から察するに要人の護衛なんてのは恐らく方便で、本当はもっと大切な物を運ぶに違いない。例えばそれは、国際連合が独自に開発を進める次世代MKの実験機、とか。
次世代MKのプロトタイプ。それはあの忌まわしい虐殺テロの際にガーランドが乗った“ダリア”や、リオに割り振られた“ライラック”、そしてエディ等が駆っていた当時の最新の機種。
もちろん僕が睨んでいるのはその機体そのものではなく、その機種を開発する為の実験機。試作機になる前の状態の機体ではないかと思っている。
これでも1周目の頃からMKの事はかなり調べていたので、大体この時期には実験機が出来ていたと推測出来る。その懸念があっての今回の依頼。その依頼内容に見合わない部隊編成。出発場所も新型MKの研究がされているとされるカナダのある街だ。
もちろんそれはこの頃は秘匿されているけど、新型発表とほぼ同時に開発工場などその手の情報が解禁されたので運良く僕はその情報を掴んでいた。当時のリオが乗り込む機体“ライラック”の事が知りたくて、わかることはとにかく調べ抜いたつもりだ。
今回の真意は確認するまで分からないけど、十中八九そうだと思う。じゃ無いと護衛にしても余りにも過保護すぎる。
でも僕みたいに事前情報がないとそんな事は思い至らないだろうと思う。だから恐らく戦艦に乗り込むクルーの多くは要人の護衛という任務を信じているだろうし、実際に研究に参加している博士級の人物も輸送するんだろうと思う。
そして、武装した戦艦による護衛が必要だという事は、そういう事も起こり得るという事だろう。前回の一件のこともあるし、いつでも飛び出せるように用意はしっかりしておこう。
こういう時に自分の機体を自分で整備出来るって良いな。それが終わったらエディの機体もメイリン准尉の機体も最善の整備をしておこう。
とそう思って、僕がE.M.Sにある格納庫で居残って“ワルキューレ”の機動プログラムの編成を考えていると、誰かが作業用足場を歩いてくる音が聞こえた。
この足音。自分の仕事は随分前に終わっていたはずなのに、僕を待っていてくれたのか。
しかも待っている事を僕に告げず。きっとそれをすると僕が作業を急いでしまって気をちらせてしまうかも知れないなんて思ったのかな。全然そんな事無いのに。むしろ早く一緒に帰りたくて作業を頑張れるはずだ。
近づく足音に僕は振り向かず声をかけた。
「リオ、待っててくれたの?」
そう言ってから振り向くと、コーヒーカップを持ったリオと目が合った。
大きな翡翠色の瞳を見開いて驚いているようにみえる。
「どうして私だって分かったの?」
なんて言ってカップを差し出してくれた。僕の作業がどれくらいで終わるのか予想、計算してたのかな。完璧なタイミングだよ、さすがリオ。
数ヶ月前に始めた整備補助のアルバイトも随分板についてきた。アカデミーでは相変わらず学年トップの成績だし、要領が良いんだろうな。
「リオの足音は分かるよ、何年一緒にいると思ってるの」
「ふふっ、そっか。なんか嬉しいな」
折りたたみのコーチングチェアを広げて僕に座るよう促してくる。仕事後のリオと雑談か、最高の癒しだ、断る理由なんてない。
僕は暖かいコーヒーカップを持って腰を据えてしばらくリオと雑談した。するとあるタイミングでリオは少しだけ言いづらそうに、切り出した。
「あのね、コータ。私、整備補助員の資格を取ったの」
と。思わず僕はカップを落としそうになってしまった。
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