03-06.新人証
新型“ブルーガーネット”の最終調整を行うため、MK同士による模擬戦が行われる事になった。
ダリル基地周辺に限らず、アカデミーにも実機戦闘訓練が行えるエリアが多数存在する。広大な土地があるアメリカ大陸ならではだ。日本の北海にある防衛学園にも比較的広い実習エリアはあったけど、ここまでの規模では無かったから。
「エディ、一通り機体の説明はしたけど分からない事はないですか?」
「……ない、はず」
僕がそう言うとパイロットスーツ姿のエディがいつも通りむっつり顔で頷いた。表情こそ毎度のことながら変わらないけれど、新しい愛機に乗るのが少しだけ楽しみにしているように感じる。
設計の勉強は今までもしていたけれど、僕にとってこれは初めての設計の仕事だ。上層部の意見よりも末端のクライアント、つまりパイロットにだけは気に入って欲しかった。だからこうして嬉しそうにしてもらえると嬉しい。僕は心の中で胸を撫で下ろした。
「分かりました。フォトンビームジェネレーターのモード切り替えはスティックの4番スイッチを。それとクロー・アームも模擬戦用にゴム製にしてあるから攻撃に使って大丈夫なので色々試してみて下さい」
「……」
MK同士の模擬戦に於いては、実弾でもペイント弾でもなくゴム弾が用いられる。
実弾のデメリットは語るまでもないが、ペイント弾の場合は後の掃除が非常に大変で特に整備士から嫌われていた。それに、被弾箇所が外の人間からは見えるけど、パイロットにその情報が行かない。場合によっては、いわゆるゾンビ行為になりかねない自体に陥る。
しかし最近はゴム製の銃弾が普及して後始末がかなり楽になった。銃弾の再利用も可能だし。
それと当たり判定も弾頭に忍ばせているチップにより容易に行える様になった。それぞれの機体のOSとリンクさせる事により、被弾箇所をすぐさま確認できる他、被弾箇所の機能を停止させ、ダメージを受けた状態を再現することが出来る。
しかしそれは第3世代MKの模擬戦まで。新型“ブルーガーネット”は機銃は装備してはいるけど、主兵装は前腕部のフォトンビーム砲だ。殺傷能力のないフォトンセイバーを展開できるジェネレーターは開発されているが、次世代装備のフォトンビーム弾を発生させる事は叶わなかった。
けれど発砲情報を自機や敵味方役の機体で共有する事で、視覚的情報を360°モニターに反映することが出来た。
つまりは実際にフォトンビームを放ってはいないけれど、まるで本当に撃ったかのようなエフェクトをコクピットモニターに投影出来る、という事だ。
新しい機体名をつけた方がいいかとも思ったけれど、エディ自身が“ブルーガーネット”という機体に思い入れがあるみたいだったし、僕自身も“ブルーガーネット”という名前は好きだったので、少し長くなるけど“リバイヴ”で補足する形にした。
外見は前の“ブルーガーネット”とは似ても似つかないけど、フレームは腕部以外は転用しているんだ。少し恥ずかしい言い方だけど、物に宿る気持ち、みたいなものはしっかりと受け継がれている。気がする。
孤児院施設の先生の教育の賜物かななんて思う。僕が育った国では何者にも神様が宿るなんて話もあるらしく、今までそうして育てられたから。
もちろん今回の旧式“ブルーガーネット”のフレームが使えたから使っただけで、無理なら普通に諦める。必要で無ければそうする事も出来ないけれど、出来るだけそういうのは大事にしていきたい。
こんな僕の思いもパイロットありきの考えだ。
パイロットがそういうスピリチュアルな物を好まない場合は僕もこだわるつもりはない。
けどエディは僕の気持ちに賛同してくれた。
「……お手柔らかに」
エディはハーフタイプのパイロットヘルメットを片手に装いを新しくした愛機“ブルーガーネット”改め、“ブルーガーネット・リバイヴ”の元へ向かった。
お手柔らかに、か。それは僕のセリフなんだけどなぁ。
そう、今回の模擬戦の相手は僕だった。
実は次のエディータ隊の作戦に同行する事が決まっているんだけど、銃撃事件以来、色々な制限があったりしてまともに“ワルキューレ”に乗れていない。
そういう意味では“ワルキューレ”に乗れる機会を作ってもらえてありがたいんだけど、エディが相手ってどうなんだろう。
二つ名がついている様なエースとつい先日ライセンスを取得した僕が戦いになるのか?
この後の戦闘ではなんとか戦えたけれど、それはこの“ワルキューレ”があったからだと思うし。いや、模擬戦をするだけなら良いけどね、ただの練習だし。シミュレータ訓練では何度も手合わせしているけど、エディから一本も取った事無いんだよね。
機体に新人証でも貼っておこうか……いや、それは流石に無いか。
この後“ワルキューレ”の元に向かっていた途中に、シャルが「“ワルキューレ”に新人証貼らなくていいのかよ」と言って揶揄われた。
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