03-03.食事会
ライセンス試験を終えた週末。
僕たちはE.M.S敷地内にあるヨナの実家で合格祝賀会と称した食事会を催していた。
祝賀会などと堅苦しい名前がついてはいるけど、全ては建前でプール付きの庭でバーベキューがしたいと言い出したのはシャル。それに賛同したのは、リオ、ヨナ、エディと非番のメイリン准尉。そしてミーシャさんだ。
もちろん祝ってくれる気持ちはみんなあるだろうが、やはり年齢相応に騒ぎたい時もあるというもの。
それに今日はエディの快気祝いも兼ねている。
まだお腹の傷は完治はしていないけれど、処置が早かった事が功を奏してこのような早期に退院する事が出来た。担当した軍医さんも素晴らしい腕だとは思うけど、何よりメイリン准尉の適切な応急処置のおかげだと僕は思っている。でも、
「……おにく」
「ダメですよ隊長、消化に良いものを摂って頂かなくては困ります。まだ快調にはほど遠いのですから」
「……しおけ」
「ダメです。塩分が多い食事は内臓に負担をかけます。治癒力の低下に繋がりかねませんのでご辛抱下さい」
「……」
シャルが押す車椅子に腰掛けているのはエディ。そのエディに対して人差し指を突き出して注意をしているのは副官のメイリン准尉だ。あ、エディがしゅんとしてる。
入院中の食事が味気ないモノが多かったせいなのか、お肉や味が濃い物を摂ろうとするエディを嗜なめる。
一方でエディの膝の上のトレイにはジャンクからは程遠い食事が乗せられている。
それはそれで美味しそうなんだけど、まあ目の前にあればそりゃ食べたくなっちゃうよね。
あ、エディと目が合った。
「……」
「そんな恨めしそうにみないで下さいよ、エディ」
「……おにく」
ううん……連れてくる時にメイリン准尉が食べ物は制限されるとよほど言って聞かせたはずなのになぁ。けどこうも焼けるお肉の匂いが漂っていれば、抑え込んでいた欲求の蓋も開いてしまいかねない。
と、シャルが何処からともなく現れてエディの前にお肉を差し出す。
「あの、アタシのお肉食べますか?」
「……!」
「いやダメだよシャル、エディの為なんだから」
「アタシだって先輩の好感度上げたいんだよ!」
「こ、好感度? 何言ってるんだよ、ゲームのやりすぎだ」
「シャル、じゃあシャーベットなら良いんじゃない?」
「おお、ナイスだリオ! さぁエディータ先輩、アイスです」
「……アイス」
シャルはリオから受け取ったオレンジシャーベットをスプーンで掬ってエディの口元へと運んだ。すると、あー。と言って口を開けるエディ。
その様子をやれやれと言いながらも優しい表情で見守るメイリン准尉。
シャルがスプーンでシャーベットを取り口に運ぶ。そのスプーンにエディは無表情のままパクリと食いついた。
「……びみ」
「た、食べた……とうとうアタシはエディータ先輩に餌付けしたぞ、アタシは幸せモノだ!」
「ふふっ、餌付けって」
2人のやりとりを見てリオは目を細める。
なんだこの光景は、1周目の人生では絶対拝めなかった光景だよ。
なんだか人生ってどこでどうなるのか本当に分からないものだなって今更ながら実感していた。
1周目の人生において、エディとメイリン准尉は分からないけれど、リオ、シャル、エディの3人は交わっていないはずだ。けれどこうして同じ時を楽しそうに過ごしているのを見ると、人の流れひとつで人生って簡単に分岐するんだなって思えてくる。
思いを巡らせていると、メイリン准尉とミーシャさんに声をかけられる。
話の流れで先日の襲撃で大破した“ブルーガーネット”の改修案の話になったみたいだ。
どうもメイリン准尉の改修案と実際整備するにあたっての技術的な食い違いが発生しているようで、理想と現実の擦り合わせが必要な様だった。
「……というふうに改修したいんだが、どう思う?」
「なるほど、そうですね……」
メイリン准尉の改修案というのは、つまりエディの特性をよく理解した彼女が考えた案なのだからパイロットの力が引き出せる様に考えられている、つまりは理想が詰まったプランだ。
一方、ミーシャさんの案は整備士としての経験と知識を踏まえたプラン。話を聞かせてもらったけれど、部品調達のし易さや装備の安定性などを加味した意見で同じ整備士としてはすごく納得のいく内容だった。
「僕は……って、僕の意見なんかより整備主任の意見は……って、整備主任はあの人でしたっけ」
そう、肝心の整備主任は襲撃の当日、イグニッションキーを投げて寄越したあの大尉だ。無責任なヤツの意見など聞かない方がいい。
メイリン准尉は練りに練って完璧な状態の改修案を整備主任の大尉を通さず、上層部に直接打診するつもりらしい。確かにあの大尉にプレゼンしても意味がなさそうだしね。
「それでコータ、キミはどう思う?」
そうメイリン准尉に聞かれて僕は唸り声をあげる。パイロットとしてはメイリン准尉の案、整備士としてはミーシャさんの案。双方とも自身の主張のみにならない総合的な主観のもとに考えられたプランだったため甲乙付け難し、と言った所だ。
しばらく3人で議論していると、きゃいきゃいとしたガールズトークをしていたリオとエディの車椅子を押したシャルがやってきた。
「……図面」
「図面? 僕に描けるか、って事ですか?」
「……」
エディが頷いてる。どうやら正解みたいだ。けど僕に図面か。
このままじゃ埒があかないと感じたのか、エディがそんな事を言った。意外な言葉にたじろいでいるとリオがそういえば、と言う。
「コータ、この前機体の図面描いてなかった? ふふ、すごく楽しそうにしてたよね」
「確かに描いていたけど、あれは……」
あれはアカギ教授が開発を進めている試作1号機と2号機の設計図を元に僕なりに描いてみた図面だ。夢と理想のみを詰め込んだ図面で、遊びではないにしろ現実的ではないものだ。
「……描いて欲しい」
まぁ描けない訳じゃないし、この場を収める為にも一度描いてみようかな。今後の勉強になるし、なにより自分の思う“ブルーガーネット”を描けるなんて少し面白い。
僕の返事を聞いてエディは満足したように頷いた。
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いつも当作品をご愛読頂きまして、ありがとうございます。
とうとう私にも流行り病の魔の手が……高熱にうなされております。
私と致しましては毎日更新を続けていきたいのですが、いや、これはなかなかに辛いですね。
続きを楽しみにしてくださっている読者様になるべくご迷惑はおかけしたくないのですが、途切れてしまったらその時はどうかご勘弁下さい。
もちろん回復次第、連載再開致しますのでご安心下さい。
これからもどうか変わらぬご愛顧賜りますよう、よろしくお願いします。