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03-01.ライセンス試験

ご覧いただき、ありがとうございます。

今回より第三章が始まります。

どうぞよろしくお願いします。



「今日はここまでにするか」

「や、やっと終わったぁ……」


 待ちに待ったその言葉を聞いた僕は崩れ落ちるように整備用ハンガーに倒れ込んだ。

 

 第4世代MK(モビルナイト)の筆頭、“ワルキューレ”がE.M.Sの格納庫に来てから8日が過ぎた。連日、深夜までの作業が続いている為に僕の疲労はピークに達している。


「おかげさまで手当がガッポリだ。来月生まれてくる子供にたくさんおもちゃを買ってやれる。まぁ立ち会いは無理だろうけどな、こんな手間取る仕事がいきなり舞い込んで来たんだしな」


 突っ伏した僕を跨いで歩き去るのは月に本社を置くMK(モビルナイト)開発の大手企業、アークティック社の“ワルキューレ”のプログラムを担当を勤めたファジル・ライマ氏。

 彼は少し皮肉っぽく言うとスタスタと足場を降りていった。元々ヘソの曲がった性格などではないけど、僕が“ワルキューレ”のOSにパーソナルデータを書き込んでしまったがために彼は月に帰れなくなってしまっていたから。


 いや、まぁパイロット登録の解除は大変だとは思っていたけど本当に大変な事になってしまった。まさかプログラムを組んだ本人がそこまで苦労するとは思わなかった。


 お前のせいだからという理由で学校帰りに解除作業を手伝わされている。彼は僕が学校へ行っている間はずっと宿でゴロゴロとしているだけらしいので丸々8日掛かっている訳じゃないんだけど。


 それで全く解除できる見通しは立たない。むしろもう無理だろうという話になっているみたいだ。

 最悪、コクピットごと交換してしまうかという話にもなるかも知れない。そうなれば月に持って帰るか、地球にある支社で新たにコクピットブロックを作製するかになるだろう。


 作業中、小言を8日間も言われ続けてきたら一周回ってもうどうでも良くなってくる。


「だから一回きりだと言っただろ。お前の耳は飾りか」

「も、もうなんとでも言って下さい……」

「開き直ってんじゃないぞ、まったく」


 と言いつつも彼は事件発生時は基地にいたし、事情は全て分かっている。緊急事態だった事はわかるし飲み込むが、愚痴くらいは言わせろと、まぁそんな所だ。

 僕も僕なりに反省しているつもりだしだからファジルさんも小言を言うにとどまってくれているんだけど。


「と、2人共お疲れ様。けどもう作業はしなくていい」

「え? どういう事、ヨナ」


 ヨナはコーヒーの入ったカップを僕とファジルさんに手渡してから脇に挟んでいたタブレット端末を開いて僕に手渡した。


 暗号化して送信されてきたメールを表示させるアプリが起動していた。メールの送信先は国際連合軍だった。内容は、


「僕を正式に“ワルキューレ”のパイロットに任命する!?」





「シミュレータ試験の方は【B】か、ギリギリだな、コータ二等兵(・・・)

「あ、いや、僕は新兵では……」


 僕の試験結果が載っているであろうファイルバインダーをパタンと閉じて眉根を寄せて訝しげな視線を送る試験官。いや、だから僕は軍に入隊した訳じゃないんだよ……。


 正式に“ワルキューレ”のパイロットに任命された僕はMK(モビルナイト)搭乗ライセンスを取得する為に試験場に来ていた。


 “ワルキューレ”に登録されたパイロットのパーソナルデータの書き換えを試みたけれど、前にも述べた通りプログラムの開発者でさえそれは非常に困難、もっと言えばほぼ不可能だろうという結論に至りそうだった。


 そこで軍は僕の戦闘データを精査した結果、僕をそのままパイロットとして起用しようとなった。

 軍直属ではなくE.M.Sが間に入ってくれているのはヨナの配慮だろう。企業であるE.M.Sが間に入ってくれれば無茶な依頼や命令などのフィルターになってもらえる。

 

 無理に命令を通そうとすれば、多数の民間軍事会社が所属する組合をも敵に回す事になりかねない。

 この場合の敵とは、傭兵の派遣など依頼を断られたりするという事だ。傭兵などが雇えないともなれば軍の力は多少なりとも減退してしまうからね。


 E.M.Sから軍に派遣される形という事に今までとは何も変わらないけれど、整備補助としてではなくパイロットとして派遣される事になる。

 ともなれば国際連合が定めるMK(モビルナイト)の操縦ライセンスが必要となる。幾つかあるライセンスの中でも最も難しいとされるA級ライセンスが。


 1周目の時に取得したライセンスはMK(モビルナイト)を整備の為に移動させる程度の資格だったから、A級ライセンスなどは未知の領域だ。


 これを持っていなきゃMK(モビルナイト)の操縦を伴う任務に就くことが出来ない。……事になっている。

 そうそう易々と取れる資格ではないので、こうして僕みたいな学生が挑戦するのはそれなりに珍しい事ではある。


 それこそエディは13歳で取得したらしいけどね。異例の速さだ。


 試験官の男性はぽっちゃりとしたお腹をさすりながら黒ぶちメガネを直した。そして口端を片方だけ上げて言う。


「さっさと終わらせよう。お前みたいな子供に取れるような資格じゃねぇよ」

「え」

「俺はベンチプレス、デッドリフト、スクワット120Kg超え出来る人間だけど取得には至らなかった」

「え、は、はぁ……」

「ケンドーも3段だしな」

「……そ、そうですか」

 

 なんだろう、なぜかこの試験官の人がマウントを取りたがっているんだけど。

 ま、まぁ確かにMK(モビルナイト)の操縦には体力はある程度必要だとは思うけど。てか取れてないんかい。そもそも取れてないんならこのマウントの意味は……?

 というかライセンス持ってない人間が試験官ってどうなってるんだ。


 まさかとは思うけど、試験官の仕事に資格所持者を回せない程に人手不足なのか?

 いや、まさか。退役したパイロットとかいるでしょ。考えても答えは出ない。けど、軍のパイロット不足は深刻なようだ。

 この試験に一抹の不安は残るけど受けない理由にはならない。

 シミュレータ試験の後は実機試験だ。シミュレータ試験ではあまり良くない成績だったから、この実機試験で好成績を残さないと不味い。

 

「ここで落ちたりなんかしたらすごくカッコ悪いぞ……」


 あれだけMK(モビルナイト)で大暴れしたんだ、ライセンスが取れなかった、ではあまりにも格好悪過ぎる。


 少し気合いを入れて、僕は試験用の“ティンバーウルフ”に乗り込んだ。




最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!

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