02.1-03.幕間 ※エディータ・ドゥカウスケート視点
その“ワルキューレ”を狙ってダリル基地に賊が現れた。敵対する軍、レイズのものと思われたがそれは違った。
以前から問題視されていた神出鬼没の海賊、どうやら彼らの仲間らしい。
彼らはなんと次世代兵器であるフォトンライフルを全機に装備させていて、機体性能は“ブルーガーネット”の比では無かった。“ブルーガーネット”は第3世代MKの中では初期に製造された機種ではあるのだけど、それでも他の同世代MKに比べても上回る機体性能を持っている。
しかし海賊が持ち出したMKの性能は圧倒的で。
敵機に囲まれた私はなんとか抗ったけれど、それでも限界が来てもうダメだと思った。メイリンに今までのお礼を言っていない。そう思ったその時現れたのが、純白のMK“ワルキューレ”だった。
『准尉、エディータを!!』
『応っ! 隊長、こちらに!』
「……“ワルキューレ”」
私の前に立ちはだかった、あの背中の心強さ。
彼が、コータが来てくれたからもう大丈夫。そう思ったのだろう、大量の失血で気が遠くなりそうだった私は自ら意識を切った。もう気を失っても大丈夫だと思ったから。
次に目を覚ました時には事態が収拾した後だった。
「……!」
目を覚ました私の隣で静かに寝息を立てるのはコータだった。長いまつ毛に朝日が当たってキラキラと優しく輝き、すうすうと安らかな寝息を立てる度に程よく引き締まった胸板が上下する。
「……」
ふとクルスデネリで遭難した時の記憶が蘇ってくる。……記憶? いや、これは感触。
救命措置として行った人工呼吸。それは海水でとても塩辛くて、とても柔らかかった。
その時の感触を思い出すかの様に私は自らの唇に触れる。この唇が彼の唇に……。
薄い桜色の柔らかそうな、いや、その柔らかさはこの唇に残っている。柔らかいその唇に触れたい。そう、思ってしまった。
身を起こして、手を伸ばして彼のその唇に触れようとした時、
「……あの、隊長」
「……!? 痛っ」
「す、すみません!」
ベッドに横たわる私の傍ら、つまりはコータと反対側のベッドサイドにいたメイリンに声をかけられて驚いて身体が硬直する。と同時に腹部に鋭い痛みが走った。
そうか、目を覚ました時からコータの方しか見ていなかったから背にしていたメイリンの姿に気がつかなかったのか。
そこはかと無い恥ずかしさを感じながらも今の状況をメイリンから聞いた。
彼は大量失血により命が危なかった私に輸血をしてくれているらしかった。
見れば私とコータはカテーテルを通して繋がっている。彼の血液が自分の中に流れてきているんだと思うとすごく、ものすごく嬉しかった。
私を2度、いや、これで3度目か。それだけ命を救ってくれた勇敢な血が私の穢れた血を薄めてくれているみたいで……。
「……メイリン、私」
「はい、隊長」
「……コータと、仲良くなりたい」
「はい」
「……どうしたらいいの」
メイリンは顎に手を当てて少しだけ考えた。そして、
「ふむ。……ではまずは呼び方、でしょう」
「……呼び方」
聞けば友人同士は名前を呼び合うらしい。そうか、コータやリオ、シャルがそうだった。なるほど。それは確かに良い考えかも知れない。あれ、考えてみれば、私は彼らの名前を呼んだ事が無い気がした。半年間も一緒に付き合っているのに。
私が彼を呼ぶなら、やっぱりコータだろうか。
逆にコータになんて呼んで欲しいだろうか。彼は私をドゥカウスケートと呼ぶ。けどさっき、薄れていく意識の中で彼は私をエディータと呼んだ。そう、少し心が跳ねた気がした。
理由は分からないけど、彼にはもっと特別な呼び方をして欲しい。
特別な呼び方。
『――ディ……エディ……』
耳が聞こえるようになって初めて聞いた母の声。
母が呼んだ私の名前。
そう、それは私が初めて捉えた音。
ああ、そうだった。私は家族の為に、私を育ててくれた家族の為にここまで来たんだ。売られたからじゃない、私は家族に売られてなんていなかったんだ。
薄れる記憶。けど確かにそこにあった願い。
私が家族を幸せにする。
エディと呼んでくれた優しい家族を。これは私の、願い。
「……エディ」
そうコータが呼んでくれた事がとても嬉しかった。
心に広がる温かい感情。この感情がなんという気持ちなのか分からない。名前のわからないこの感情、それを教えてくれたのが彼で良かった、それが嬉しい。
だから私も初めて彼を呼ぶ。心を込めて。
「……コータ」
人はこの気持ちを何と呼ぶんだろう。いや、もしかしたらこんな気持ちになれたのは世界中で私だけかも知れない。それほどにこの気持ちは軽やかで、華やかで、心がぽかぽかする。
新しく覚えたこの感情。メイリンは知っているだろうか、感じた事があるだろうか。
今度メイリンに聞いてみよう。
羽根の生えた様な軽い心で私はそう思うのだった。
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