02.1-02.幕間 ※エディータ・ドゥカウスケート視点
カスタマイザーとは【レギュレータ】という薬物を投薬して戦闘能力を引き上げられた兵士を指す言葉だ。
身体的能力はもちろんのこと、個体差はあれど〝第六感〟とも言える感覚、相手の動きを予め予測出来るかのような兵士が稀に現れる。
私にもそのような兆候が見られているらしく、戦闘においてその感覚は非常に役に立った。
元々私の場合は相手の動きを読む力に長けていたのでそれと併せて、という事にはなるとは思うのだけど。
そんな人工的に引き上げられた力だと知りながらメイリンは私を慕ってくれた。
任務でもあっただろうし、もしかしたら薬漬けになってしまった私がかわいそうだから、なんて思いもあったのかも知れないけど。それでもメイリンは私によく尽くしてくれた。
研究施設で暮らしていた私は身の回りの事が一切出来ずに私生活は酷いものだった。
メイリンはそんな私を献身的にサポートしてくれた。掃除、洗濯、料理、入浴、成長に伴う身体の変化への対処、そして投薬に至るまで。看護師の資格を持つ彼女はカスタマイザー研究所からの特別任務を与えられていたとしても今まで私の人生においてどの人物とも違う接し方をしてくれた。
カスタマイザーであると知りながらもそう接してくるメイリンには本当に助けられた。
小隊長の任が与えられた私はふと思う。何故私なんかにそんな話がきたのか分からない。どうやら上層部が外部に対していい顔をしたいから、という理由があるみたいだ。
「国際連合にはこんなに若い女が小隊長をしているんだ」と自慢したいだけらしい。そんな事をして何になるのかは知らないけれど、軍にとってなんらかのプラス要因になるらしく、私はお飾りの隊長として活動する事になった。
それによって私の周りは急に賑やかになった。
コロニーにいた時からずっと孤立していた私にとってその変化は戸惑うものだった。何より一番苦労したのが、部下を持つ、という事の大変さだ。
お飾りの隊長だったとしても、与えられた部下は私の事は当然上官として接してくる。
「隊長、ご指示を」
「隊長、次はどうしたらよろしいですか」
隊長、隊長、隊長……。
指示を請われるのは良いけど、私は他人に思いを伝えるのが本当に苦手で、思うように言葉を紡ぐ事が出来ずにいた。
そんな私に部下たちが愛想を尽かしそうになっていた時に動いてくれたのが私の副官、メイリンだった。
常に私の隣に居てくれて、私の代わりに指示をしてくれた。その指示は本当に的確で私の思う通りの……いや、私の意見なんかよりも的を射たものが多かった。
そうしてくれることによって私は戦闘に集中出来る様になり、より効率的に作戦を遂行出来る様になった。
そんなある日、サンクーバに賊が現れたという知らせを受けた私たちは“リトルダーナ”を急行させた。
そこで私はコータと出会う事になる。
もちろんその時は名前などは知らなかったけれど、その時のインパクトはかなりのものだった。
こちらの動きの更に先を行く洗練された動き。いや、そんな言葉も恐らく当てはまらない。
それほどに彼の動きは予知じみていて、二手目をどう攻めるか決めかねたのは、あれが初めてではないにしろ幼少期から思い出しても直ぐには思い至らないほどに珍しい事であった。
その後、E.M.Sを介して新しい整備士として派遣されてきたコータは任務中に遭難した私を作業用ポッド“キュー”で助けてくれた。
けれど漂流した先で“キュー”のコクピットが浸水してしまい、コータは心肺停止の状態に陥ってしまった。人工呼吸と心臓マッサージで蘇生した時は本当に本当に心の底からホッとした。
その夜、私はレギュレータ切れによる発作を起こしてしまい、コータにカスタマイザーである事を悟られてしまった。
けれど彼はそれをなんとも思っていないかのように接してくれた。
私がカスタマイザーであると知っている他の人たちはものを見るような目で見るか、差別的な目で見てくるのに、今までより目をかけて……そう、まるでメイリンのように優しい目で私の事を見てくれる様になった。
私はコータの友人、リオとシャルと4人でシミュレータ訓練を行う事が増えた。3人は本当に仲が良くて私もその場に混じる事によってその仲間に入れた様な気がして楽しかった。
でも時々彼らは私の表情を心配そうに伺う事がある。特にシャルは何度も声をかけてくれて。
まぁそれも仕方がない。だって私は楽しくてもそれを表情に出したりするのが苦手だから。恐らくいつも鏡に映る時の様な冷たい表情をしていたのだろう。
そしてある時ふと気づく。彼がリオと仲良さげに話をしている姿を見ると心がどうも落ち着かなくなってしまうということに。
理由がわからなくてそれをメイリンに相談してみたら「じきに隊長にも分かるようになります」と言うばかりで理由は教えてもらえなかった。どうして理由を教えてくれないのかとも思ったけど、どことなく嬉しそうではあるから悪いものではないような気がする。
そんな時だ、私専用の機体“ワルキューレ”の配備が決定されたのは。
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